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英雄の死

「南無三っ!」

 ジョルジュとエリアーナは疾風のように巖を駈け、木々を抜け、急いで本隊の野営する中枢に戻る。赤々とした光が揺れているのが木立の狭間から見えた。

「やばいかもしれない」

 森を出て、開けた岩場に出る。

「何と」

 火の海だ。黒い鎧兜で武装した兵士が油断していた傭兵隊を次々と斬りまくっている。明らかな奇襲だ。だが。

「なぜ」

 隊員を斬っているのは黒い兵士たちだけではない。隊員を斬っている武者の中には隊員もいる。

 ・・・・・・裏切りか?

「問うてる(いとま)はない」

 ジョルジュはそう言って飛び出し、斬り込む。

「殿は」

 エリアーナはギ・ナカを探すために飛び込んだ。

 それを横眼で見て、ジョルジュは鼻尖で不満げに鳴らして、嘲りの笑いをした。

『くだらない女だ、恋情に眼が眩んでいる』


 ジョルジュは次々斬りまくるが、敵の中には隊員もいるので、誰を斬っていいのか定め難い。

「くそ」

 そう焦りながらも、無意識にギ・ナカを探している。


「これまでか」

 奇襲、裏切り、しかも油断していた、そして、数は敵が七、八倍だ。つまり、四、五千人はいる。そこに身内の裏切り者が加わる。

「勝てる数ではない、一時撤退が妥当であろう」

 参謀で従兄弟のギ・ヘイ、伯父のライ・セイの二人が口を揃えて言った。

「くそ、やむ得ん」

 ギ・ナカは歯軋りして憤りを抑え、決断した。すぐにまとめられる手勢だけまとめて、獅子奮迅、猪突の勢いで危機を免れる。


 土地勘があり、地の利に詳しいギ・ナカたちはどうにか虎口を脱したと安堵した頃、後方から矢が。

「追いつかれたか」

 振り返ったギ・ヘイは、

「さほどの数ではない、十騎いるかどうかだ」

「やるか、こちらは十五騎」

「いや、それは愚策だろう。追っ手が増えるかもしれん。この場を離れるが肝要」

 ギ・ナカも、

「叔父御殿の言われるとおりだ。逃げるなら逃げ尽くすぞ」

 すると、後方から断末魔の叫び。

「見よ、誰かが追っ手を弓で射ている。あ、あれは」

 一瞬、岩の上に龍馬が乗り上がったとき、月光を浴びて龍馬の手綱を握るのは、

「エリアーナか」

 女は大声で咆哮のように訴えた。

「今のうちにお逃げください、殿よ」

 ギ・ナカは手綱を引いて龍馬を止めた。

 戻ろうとする隊長をギ・ヘイが制止し、

「隊長、いけません、追っ手が増援されるでしょう、まもなく」

「黙れ、女を見殺しにして助かったなど末代までの恥よ」

 突っ込む。

「だめっ、敵が来てる、早く行って! あゝ、来てはだめっ、だめっ」

 その叫びと同時に怒濤のような数百の黒い兵士たち。

「おおおおのれーーっ!」

 怒り狂った龍のごとくギ・ナカが天翔け躍った。熾え(ほとばし)り破れ牽き千切れ裂け爆ぜ砕けるかのごとく。凄絶なる究竟窮極の闘い、血飛沫の霧、百数十の強靭な黒い兵士を鎧ごと縦裂し、数十の矢に射られ、ハリネズミのようになって仰け反り憤死した。


 夜が明ける頃、本部を奇襲した黒い兵士たちのほとんどはジョルジュに屠られた。しかし、そこにいたギ・ナカの傭兵隊のほとんども殺された。ジョルジュはギ・ナカとエリアーナがともに闘い死んだことを聞いた。そのときの感情は複雑なものだった。


 朝日はまるで黄昏のようであった。濃い赤みがかった金属のような黄金であった。その中で影絵のように坐っているジョルジュ。

 

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