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4話 戦局を打開する

「んー、と」


 今後の人生に大きく関わってくる情報だって思うと、どう書いてこうか悩む。

 情報をちゃんとまとめなおす作業って、今までやってこなかったんだよね。学生時代は先生が黒板に書いたのをそのままノートに写してたし。

 とはいえ、悩んでも仕方ない。基本的な部分を先に書き出して、あとから付け加えてくしかないね。


 まずはタイトル。『咲き誇る花のごとく』。

 学園ファンタジーもので攻略対象は五人で、舞台はイギリスっぽい感じの異世界。

 主人公の『アイリス』はまあまあ大きな商店の一人娘で、国で唯一の国立学園への入学がひと月後に控えてるってところから始まる。


 年に一度『愁花の日』っていう祭日があって、実りに感謝するためのお祭りで一週間前から国中が賑やかになる。

 この祭日が入学の直前にあるのね。

 国や教会の重鎮の皆さんにとっては女神からの託宣がくだる大事な日でもあるんだけど、神託は一部の貴族にしか公表されないからほとんどの人が存在を忘れてお祭りを楽しむ。

 アイリスもその一人で家の手伝いもしつつ、入学したらあまり会えなくなる友達と屋台や広場での演奏にお芝居なんかを巡って特別な日を満喫した。


 で、その翌日。

 アイリスのもとに学園の教師がやってきて「入学にあたって個別に説明したいことがある。急で悪いが、ご両親と一緒に来て欲しい」って言われて、待機してた馬車に乗り込んだらあれよあれよと王宮へ。

 親子は通された部屋で「何が起きてるの!?」と大混乱であたふたしていたら、なんと国王や宰相なんかのお偉いさんたちがやってきてついに彼らはフリーズ。

 んでトドメとばかりに、「アイリスはこの国に大きな光をもたらすから、やりたいことやらせてね」的な神託が下ったってなんて話をされる。

 将来の仕事を決めてないなら、学費と必要な道具の費用は全て国が負担するから学びたいことを学ぶようにって言われて、その後もあれやこれや説明やら連絡係の紹介やらで落ち着く暇もなく入学の日を迎えた──ってのがプロローグ。


 端折ってみてもまあまあ長い。

 よし、ここにプロローグでは出てない情報を補足してこう。

 まずは。


「本当の神託についてだね」


 当事者であるアイリスや国の大半の貴族に伝えられた神託は『紫の瞳を持つ金の花。その娘、我が寵児なり。手折ることなかれ』。

 でも実際は違って、本当の神託は『紫の瞳を持つ金の花。その娘の歩む先にこそ光あり。妨げることことなかれ。歪めし未来は影へと沈む』っていうもの。


 この世界の神話の影響で、悪いことの喩えとして『影』が使われる。

 そんなとこで『影へと沈む』なんて文言が使われたんだから、国のお偉いさんたちはそのまま公表するのは危険と考えて、本人を含めほとんどの貴族にも本当の神託を伏せることにしたのね。

 影に沈むのが本人だけか、国ごとなのか判断しきれない以上、アイリスに伝えるのは悪影響の方が大きすぎるってのが上の人達の判断。

 私もそう思う。自分の行動によって国が悪い方にいっちゃうかもなんて考えただけでゾッとするし、普通の女の子の肩にいきなり乗っける重しとしては重すぎる。

 そんなもん、最初から肩を壊すつもりでもないと乗っけない。


 とはいえ、全部伏せちゃったら何がどうなるかまったく予想がつかなくなる。

 それで伝えられたのが、前半を少しアレンジした神託ってわけ。

 見守りはするし援助もするけど、余計な干渉は控えるし手出しはさせないためにも、アイリスとその周辺の状況を把握する必要があったからね。


 その一環として、国との連絡役と相談役を兼ねた人が何人か学園に用意された。その一人がヴィクトリア。

 国王の信頼が厚い重鎮の身内かつ、さらにアイリスと同性で同学年。本当の神託を伝えれるくらいには信用ができる人物っていう人選ね。


「やり取りの描写はなかったけど、最初にアイリスが呼び出されたときにはヴィクトリアもいたんだよね」


 あとで発売された設定資料集によると、ヴィクトリアはアイリスの厄介な連中に対しての虫除けとしても期待されてたらしい。

 実際、アイリスが成金商人の息子に言いがかりをつけられて、ヴィクトリアが助けに入るっていうイベントが入学式の日にあった。で、そこからヴィクトリア解説でチュートリアルに入るって流れ。


