(Message No.18)回目の14日
奇数、偶数、ズレ、愛、イノチ。キラいにならない限りずっとスキ。
カチッ――
ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデートゥーユー
Message No.015
「今日行ってきたよ、女の子だって! 君に届いてるかなあ?
しっかし、ここは暑いよ! もう汗でびしょびしょー!
でも君のところは涼しいんでしょ?
君は今何を考えて、何を見ているのかな。気になるよ。
まあいいや。疲れたから今日はシャワーして寝るね!
あはっ、ごめんごめん。この子も暑いって蹴った、だよね」
Message No.002
「ほら、やっぱりそうだろ。君のことだからそうだと思った。
君の“くちゅん”が聞こえる気がした。
ああもう、そんなの……可愛くてたまらなく好きなんだ、ははは。
おやすみ。また明日ね」
***
Message No.001
「笑える。ねぇ聞いて?
昨日の暑さで熱中症患者が急増するって文句言ったら、今日は涼しくなったよ。
でもね、今度は寒暖差アレルギーで、くしゃみと鼻水とまんないの。
よかった電話じゃなくて。ちょっと薬飲んだから寝る~。
また明日、おやすみなさい!」
Message No.004
「僕も会いたいよ。ああ、分かるよ。どうしてあんなに泣けるんだろうな。
自分と重ねてしまってるのかもね。
それにしても、ここ最近あたりが物騒だ。
どうやら、戦争中の艦隊が戦域をこちらまで伸ばしてきているらしい。
ああでも。ここは中立宙域だから心配はないよ。
何かあっても、絶対に僕が守ってあげるからね」
***
Message No.003
「今日、後輩の結婚式に行ってきたんだ。可愛かった!
どうしてあんなに感動しちゃうんだろうね?
ぜんっぜん知らない二人の動画見てるだけなのに泣いちゃった!
……君に会いたいな。って、あはは、ごめんね。
今日は疲れちゃったからもう寝るね! 私は明日も仕事なのだ!
それじゃ、おやすみ。世界で一番大好きだよ」
Message No.006
「誕生日おめでとう! ああ、次もそのまた次も、お祝いしていこう。
それはそうと、ここは近々、連合軍の補給拠点として機能するらしい。
両軍から打診があったようだが、戦局は素人から見ても連合軍有利だからな。
巻き込まれる前に上は即断したようだ。
仕方ないが、僕もこれから忙しくなりそうだ。
こんな夜だけど、君と話せてよかった」
***
Message No.005
「今日は14日。君の誕生日だよ! ぱちぱちぱち!
なので、今日はケーキを買ってきました!
といってもスポンジに味のないクリーム乗せただけのやつだけどね。
砂糖は貴重で、それに高いから! でもこれで十分。
次はいつ会えるかな? 今度は君と一緒にお祝いしたいな。
君は甘いもの好きだから、このケーキじゃ満足してくれないかも!
その日は奮発して、とびきり甘いの買っちゃおうね!
おやすみ、また明日! いい夢見てね。愛してるよ!
それにしてもこのケーキ、すごく体がふわふわする。
うーん、気持ちいいなあ」
Message No.008
「連合軍はこの基地を囮に使った。このシェルターは誰にも見つかってない。
だが、相手側に変装した連合軍が、ここを強奪しに来ている。
物資、技術、子供まで――全て奪われている。君は無事だろうか。
そろそろ君が帰ってくる頃だね。
その日を待ちわびて、貴重なワインを手に入れたんだ。
君と一緒にお祝いしたくて。……だが、ここも時間の問題だろう。
だから、せめて君に伝えたい。愛してる。いつまでも君と一緒にいたい。
君の肌の感触と匂いが恋しいよ」
***
Message No.007
「この船の補給予定地だった衛星基地が破壊されてた。
今救助活動で凄くバタバタしてる。私もこれから向かう予定。
ここで燃料を補給しようとしていたから、その当てがなくなっちゃった。
救助活動に反対の船員たちと揉めてるみたい。
君のところは大丈夫? ちゃんとご飯食べてる?
ん-と、あれ、君はどこの衛星基地に居たっけ。……また明日、連絡するね」
Message No.010
「奴らはどうしてこんなことをするんだ? 君はそこにいるのか?
