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ヴェリタスの最終定理1:魔導士エラーラ・ヴェリタスの日常【改修中】【2位】  作者: .
小ネタ集RE:魔導士エラーラ・ヴェリタスの日常【コメディ】

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16/55

小さな私と大きな世界!

その日。

私は、前代未聞の実験に臨んでいた。

この世界の物理法則や魔術法則を定義する、宇宙の根源的な定数…いわば「世界の設計図」に直接干渉し、魔力効率を0.01%だけ向上させるという、神への挑戦ともいえる傲慢な試みだった。


「この非効率な宇宙を、私が最適化してやろうじゃないか……!」


私が自作の「定数干渉機」を作動させた瞬間、凄まじいエネルギーが逆流した。

それは爆発ではない。

全ての光と音を飲み込むような、静かで冷たい奔流となって、私自身に吸収されたのだ。

装置は沈黙し、何の成果も得られなかった。


「……失敗か」


私は舌打ちし、その日は眠りについた。


翌朝、異変に気づいた。

いつも使っている珈琲カップが、やけに大きく重く感じる。

研究室の白衣に袖を通すと、袖が指先まですっぽりと隠れてしまった。


「疲労による、認知のバグ……かねぇ」


私はまだ、事の重大さを理解していなかった。


だが、現象は日を追うごとに加速していく。


一日で、私の身長は成人女性から、10歳の少女ほどになってしまったのだ!


本棚の一番上の本を取るのに、椅子を使わなければならない。

街を歩けば、人々が巨人に見える。

天才科学者エラーラの、プライドを著しく傷つける事態。

しかし、それ以上に、私を苛立たせたのは、その圧倒的な「非効率さ」だった。


「……このままでは、研究にならん」


原因を特定するためには、外部環境の基準値データが必要だ。

私は、仕方なく、子供サイズの身体に深々とフードを被り、街の中心部にある標準魔力測定所へと向かった。


しかし、私のその姿を、街の人間たちが見逃すはずもなかった。

特に、私の熱狂的な信奉者たちが。


「きゃー!見て!エラーラ様よ!」


「まあ、なんて可愛らしいお姿に!どうなさったのですか!?」


数人の若い女性たちが、私を取り囲み、目をキラキラと輝かせている。


「どきたまえよ、モルモットたち。いや、今は私がモルモットなのか!?……とにかく!」


私の声には、今や、何の迫力もなかった。


「そのミニチュアの白衣、特注ですか?すごくお似合いですわ!」


「ま!お顔をしかめても、愛らしいですこと!」


「な、撫でてもよろしいかしら?」


女の一人が、私の頭に手を伸ばしてくる。


私は咄嗟にそれを叩き落としたが、内心は、屈辱と焦りで煮えくり返っていた!


私の存在そのものが、この宇宙の定規から外れ、刻一刻と消滅に向かっているというのに、この女たちは、私を愛玩人形のように扱っている!


これほどの屈辱が、かつてあっただろうか!


私は、嬌声の嵐から逃げ出して研究室に駆け込むと、内側から厳重に鍵をかけた。

もう、一歩も外には出られん。

私は、この屈辱的な状況の中、持ち前の頭脳で自らを分析し、原因を完全に特定した。

やはり、昨日の実験の失敗により、私の「縮尺」が、世界の基準から切り離されてしまったのだ。


「このままでは、私は原子よりも小さくなり、やがては消滅する、と。……なるほど、実に面白いじゃあないか!」


解決策はただ一つ。

もう一度「定数干渉機」を起動し、自らの「縮尺」を、世界の基準値に再同期させること。

しかし、今の私は身長30センチほどの人形サイズ。

装置の起動スイッチは、私にとっては、遥か天上の崖の上にあるも同然だった。


だが、この私を、誰だと思っている?


私は、自らの研究室全体を、一つの巨大なピタゴラ装置へと作り変え始めた。

魔術で本をドミノ倒しにし、薬品棚の瓶を倒す。

こぼれた薬品が化学反応を起こし、その蒸気圧で歯車を回し、巻き上げていた糸を解き放つ。

その先に結ばれていた銀のナイフが、振り子のように振れて、遠くの魔力ケーブルを切断する……


何時間にもわたる、天才的な知略と、人形サイズの肉体を駆使した涙ぐましい努力の末、ついに、全ての準備が整った。

あとは、私が装置の中心に鎮座する巨大な魔導書の上にたどり着き、最初のドミノを倒すだけだ。


私が、息を切らしながら、最後の目的地にたどり着いた、まさにその瞬間だった!


研究室の扉がノックされた。


「エラーラさまあん?いらっしゃいますの?先日のお姿が心配で、差し入れを持ってきましたのん!」


無遠慮に鍵が開けられ、あの女たちが研究室に入ってきた。


「まあ、エラーラ様、お留守のようね。それにしても、ずいぶん散らかっていること……」


女の一人が、私の完璧なピタゴラ装置……床に並べられた本のドミノを見て、首を傾げた。


「本が倒れそうだわ。危ないから、直しておきましょう」


そう言って、彼女はドミノの要である本の一冊に、無慈悲に手を伸ばした。


「やめろォッ!」


私の、人形サイズの絶叫など、彼女たちには届かない。


万事休す!


その時、別の女が、魔導書の上に立つ私を見つけた。


「わ。……。……見て!なんて可愛いお人形さんかしら!エラーラ様のお土産かしら?」


巨大な手が、私を捕まえようと、上から迫ってくる!


私は迫りくる巨人の手を紙一重でかわすと、最後の力を振り絞り、音響魔術を放った。

それは、彼女の耳元で、ガラスを引っ掻くような、甲高い不快音を発生させた。


「きゃあっ!?」


驚いた女は、持っていた差し入れのバスケットを取り落とす。

重いバスケットは、床に叩きつけられ、中からリンゴが数個、勢いよく転がりだした。


そのうちの一つが、私の計算通り……いや、計算にはなかったが、まあ、結果的に、私の組んだピタゴラ装置の、予備の起動スイッチとして配置しておいた、別の薬品瓶に命中した!


瓶が倒れ、連鎖反応が始まる!


本が倒れ、薬品が混ざり、歯車が回り、糸が引かれて……!


「な、なによこれぇ!?」


呆然とする女たちを尻目に、私は急いで魔導書の上に戻った!


そして、最後のスイッチが押され、定数干渉機が起動した!


再同期のためのエネルギーが、小さな私へと降り注ぐ!


閃光!


気づくと私は、元の姿に戻っていた……!


目の前には、腰を抜かして、「可愛い魔法人形」が、フルサイズの、しかも極めて不機嫌な顔をした、このエラーラ様本人に変身したことに、声も出せずにいるファンどもがいる。


私は、めちゃくちゃになった研究室を見渡し、研究日誌にペンを走らせた。


「結論。宇宙の改変は、極めて興味深い副作用を伴う。しかし、システム自体は、正常に動作することが確認された」


私は、ペンを止めると、気絶しかけているファンどもを一瞥し、恍惚とした表情で呟いた。


「フフフ……この縮小現象、再現性があれば……何かに……面白い応用ができそうだねぇ……!」

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