1.始まり
「ここはどこだ?」
過去に読んだ小説でよく見たセリフが浮かんだ。
辺りを見渡すと『見慣れた天井』ではなく『見慣れない"もふもふ"に囲まれた世界』だった。
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その日は、珍しく仕事が休みで地元のペットショップを回っていた。
自分の働く会社は派遣会社のため定期的に転勤があり、その転勤が来月に決まったので、ついに、ずっと悩んでいたペット可へ引っ越そうと決意したのだ。
どちらかといえば猫派なのだが、犬の人懐っこさも捨てがたい。
また、ペットショップを回っているとその他の子たちにも目移りしてしまいなかなか決められないでいた。
その日は「転勤まで時間はまだあるしもう少し悩むか」と思い、決定は保留にして家に帰った。
家に帰り家事を済ませお風呂に入っていると
急に頭を刺すような痛みが走り、すぐに寝ることにした。
自分は低気圧で頭が痛くなることがあるので
「最近天気も悪いし低気圧かな?」
とあまり気にせず痛み止めを飲んで
動物を飼ったら……を想像しながら寝た。
そして冒頭へもどる。
「ここはどこだ?」
過去に読んだ小説でよく見たセリフが浮かんだ。
辺りを見渡すと『見慣れた天井』ではなく『見慣れない"もふもふ"に囲まれた世界』だった。
見慣れた天井どころか部屋もなく、見たことのない街並みで、二足歩行の猫に囲まれている様に見える。
またどこか少し動きにくく服を着ている感覚もない。
違和感を感じ、自分の手を見ると肉球のようになっており、長い爪が生えている
「なんだこれ 夢か?」
そう思いほっぺたをつねってみる。
……痛い。
だが、痛いとしてもなかなか受け入れられるものではないためとりあえず考えるのを辞めた。
なににせよとりあえず状況を把握してからでないと何も出来ないと考え、まずは自分の容姿から把握することにした。
なにか鏡になるものはないかな? と辺りを見渡していると、自分を囲んでいた二足歩行の猫の中の一匹がおそるおそる話しかけて来た。
「おぬし名前は何というのじゃ? どこからきた?」
その猫がいうには強い光の柱と共に急に自分が現れたため村の猫が驚き何が起こったのかを知るため集まっているとのことだった。
話しかけて来た猫は風貌を見るに村長といったところか。
杖をつき、マントを羽織っており、周りの猫と比べて年老いているようにみえる。
自分の名前とどこからきたか、か……
「自分の名前は、思い出せない。どこから来たかもあまり覚えていない」
なぜこう答えたかというと、自分の名前を思い出そうとしても全く思い出すことができず、前の生活は覚えているが、猫を前に元いた世界を話すことは少し心苦しかったためはっきりと話さないことにした。
「わしはこの村の村長をしておる、スーヤという。村長と呼んでくれて構わんぞ」
そういうと村長は「うーん」と声を出しながら何かを考え始めた。
首を傾げながらその答えを待っていると
「おぬしの名前はマルカでどうじゃ? 住む場所がないならうちの村に住むと良いぞ」
と自分の名前を考えてくれていたようだ。
村では村長が全ての子に名前をつけるらしい
「わしが名前を付けたからうちの村におっても何もおかしくない」
とのことだそうだ。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
もちろん信用していいものか悩んだが、もふもふに囲まれて生活するのはとても理想的な生活だし
自分の好きなことをしようにも状況の整理がつき自分で生活ができないことには何もできないと考え、それまでだけでもお言葉に甘えて住ませてもらうのが1番良いと考えた。
余っている家があるとのことで案内してもらい、好きに使って良いと家をもらった。
家に案内してもらっている間も村の猫たちはこそこそと後ろをついて来ており様子を伺っているようだった。
外は日が落ちはじめオレンジ色になっており、
「また明日村の案内をするから今日はゆっくりしてくれ、マルカ」
と家を案内してもらったところで解散となった。
家は1人で使うには充分な広さや設備で、キッチンに冷蔵庫、机にベット、お風呂まで揃っていた。
また自分が探し求めていた全身鏡もあり、ここで初めて自分の姿をみることができたが薄汚れておりはっきりとした色までは分からない。
そのためお風呂で体の汚れを落としてから鏡で見ることにした
お風呂から出て鏡を見ると
緑色と白色で柔らかい毛並み、ピンっとたった耳、少し短いしっぽ。どっからどう見ても猫のような容姿。
緑色の猫は元の世界でも見たことがないので変わった容姿に思える。
また、村の猫を見ても白や黒、茶色といった色ばかりで緑色は見なかった。
毛の色の珍しさなど考えてもわかるわけがないので
分からないことや悩みは沢山あるが、容姿について把握できたし一歩前進だと思い込み、村長に言ってもらった通りゆっくり休むことにした。
状況把握しないことにはどうしようもできないし、明日、町を紹介してもらいながら情報収集でもしよう。