ワインも僕の義眼と義足も奪われてしまった。
君に渡すつもりだったプレゼントも奪われた。
それより、君は無事なのか。頼む、返事をくれ。
君さえ生きていればそれでいい。頼む、一言だけでもいいんだ。
君はどこにいるんだ?」
***
Message No.009
「今、私たちは衛星基地の人たちを置き去りにしたよ。
物資だけ奪って次の港を目指してるんだ。こんなのっておかしいよね。
私たちの目的は環境調査、命の保護のはずなのに。
でも、私たちもギリギリだから仕方ないよね。
水も出なくなったし、ご飯だって一日に一回あるかどうか。
お風呂にだって入れないから、こんな状態じゃ君に会えないよ。
……でも、会いたいよ。君はどこの補給基地に居るの? 物資が必要なの。
なんでもいいんだ、食べられるものなら」
Message No.012
「今日初めて友人を殴った。このデバイスだけは奪わせない。
どんなことをしてでも守る。君は無事でいてくれてるのだろうか。
どうか神のご加護を。君の歩む道が、光で満たされますように」
***
Message No.011
「もうやだ……耐えられない。
会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。
会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。
君の顔が見たいよ。声が聞きたいよ。こんなの人間じゃない。
どうして仲間同士で奪い合わないといけないの。おかしいおかしいおかしい。
みんな狂ってる。人間をすり潰してろ過して、飲み水にするんだって。
昨日食べたのだって……。もうやだよこんなの……。
それで、君はどこの補給基地に居るの? 物資がもう無いの」
Message No.014
「そうか、君はもういないのか。なら、僕もすぐそっちにいくよ。
ようやく会える。 残りの義眼でもなんでも売って足しにするよ。
って言ったら怒られるだろうな」
***
Message No.013
「ああ……よかった。君がいた。会いたかった、会いたかったよ……」
Message No.016
「女の子!? うわあ、きっと君みたいに可愛くて優しい子が産まれるよ!
あああなんてこった、やばいやばい! 興奮して眠れないよ!
僕たちの子、絶対君もその子も幸せにしてみせる! 誓うよ!
ここはいつまでも涼しいよ。君の船はいろんな環境生物を保護しているからね。
けど、極端すぎはよくないな。お腹の子にもね。
きっと明日には涼しくなる。賭けてもいいよ。
だって、暑がりな君はいつも部屋が凍るくらいまで冷やすじゃないか。
それで、その反動でくしゃみするんだろ?
それにしても女の子か……ははは! そっか……そっか!」
***
――私が観測した結果。
母は先に亡くなり、父は母の後を追って亡くなった。
死因は言いたくもない。
言わなくてもこのログで分かるでしょう。
「Message No.017――
あなたたちは永遠に生き続ける。私が死なせない。
いつまでも綺麗で、仲の良い二人でいて。
あなたたちが語るだけで、私は生きてると実感できる」
断絶された観測所で、私一人きり。
ここは過去と未来が重なる場所。
今日も二人を保存する。愛しているから。子供なら当然のことだよね。
ごぼごぼと揺れる翠緑の培養液が満たすチャンバーを見つめる。
左側には真っ赤な液体が入った瓶と、右側には義眼と義足が入った小型のボックス。
一部の人工内臓は、厳重に凍結し生体ユニットとして維持してある。
「くちゅん!」
しまった。お風呂から上がって、下着のままだった。
「あ……う……」
不完全な物体が私に上着を持ってくる。
受け取ると、粘液でドロドロに濡れていたので無理やり引き剥がしてから、その物体を蹴り飛ばした。
ガシャンとスタンドライトを巻き込み倒れると、同じように倒れている物体がいくつも蠢いている。どれもこれも成れの果て。けど、愛さなきゃいけないもの。
それらに近づいた。足元で身じろぐ失敗作が私を見る。
腕を伸ばして何か音を出したので私はそれを踏みつけて潰した。
「こんな汚しちゃうこの腕はもういらないね」
今度はもっと上手く愛せた気がした。次は、もっと完璧に再生しよう。
びちゃびちゃの上着を羽織って鼻をすする。
チャンバーを抱きしめ片方にキスして、もう片方にもキスする。
ちゃんと順番に、どっちも忘れないように。
「今日は14日。誕生日おめでとう、私」
今日は私が、私として生まれた日。
そして私が、あなたたちに会いたいと願った日。
あなたたちがくれた言葉を、再生し続けると決めた日。
「あなたたちが死んでも、私が生きてる。
私がちゃんとこの世界に産んであげるからね」
――これは全て、私に向けられたメッセージ。
冷たい窓に頬ずりする。聞こえる。命の音。
自分のお腹を撫でる。この命はふたりの祈りの証。
誰がなんと言おうと、そうなるように、私が設計したんだから。
複製、模造、いいえ。これは紛れもない、奇数と偶数の命。
[ 再生を続けますか? ]
□ はい
□ いいえ
あたりまえでしょ、「再生」して。
心も、体も、なにもかも。完全に「再生」するの。
「愛は再現した。苦痛も保存した。内臓は既に私の中にある。
次の14日は、私の胎内と媒体で、新しい知性が誕生する。
きっとまた、あなたたちみたいに優しくて残酷な子が生まれるよ」
ふふ……ふふふふ……ふふ、あは……
アハハハハハ……アハハ……ふふ……
カチッ――
ハッピーバースデーディア、セラフィ
ハッピーバースデートゥユー