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45話 燃え立つ針

お久しぶりです

「ふっ!!」


 一歩、二歩、三歩と地面を蹴る。

 クソボスもとい燃え立つ針(フレアニードル)の気配が迫る中、足を止めることなく斧槍(ハルバード)を掬い上げ、今度は真横に跳ぶ。

 私の腕ほどもある太い爪が空を切った。

 着地と同時にまた跳んで、同じことをさらにもう一度。

 その度に燃え立つ針の爪が私を掠める。

 四回目は無い、はず。

 実際にその様子が無いのを確認して、足を少し緩め、しっかりと斧槍を握り直す。


 二つの赤い目は私を捉えたままで、フーパー卿とビルに向けられる素振りはない。

 ホッとしつつも、安心はできない。

 二人からもっと距離を取るためにも走り続ける。


 その間にも燃え立つ針は攻撃を仕掛けてくるけど、逃げに徹してしまえば避けるのは難しくない。

 追尾系の遠距離攻撃だとか、複数の遠隔爆発だとか、そういうのは無いからね。


「キィヤァァァァァァ!!」


 大きな体が猛烈な勢いで真横を駆け抜けていき、背筋がヒヤリとする。

 こんなふうに本体が跳んでくるけど、二人と距離が離れるから、むしろ好都合!


 襟元のボタンにつけた飾りを引きちぎり、木々の合間に見える空を目掛けて投げた。

 バァンッと、花火に似た音と共に閃光が広がる。

 飾りボタンに加工された『救援弾(リリーフシグナル)』。

 見習いや新人騎士は狩猟場に入る時に着けるように言われる。まさにこんな時のためにね。


 地面を強く蹴ると、居心地の悪い浮遊感に包まれた。

 そう言えば、最後に絶叫モノに乗ったなって大学生の時だっけ。

 ……着地までのほんの一瞬とはいえ、なんでこんなこと思い出したんだろ。そんな場合じゃないっていうのに。

 

 頭を振って雑念を振り払い、体勢を整える。

 燃え立つ針が私を見据え、ゆったりと右に左へ動く。

 敵を警戒してというよりも、獲物を見定めようとしてる――そんな仕草。

 かくいう私もじりじりと横に足を動かす。


 ここからだ。ここからが、難しい。

 逃げの一手に絞ればやりやすい相手だけど、攻めるとなるとそうはいかない相手だから。

 一度でも燃え立つ針のペースに飲み込まれたら抜け出せない。


 上半身が起き上がる。

 爪の三連撃の書道だ。

 変態もとい上級者の攻略動画を思い出す。

 斜め前ステップでの回避がご法度の攻撃のひとつ。

 なら、どうするか。


 姿勢は低く、けれど顔はしっかりと前に向けたまま、斜め前――燃え立つ針のすぐ横を走り抜ける。

 すり抜ける瞬間、背中に焼けるような熱を感じた。


 来る!

 足に流す魔力を増やし、加速。


「ァァアアアアアアアアアアアアア!!」


 その途端、四肢を地面に着けた巨躯が名前通りに燃え上がった。

 炎が巻き起こした熱風が私の背中に覆い被さる。


「っ!」


 あまりの熱気に喉から零れかけた声を堪える。

 熱にやられた背中はちりちりと痛むし、髪からは焦げた匂いがする。

 でも、今はそんなこと気にしてられない。


 地面を踏みしめ、反転。

 腰を落とし、斧槍を構える。

 炎を放出し終えた頭が振り返る素振りを見せた。


「ここっ!」


 斧槍を振るう。

 そこに燃え立つ炎の頭が()()

 斧槍が頭部の薄い肉を断つ。

 浅かった。

 位置調整が完璧じゃなかったから浅いけど、吹き上がった血がダメージの大きさを物語ってる。

 そして返す刃で痩せこけた体を薙ぐ。


「ギィィィィィィァァァアアア!!」

「う、るさっ……!」


 なんて声量。頭痛がするほどに耳が痛くなる。

 女の人の慟哭めいた鳴き声だ。

 ゲームをプレイしてる時は意識してなかったけど、作中の嘆きの獣っていう名前もお似合いだって話ね。


 畳み掛けたい気持ちを押し殺し、また距離をとった。

 酸素を体中に巡らせるために息を整える。

 柄を握りしめた手を緩めては閉じ、緩めては閉じ。

 これは緊張させたままだといざという時に痺れが出て危機を招くと、剣を習い始めたばかりの頃にお父様に教わったから。

 畳み掛けないのは、重い武器での三手目は反撃で潰されるから。


 ……うん、大丈夫。覚えてる。

 動画での変態の使用武器は斧槍と同じ脳筋ステータス構築(ビルド)向きの、これまた斧槍と同じく振りが大きい大剣。

 だから、ゲームをプレイしてた時は手数武器だったから挙動がズレることもあったけど……今は違う。イメージとピタリと重なってくれる。

 普段は忘れていてもきっかけがあればスルスルと記憶が蘇ってくれるんだから、私の記憶力も馬鹿にしたもんじゃないかも。


 後ろに跳んだ燃え立つ針を追う。

 真っ直ぐに向かうわけじゃない。側面を取るように走る。


 燃え立つ針が踏み倒した木々はさっきの炎で見事なまでに灰になってる。

 それなのにそこら辺の木には燃え移ってないのってなんなんだか。

 はっきり言って異様だ。


 燃え立つ針が地面に足をつけると同時にこちらに飛びかかってくる。

 なんて瞬発力、猫みたい。これがあるから正面から攻められないんだよね。

 まあ、正面から攻められないのは『シャドブ』のほとんどのボスに言えることだけど。


 獲物を噛み砕かんとばかりに大きく開かれた口が迫る。

 あんなの食らったらひとたまりも無い。

 地面を蹴り、後ろに跳ぶ(バックステップ)

