愛する者も親友すらも欺き、国すら滅ぼした極悪人の末路
「あなたを愛している。それが私たちを殺しに来た復讐者でも、私はあなたのお陰で夢を見れたから……」
全てを魅了するかの如く、美しい黄金色の髪を持ち、その身は絶世の美女謳われ程美しい女性は、涙をながしながら、俺の剣に胸を刺された。
あの時の、悲痛な涙と感触を俺は忘れなかった。
「死ねーーー!!!!」
勇者のような勇ましい青年の剣が俺の腹を貫く。
俺は青年を引き剥がすために、自身を巻き込むように火炎魔術を放つ。
「クソ!」
青年は憎悪の表情でこちらを睨め付けながら、距離を取る。
「もう、ここまでか」
腹を貫かれ、装備は全てボロボロ。
仲間は全員死んで残るのは俺1人だけ。
それに対して敵は、俺の仲間を多くを殺害した勇者、滅ぼされた国のため、復讐に燃える亡国の姫であり大魔術師、命すらあれば全回復させることのできる聖女、どんな攻撃にも膝をつかなかった不屈の戦士と、ここから勝てる未来が見えない。
「安心しろ、そう簡単には死なせない」
勇者は昔の俺のように復讐の憎悪に囚われた目を向け、言った。
「お前には苦しんでもらわないと困ります。国を父を母を姉上を殺した罪を必ず償わせる!」
亡国の姫は、俺を業火の炎で燃やし尽くさんといった。
「あなたのせいで多くの者が苦しみ、死にました。その罪、命を払うだけでは足りません」
聖女は愚かなる大罪人を裁くように言った。
「俺は他のやつみたいに恨みはないが、お前はやりすぎた。罪を償ってもらう」
不屈の戦士は、やりすぎた罪を裁くように。
「フフフ、あはははっはは!!!!」
俺は笑った。
復讐者として、友を裏切り、俺を愛したものを殺し、国を滅ぼした俺に相応しい最後を遂げられそうだという事実に。
「何がおかしい!!」
勇者は侮辱と受け取ったのか激怒する。
「可笑しいに決まっているだろう!あいつらは死すべきして、死んだのだ!罪など感じる訳がないだろう!お前らがどのようなことをしようとも俺が謝る事ない!!」
「貴様!!!!!」
「今すぐここで殺す!」
「ああ、罪人に裁きを」
「やるしかないようだな」
俺は最後まで極悪な復讐者でいる。
俺の悪行を全て知り、それでもなお俺についてきた悪い奴らと交わした唯一の約束だ。
勇者の剣が俺を切り裂かんとし、亡国の姫の火炎魔法が全てを消し去ろうと襲い、聖女の裁きの光が俺を消し去らんと襲い、戦士の強力な攻撃が俺を粉々にしようと迫る。
(ああ、やっと死ねる)
その時だった、勇者と戦士の攻撃は見当違いの方にズレ、亡国の姫と聖女の攻撃は全てが花びらに変わった。
「邪魔してすまないね。まだ、彼に問わないといけないことがあるんだ」
飄々とした軽い感じで白いローブにフード被り、杖を持った胡散臭そうな魔術師が現れる。
「お前は」
「なぜ、あなたが……」
その人物の登場に勇者達と俺は驚愕する。
現れた魔術師は、勇者たちにとっては絶望の底から新たな希望を与えて、これまで多くのことで支えてくれた人物で、俺にとっては、国すら滅ぼす復讐を決意させた出来事を一緒に体験した人物だったからだ。
「どうして邪魔をするのですか!」
「あなたは私たちの境遇を知っているはずです。私たちがあいつをどれだけ殺したいか!」
勇者と姫は、鬼気迫る勢いで邪魔をした魔術師を問う。聖女と戦士は尋常のない敵意を乗せて睨め付ける。
「ああ、知っているとも」
そして、魔術師は姫を見る。
「 君は目の前で最愛の姉を殺され、両親は民衆の前で吊るされ死に、愛していた国は魔物に蹂躙された」
次に戦士を見る。
「君は、守りきれなかった弟のために、武器を持ち、立ち上がった」
次は聖女を見る。
「君は復讐によって起きた惨劇によって、死んだ多くの者の悲鳴と悲しみを見た」
次に勇者を見る。
「君は、復讐によって罪に向き合おうとしていた幼馴染を失い、その者が国を滅ぼしたことによって、目の前で家族が魔物に食われる所を見ることになり全て失った」
魔術師はそれぞれが持つ悲惨な過去を、俺によって引き起こされた罪を淡々といった。
「そこまで分かっているなら、なんで止めるのですか!」
勇者の悲痛の声が魔術師を問う。
魔術師は俺を見る。
