プロローグ
おや、珍しい。こんな山奥の宿屋に客が来るなんて何年ぶりだろう。しかも生きている人間なんて……
こんにちは。お客さん、何にします?
…………なんです?失踪した女性を探してる?こっちに寄るなこの化け物?
お客さん、冷やかしなら殺しますよ?
・・・・・もう!お客さんったら、泣かないでくださいよ!ちょっと怖い顔しただけじゃないですか。
めんどくさいなぁ……
なんですって?お前は何者だって?
見れば分かるじゃないですか。あたくしのこの可愛らしい豚足を見て下さい。美しいでしょう?
うんうん。そうでしょう、そうでしょう。
お客さんもわかってらっしゃる!そうなんですよ。
そう、あたくしは豚から生まれた妖怪です。母は生まれた時に食べてしまいましたよ。名前はないので仮に白といたしましょうか。
それはそうと、あたくしを見かけた人間によりますとあたくしは人間にとってとても醜い姿をしているようですね。全く失礼しちゃう!・・・まあ、あの人間は食べてしまいましたがね。
あゝ、もう!また泣いて・・・ほら、お客さんこの布で涙を拭いて下さい。
え!?ゴワゴワしてるから嫌だって?
本当に我儘ですね・・・お客さん。
あ、そうそう。
失踪した女性でしたっけ?生憎あたくしは人間に対しては食糧としての興味しかないので何も知りませんね。
そうですか。お客さんの親戚の方でしたか〜。
でも、お客さん?この山は花果山と言って昔から有名な妖怪の住処ですし、もうその女性はすでに妖怪たちのお腹の中にいるのでは?
ふふふ、お客さんだってもう気づいていいるんでしょ?
この山に登った時からずっとお客さんは妖怪たちに狙われていることを。
・・・なんです?その目は!
あたくしはお腹いっぱいなのでお客さんを狙ってなどいませんよ!先ほどあんのくそ猿……ゴホン、いえ、友に貰った特別な桃を頂いたのでお腹いっぱいなんですよ。・・・あら、納得してない顔してますね。
とにかく、お客さん?もう日も暮れますし、泊まっていかれますか?
はいはい。この宿に泊まっている間は安全ですよ。
ふーん。あ〜、泊まるんですね。・・・うん。
・・・・あの、お客さん?一つ質問が。
あの、人間って何を食べるんですか?
とりあえず豚の丸焼きでいいですかね?この宿の名物なんですよ。おすすめです。
ほんとですか!よかった。豚の丸焼きがダメならもう何も与えないつもりでしたから。
あ、部屋案内しますね〜!こちらに来てください。
*****
はい、このお部屋です。では何かあったらなんなりとお申し付けくださいな。
ええ!?心細いから何か話してくれって?
嫌ですよ。あたくしは忙しんです!クソ猿・・・いえ、友に往復ビンタをする練習をしなくてはならないのです。
・・・うぅ、そんな目で見ないでくださいよ。
わっかりましたよ!もう!
何を話せばいいですか?
ふーん。つらい現実を忘れられるようなお話ですか。
無理ですね。まずあたくしはつらい現実というものが理解できませんし。
なら、あたくしの過去のお話なんてどうです?
・・・・ええ、そうですとも。あたくしの自慢話も少し交えてお話しますよ?
何か問題でも?
年寄りは人間も妖怪も関係なく自慢話が好きでしょ。
・・・ほら、やっぱりね。
じゃあ、お話しますね。
あたくしたちが生まれたこの世界はとても奇妙な人間という生き物が我が物顔でのさばっています。
数年ぶりにあなたという人間のお客さんがきたことですし、あなたにあたくしが今まで出会った奇妙な人間たちの話を聞かせてあげますよ。