 牙に舌、唾液に生臭さが際立つ口臭が近付いてくる。

 ひやひやする。心臓が暴れまわってて痛いくらいだ。


 他のボスなら今の回避もやっちゃダメ。斜め前――懐に飛び込むのが安定。

 でも、今の攻撃にそれをやっちゃうと飛び込んだ先でカウンターをもらって、そこからさらに即死コンボが来る。

『シャドブ』のメーカーのゲームに慣れてる人間ほど引っかかる最悪な攻撃。


 お返しに叩き込もうとした斧槍の刃が、ガキンと弾かれた。


「なにそれっ!?」


 地面を踏み締め、体勢が崩れそうになるのを堪える。

 こいつ、毛を逆立てて斧槍を弾いた!

 わざとか偶然か、どっちにしろ『シャドブ』ではこんなのなかったのに!!


 次の攻撃がどう来るかわからないけど、一秒でも早く足を動かさなきゃ。

 浮き足立つ心のまま、足に魔力を込め懐へ――()()()に跳んでしまった。


 やらかした!

 まるで心臓に氷水を浴びせかけられたように全身が急速に凍える。

 そんな私の心中を嘲笑うように熱気がぶりと膨れ上がり、爆発した。


「ひっ、ぐっ!!」


 受け身も取れないまま木に叩きつけられた。

 体の半分が焼けた上に、強く打った体は息をするだけで痛い。

 とにかく、急いで立ち上がらないと。


「いっ」


 腕を、足を、体を動かすたびに悲鳴を上げたくなるほどの激痛が走る。

 でも、痛いから動けないなんて言ってられない。

 なんとか斧槍を拾って駆け出した私の背後で、バキバキと木々がなぎ倒される。


 自分のやらかしに気付いた瞬間、咄嗟に斧槍を地面に突き立てて軌道を逸らしたからこの程度ですんだ。

 それが出来てなかったらどうなってたことか。


 ポーチから取り出した緊急回復薬(ポーション)の栓を口で引き抜き、ひと口だけ飲んで残りを頭から被る。

 さっきので肺が焼かれた。すぐに息を止めたから、少しのはずだけど。

 かけるだけでも少しは効果が出る外傷と違って、臓器の傷には飲むしかない。

 叫びたいほどだった痛みが呻き声を上げるくらいにはなったけど、それでもまだ体は悲鳴を上げている。

 全部ちゃんと飲めたらもっと違ったんだろうけど、そんな余裕が無い。


 まるで陸上選手がスタートする時みたいに燃え立つ針が屈む。

 突進の予兆。

 邪魔な倒木を避けながら、全力で走る。


 どうすれば。

 これからどうすればいいんだっけ。

 全身の痛みが私の記憶を掠れさせる。

 あれだけ見た攻略動画を思い出せない。

 走って避けて、どうするんだっけ。

 わからない。


 でも、憶とは真逆に思考はやけにクリアになってく。

 襲いかかる爪を避け、斧槍で薙ぐ。

 怯んだ隙に距離を取って次に備える。

 重ねてきた訓練の記憶が、ほんの少しの実戦の記憶が、私の体を動かしてる。

 ゲームとして最適な動きではないかもしれないけど、今できる最善は尽くせてる。

 

 けど――ううん、()()()()()気付いてる。

 ここままだと私は死ぬっていうことに。


 魔力が足りない。

 走り続けなくちゃいけない以上、身体強化を緩められなくてずっと魔力を消費し続ける必要がある。

 それなのに、さっきの手痛い一撃をもらってしまった。

 負傷したこの体を万全以上のように動かす為により強い身体強化をかけてるのが今だ。

 燃費が悪い車を動かすためにより多くのガソリンが必要なのと同じ状態。

 私に残されてるガソリンじゃ、少しの時間しか走れない。

 それに、身体強化は走る以外にも必要だ。

 あの硬い体毛ごと肉を断ち切る為にはより強い身体強化がいるのに、それだけの余力が無い。

 つまり、このままだと燃え立つ針を倒す前に魔力がきれて、私は死ぬしかない。


 燃え立つ針が大口を開けた。

 バクバクとうるさいくらいに跳ね回る心臓の音を無視して腰を落とす。


 これは、賭けだ。


 王都に来てから始めた魔力操作の訓練の成果を出せるか否か。

 生きるか死ぬか。

 私の魔力と体力がまだ残ってる今が、いちばん可能性が高いから。


 ああ、しまった。

 こんなことになるなら、セオドアに文字の読み取りの――魔力操作のコツを先に教えて貰っとけば良かったな。


 燃え立つ針が迫る。

 爛々と輝く獣の目には獲物(わたし)を食べる未来だけを見てるんだろう。


 魔力を通し、腰を捻り、斧槍を振りかぶる。


「あああああああああああ!!」

「キィヤァァァアアアアアアア!!」


 人と獣、二つの咆哮が重なった。

 

どうしてもまとまった執筆時間が取れず、時間がかかってしまいました。

完結させるためにも、定期更新はやめます。

書ける時にこつこつ書いていくことにします。

それでもよろしければ、気長にお付き合い頂けると幸いです。


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