「私は彼が復讐の道を歩むことを止めことができなかったところが、背中を押してしまった者として、一つの質問をしなければならない」
「は?」
魔術師の衝撃の告白に、俺と戦士以外の全員が驚愕する。
「あなたはこの惨劇が起きることを分かっていながら、やるように促したのですか!」
「ああ、そういことになるな。私は全てを知っていた。その上で私は君たちに会いに行き、彼を追い詰めるように誘導した。全ては私の目的のために」
「あ、あああーー!!信じてたのに!信じてたのに!!」
全てに裏切られた勇者は、魔術師に剣を向け切り掛かる。
「恨んでくれてかまわない。これは全て私の実力不足が原因だ。どのような罪でも受け入れよう。しかし、それは今ではない。」
魔術師は睡眠の魔術を使用して、勇者と姫と聖女を一瞬で眠らせる。
「戦士君、悪いが3人を連れて外を出て行ってくれるかな?これからの話は彼と私以外に知ってはいけないことだから」
戦士は沈黙した後、真っ直ぐと魔術師を見る。
「一つだけ聞きたい」
「なんだい?」
「前は弟を失ったあの時、俺に言ったよな。全てを受け止めて進めと、それ以外に道はないと、それは貴方もそうなのですか?」
「ああ、そうだよ」
戦士の質問に魔術師は即答する。
「分かりました、あの時道を示して頂きありがとうございます。ご武運を」
戦士はそう言って、3人を担いでこの場からさる。
そして、ここにいるのは俺と魔術師しかいなくなる。
「一つ聞かせろ。どうしてあの約束を知っている!」
俺は、最後の親友に問う。
先程の人払いは、俺が極悪な復讐者でいる約束を守るためだ。
しかし、その約束を知っている者は全員死んだ。
お前が知っているはずがないのだ。
「言っただろ。私は全て知っていると」
「何を言っている・・・・・・・」
先程の発言は、俺の蛮行を知っているという意味ではなかったのか。
だが、親友のニュアンスは明らかに違う。
「まだ分からないのか。なら、分かるように言ってやる。私は知っていた。何年も前から、あの村が敗走してきた王国軍に略奪されることを、その後魔物の足止めため、村人を動かない状態にして、餌にすることも知っていた。その上で私は何もしなかった」
俺が復讐することを決めたのは、王が俺たちを生贄に使ったことが原因だった。
魔物の戦いに負けた王国軍は、連日の敗走でストレスが溜まり爆発寸前だった。
そのため、王は許可したのだ。周辺の村の略奪を、勿論そんなことをしたら、民の怒りが爆発するため、表向きはこれからやってくる魔物に皆殺しにされたことにするため、動かないようにして、魔物の餌とした。
俺は、子供1人がギリギリ入れる床下にあった物置に隠れることで生き延びることができた。
そして見たのだ!
母と姉が死んだような目になるまで犯され、父が何もできずに、その行為を身の前で見せられ、全てを殺すような怒りを宿したまま、悲鳴をあげ、魔物に食われて死んでいく瞬間を。
あの地獄が俺を復讐者に変えた。
それを親友はなんと言った。
何年もないから知っていたと言った。
その上で何もしなかったと。
「冗談キツいぞ」
俺は信じられなかった。
考えたくもなかった。
だって、親友も同じ目に遭っているのだ。あんな地獄、体験したいなんて思うやついない。
「現実逃避をやめろよ。薄々勘付いているのだろう?私が未来を見えることに」
「嘘だ!そんなわけがない!お前は、お前は・・・・・・・」
親友が未来が見えると考えた時、あまりにも色々なことが説明できることに気がついてしまった。
あの地獄の後、親友は冷静だった。
まるでこうなる事を分かっていたように。
安全地域まで親友と2人で逃げた。
その最中、親友の先導によって、魔物に会うことは一度もなかった。
魔物がいない所を分かっているように。
親友の助言通りにすると、ターゲットに近づくことができたりと、全てが俺にとって有利に動いた。
その時の親友は、絶対にそうなると自信があった。
つまり、ここまでの展開すべてが、親友の思い通りだったわけだ。
「どうして・・・・・・・どうして・・・・・・・そんなことをした!何故、動かなかった!どうして助けなかった!どうして、俺を助けた!どうして俺に復讐者をさせた!」
親友が動いていれば、家族は生きていた。
純粋だった彼を裏切らずに済んだ!
