未来のない町
まずは、あの町の話をしましょう。
お客さんも知ってますか?百年ほど前に滅んだ美しい町のことを。
・・・そうです、そうです。その町です。
実はあたくし百五十年くらい前にその町に訪れたことがありましてねぇ。
美しい町でした。思わず妖怪であるあたくしも悲しくなるくらい綺麗で儚い町でしたよ。
建物は全て青と白で統一された外壁と屋根。
美しく着飾った人間たち。
華やかで豪華な料理。
美しいが妖怪であるあたくしまで息が詰まってくる不思議な町でした。
あの町ではとにかく美しさと勉学に努力を惜しまない人間たちが日々を必死に過ごしていました。人間の鏡のような人たち・・・まあ、あたくしは妖怪なんであんな風には絶対になりたくないですがね。
まあ、とにかく、あの町を見てあたくしはこの町は不思議に思ったのですよ。
というのも、あの町に訪れた最初の日、あたくしはとあることに気が付きましてね。なんだと思います?お客さん。
ふふ。正解は・・・道端に倒れている子供の死体でした。
ふふふふふ・・・。
あらら、どうしましたお客さん。顔が真っ青ですよ。え?この話をすると皆顔が真っ青になるんですよねぇ・・・何故でしょうねぇ・・・。
そんな面白い話でもないでしょうに・・・えぇと、どこまで話しましたっけ? ああ、そうでしたね、道端に倒れていた死体のところまででしたね。
いやはや、あれは衝撃的な光景でしたよねぇ・・・ふふふ・・・。
そう、道端に倒れていた死体は子供だったんですよ。
それも物心つく前の子供の死体が町中にあったんです。それも何百、何千という数のね。
別にこの町の人間がやったとかじゃないですよ?
あの町の人間は皆、美しさと勉学に努力を惜しまない人間ですからねぇ。そんな恐ろしいことするはずがありません。
それに、あの町で自殺なんて風習はありませんでしたしねぇ・・・。
え?ああ、そうですよ。自殺なんかじゃありませんよ。しかし、あの町の人間は誰一人として子供の死体に気が付かない。
え?何故って?それは当然ですねぇ。
だって・・・その子供たちは全員、貧乏人の子供ですから。
え?どういうことかですって? いやですねお客さん。まだ分かりませんか? あの町では貧乏人は人ではありませんから。
そう、この町では美しい子供は価値があり、そしてそれと同時に必要だったのです。美しさと学業に努力を惜しまない子供がね。なぜかって?嫌ですよお客さん、惚けちゃって。
美しく生まれた子供は良縁に恵まれますし、勤勉な人間は権力者の血筋と強い繋がりが持てますからね。
だから人間は努力するのでしょう?
だから、その町では怠惰な貧乏人の子供は全員いらないんです。いても邪魔なだけ。
ほら、昔飢饉とかがあったでしょう?そういうときにはよく人身売買が行われてたじゃないですかぁ。それと同じですよ。
あの町の人間は皆、美しく賢く生まれた子供を大事に大事に育ててましたねぇ・・・。
それで、あの町では貧乏人の子供たちはそこらじゅうで転がっていたというわけですよ。しかし誰も気が付かない。いや、見て見ぬふりをする。まるで最初からいなかったかのように。
美しく賢い子供のための生贄を。ふふ・・・。
まあ、どこの国の人間も裕福な家の子供は美しく、努力家で貧乏人の子供は醜く怠惰な傾向があるものですよ。
だから、美しさもなく努力もしない貧乏人の子供を町の人間は必要としなかった。人とは思われていなかった。だから道端に捨てたんですよ。道端にね。
そんな町で赤ん坊が一人や二人死んだって誰も気にしませんよ。だって、美しさと勉学以外に価値を見出だせないのですから。ふふふ・・・。
まあ、そんな町ですからねぇ。当然、子供が減って滅びてしまいましたよ。ふふ・・・。
え?それだけで、ですって? それだけですよ。意外と単純なことが答えなんですよ。何事もね。
まあ、しょうがないですよねぇ~。だって、美しさと勤勉さを何よりも大事にしていたんですからねぇ~。
だから、美しさと勤勉さ以外の物は全て道端の石ころも同然なんです。道端に石ころがあったら邪魔じゃないですか。だから捨てるんですよ。当然のことですよねぇ~。
貧乏人が減ったのは、あの町の人たちの本望だと思いますよ〜。
ふふふ・・・お客さん?どうされました?顔色がどんどん悪くなっていますよ・・・? もしかして気分が悪いのですか?あらら、それは大変ですね!
え?何か言いたいことがあるんですか?どうしたんですかお客さん。え?もっといろんな話が聞きたいですか?ふふ・・・お客さん、物好きですね。まあ、別に構いませんが・・・。
では、次はどんな話にしましょうか?ふふ・・・。
おおっと。そういえばあの国の事を忘れていました。あの国の話をすると長くなりますが、構いませんか? ふふ・・・。そうですか。では、あの国の話をしましょう。