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【5位】異世界探偵エラーラ・ヴェリタス  作者: 王牌リウ
エラーラ・ヴェリタス短編集
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第20話:孤独の病!

私の名はエラーラ。私の興味を引くのは、常に、常識では説明のつかない「現象」だけだ。

今、私が滞在している芸術の都は、奇妙な「病」に罹っていた。それは、魂の病。「孤独恐怖症」とでも名付けるべき、集団的な精神疾患だ。


私は、広場に面したカフェのテラス席で、その病のサンプルを観測していた。

隣のテーブルに座る、若い男女。おそらく、今日初めて会ったのだろう。会話が、痛々しいほどにぎこちない。


「君も、やっぱり、夕暮れの空が、一番、好きかい?僕は、好きなんだ。あの、全てが、曖昧に……溶け合う、感じが…一人じゃない、って、思える、から」


男が、必死に共通点を探るように言う。


「え?ええ!わかります!私も、大好きです!」


女が、大げさなほどに同意する。


「一人でいると、あの空に、飲み込まれ、そうで、怖くなる時が、ありません…こと…?」


「そう、なんだ!同じだね!じゃあ、僕たち、もう一人じゃ、ない。ずっと、一緒に、この空を見て、いられる…」


面白い。彼らは、互いの共通点を探しているのではない。互いの「孤独への恐怖」という一点のみを確認し合い、まるで溺れる者が藁を掴むように、無理やり繋がろうとしている。実に、浅ましく、実に、浅はかだ。


この奇妙な集団心理が、私の次の研究テーマとなった。そして、調査を進めるうち、私は、さらに興味深い現象にたどり着いた。孤独を恐れるあまり、性急に結ばれたカップルたちが、次々と、揃って失踪しているのだ。


「フム…『孤独』という状態を病的に恐れる集団心理が、物理的境界を破壊する怪異を誘発している、と?これは、精神と物質の相互作用に関する、最高のサンプルじゃないか!」


調査の末、私は、失踪したカップルたちが、皆、秘密裏に行われている「魂結び」という儀式に参加していたことを突き止めた。その儀式を執り行っているのが、女司祭アマラ。


私は、あるカップルの儀式を、隠れて観測した。アマラは、恍惚とした表情で「個であることは、苦しみです。愛する人と一つになることこそ、至上の救済なのです」と説き、二人の額に、自らの血で紋様を描く。その瞬間、カップルの魂が、魔力によって、禍々しく混じり合い始めるのを、私は観測した。

この怪異を内側から解析するため、私は自ら儀式に参加することを決意した。酒場でやさぐれた傭兵を金で雇い、即席の「恋人」に仕立て上げる。


「君、恋人はいるかね?」


「いねえよ。一人の方が気楽でな」


「フム、この街では珍しいサンプルだ。だが、ちょうどいい。私と、恋人のフリをしろ。金は出す」


「はぁ?…」


「君も、心のどこかでは、孤独に怯えているんだろう?その恐怖を、私が一時的に癒してやろうじゃないか。実験のついでにね」


アマラは、孤独を恐れる男女が救いを求めてきたと信じ込み、喜んで私たちを儀式に招き入れた。

儀式が始まり、アマラの力が、私と傭兵の魂を繋ごうとする。傭兵は、孤独の恐怖から解放されるという、抗いがたい幸福感に包まれ、その精神が私の魂と溶け合おうとする。


(なるほど、これが融合のプロセスか…)


私は、あらかじめ自らの魂に張っていた強力な論理障壁の内側で、その現象を冷静に分析していた。これは、魂の結合ではない。二つの空っぽの魂が、互いの虚無を埋め合うだけの、ただの相互消滅に過ぎない。

儀式がクライマックスに達し、私と傭兵の肉体が、融合を始めようとした、その瞬間。私は、自らの論理障壁を全開にした。だが、それは、防御のためではない。自らの「魂の本質」…すなわち、『孤独な探求者』としての哲学を、儀式の奔流に、叩きつけるためだった。

私は、アマラと傭兵の精神に、直接、自らの魂の概念を、宣言として流し込んだ。


「観測したまえ、孤独を恐れる者たちよ。君たちの言う通り、孤独は、時に冷たく、時に恐ろしい」


「だが、君たちは、致命的なデータを見落としている。創造とは、発見とは、芸術とは…人間の魂が生み出す、あらゆる偉大な『光』は、常に、絶対的な孤独の中からしか生まれないのだ!」


私は、自らの魂の記憶…一人、書庫に籠り、世界の真理を解き明かした瞬間の、脳が焼けるような歓喜を、奔流として解き放った。


「私を見たまえ!私は、一人で思考し、一人で探求し、一人で真理に到達する!この『知的好奇心』という名の炎は、他者と混じり合った瞬間に消え失せる、孤独の中でのみ燃え盛る聖火なのだ!」


「君たちが『救済』と呼ぶこの融合は、未来永劫、何も生み出すことの出来なくなる、魂の『去勢』に他ならない!君たちは、孤独を恐れるあまり、人間であることの最も尊い権利を、自ら捨てているのだ!」


私の放った、純粋で、絶対的な「創造のための孤独」という、あまりに強力な概念。「孤独は無価値である」という信念で成り立っていた愛の魔術は、その上位互換とも言える、高次の真実の前に、その法則を維持できなくなった。


儀式の魔力は、オイルと水のように、私の魂を弾き、暴走。アマラは力の反動を受けて倒れ伏し、私と繋がっていた傭兵は、弾き飛ばされて気を失った。

街中で融合しかけていた恋人たちもまた、その結合が強制的に引き剥がされ、元の二人に戻されていた。彼らは、再び「一人」になった恐怖に泣き叫んでいる。

私は、その光景を、興味深そうに見つめながら、研究日誌を取り出した。


「結論。『孤独』の恐怖をトリガーとする精神融合怪異は、『孤独こそが創造の源泉である』という、より高次の概念を提示することで、その前提を論理的に破壊できる。フム…だが、彼らが、これから自らの『孤独』と向き合えるかねぇ?まあ、私の観測は、ここまでだ。」


私は、愛の牢獄から解放され、しかし、これから本当の孤独と向き合わなければならなくなった人々には一瞥もくれず、静かにその場を立ち去るのだった。

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