あいつを涙を流しながら殺す必要なんでよかった!!
「あの言葉はなんだったんだ!徹底的にやれと、お前の気持ちは正しいと、言ったじゃないか!あの言葉があったから、俺は、俺は復讐を、あいつを殺したんだ!!」
「さっきも言っただろう。その言葉を言った者として質問しにきたと」
親友はこちらの激情をものともせず、言った。
「なら、何を聞きたいんだ!!」
「復讐をしてどうだった?復讐は良かったか?」
親友の言葉に俺は今までのことを思い出す。
「これからよろしくお願いします!」
「先輩はめちゃくちゃいい人ですね!一生ついていくっす!」
「こんなにも街は賑やかなんですね!」
「貴方といると色んなものを知ることができる。貴方といればなんでもできるような気がする」
「どうして・・・・・・・信じてたのに」
「貴方を・・・・・・・救えなくて・・・・・・・気がついてあげられなくて・・・・・・・ごめんなさい」
多くの死が思い出される。
「復讐が良かったて?そんなわけ無いだろう!地獄だった。何も残らなかった!俺は一度だって復讐に囚われてから本心から笑えなかった!!!俺には何も残らなかった!残ったのは罪と苦しみだけだった」
俺は崩れ落ちる。
そう、結局復讐で得られてたものは何もなかった。
俺は何処までも愚かな人であった。
「期待通りの答えだ」
親友は嬉しそうに言った。
「それはどういう意味だ・・・・・・・」
(あの地獄が期待通りだと、ふざけるなよ!)
俺は溢れる怒りを頑張って抑える。
「先程の質問に答えよう。何故助けなかったか。単純な話だ。私だけでは理想の未来が作れなかった。だから、私は才能があったが精神が未熟なお前に目をつけた」
「は?それはどういう・・・・・・・」
またもや、衝撃的な告白に俺は動揺する。
それと同時に俺達を中心に巨大な魔法陣が現れる。
「おい!なんだこれは!」
「お前を過去に戻す!」
過去に戻す、またやり直すことができるのか!
「時間がない、手短に伝える。当時の私では最悪の未来を変えれなかった。だから、才能があったが精神が未熟だったお前に、成熟した精神を持つ未来のお前に変えることにした。」
親友は口から血を吐き出す。
これは生命を魔力に変えている禁術ではないか!
親友は命を賭して、俺を過去に戻そうとしている。
「お前にはすまないことをしたと思っている。過去に戻ったら私を殺すなり、好きにしても構わない。その代わり、今度は復讐に囚われず、多くを救ってきてくれ。」
「おい、ふざけるなよ!」
「本当にすまない。私はお前にもう関わらない。悔いなき人生を歩んでくれ」
親友はそういいの残すと、魔法陣がひかり、俺は過去へと戻った。
私は、消えた親友を確認して、魔術師が成功したことを確認する。
私は血を吐きながら倒れる。
ここのタイミングでしか、過去戻りの魔術は使えなかった。
消えゆく命の中、これまでを振り返る。
生まれてから、これまで私は一度も笑えなかった。
私が見える未来は常に地獄だった。
私がどれだけ頑張ってもいい未来は訪れない。
私が行動次第で誰が死ぬのか分かった。
私は常に選択しなければいけなかった。
誰を殺すのかを。
それでも私は抗うことをやめられなかった。
見捨ててきた人々を無意味なものにしない為に。
(ああ、結局この世界では何も救えなかったな)
別の世界のためと言ったら許してくれるだろうか。
(ないだろうな)
そうして、私は喜び何も知らず、世界に絶望しながら死んでいった。
それが、愛する者も親友すらも欺き、国すら滅ぼした極悪人の末路だった。