「うーん」


 こつこつと、ペンを握った拳で額を叩く。


 学園では二年生から学科に分かれる。

 騎士科、魔術科、魔法科、法政科、治癒科の五つ。

 どの学科に行くか希望できるけど、行きたいところに行けるかは一年時の成績次第。


 で、このゲームの攻略対象は五人いて、全員が違う学科に進むんだけど、攻略するには同じ学科に行かなくちゃいけない。

 だから二年目が始まる秋にそれぞれのルートへ分岐する。

 進む学科もとい攻略対象に合わせたステータスが必要だから、全ルートやるのに時間がかかるんだよね。

 魔術科と魔法科はだいたい一緒だから、二年の直前でセーブデータを二つ作っておいて、それぞれ別のルートを攻略してくって出来たんだけど……あとの三つは要求されるステータスが違いすぎるせいで一からやっていかなくちゃいけなくて、クッッソ面倒だった。


 それはさておき、ヴィクトリアはアイリスがどのルートに進んでも騎士科に進む。同じ学科でも違う学科でもアイリスをところどころサポートしてくれるのは変わらない。

 変わるところといえば、アイリスの親友になるかどうかってのと──


「ヴィクトリアが生存するかどうか、なんだよね……」


 攻略対象とくっつかないルートも含んだ全てのルートで見ても、ヴィクトリアが生き残るのは一つだけ。

 アイリスが治癒科に進んだ場合のみ。


 魔物討伐から始まり、ヴィクトリアが呪われるまでは同じ。

 だけど、治癒科のルートではアイリスと攻略対象の二人がかりで治癒と解呪に挑み、その甲斐あってヴィクトリアは助かるってわけ。


 えー、つまり、ヴィクトリア(わたし)が死ぬのを回避する確実な方法は、アイリスが治癒科に進む。以上。


「嘘だと言ってよって、感じよね」


 アイリスが治癒科に進む可能性に賭けるのって博打が過ぎるでしょ。

 四位で迎えたラス親で、八種八牌から国士無双狙うようなもんじゃん。せめて八種九牌くれ。


 これじゃダメだ。なんかないか、なんかないか。

 自分で今から練れる対策、なんかないか。


 案一つ目、原作のヴィクトリアを超えるくらいに強くなる。

 ……。

 いや、無理でしょ。才能もあるとはいえヴィクトリアは努力の人で、努力に努力を重ねまくっての原作だから現実的じゃない。

 それに設定資料集にはヴィクトリアの能力の高さについても書かれてた。

 各ルートのアイリスはその分野の才能を開花させ、卒業する頃には一流どころが欲しがる期待の新人になってる。

それにもかかわらず、騎士ルートのアイリスがヴィクトリアを超えるには三年がかりになる。もし、ヴィクトリア生きていたなら本人も努力を続けるのでさらに五年が必要──って。

 うん、私も努力はするけど、原作ヴィクトリアを超えれるとは思わないほうがいい。


 案二つ目、騎士にならない。

 騎士にならなければ、ヴィクトリアが死ぬ、あのイベントには遭遇しない。

 でも、原作から離れすぎて何が起こるのかさっぱり読めなくなるのは正直言って怖い。

 それに、なにより。

 ヴィクトリアは、家族が大好きで。立派な父親は誇りで、その父親の跡を継ぎたいって、だから騎士になるんだって、強く願って、その為に努力してきたから。


 ズキズキと胸の奥が痛む。

 もしかしたら、私の中のどこかにヴィクトリアがいるのかもしれない。

 そうだとしたら、こんな選択はなおさら出来ない。


「大丈夫、わかってるよ、ヴィクトリア」


 この案は絶対に選ばないっていう意思表示として、文字の上に横線を強く引く。

 すると、安心したように痛みが治まった。


「変なこと言って、ごめん」


 大きく深呼吸する。切り替えて、作業に戻ろう。


 案三つ目、すごいアイテムを探す。

 一つ目の案といいこれといい、我ながら知能指数が低い。他に頭良さそうな言い回し思いつかないから仕方ないんだけどさ。

 それはさておき、原作じゃ呪いに対抗できるアイテムはなかったけど、原作開始までの二年とそこからさらにイベントまでの二年の合わせて四年があれば見つかるかもしれない。

 公爵家の権力や財力なら探せる範囲はかなり広いからね。


 呪い対策のアイテムが無理でも、打開に繋がるアイテムがあるかもしれない。

 例えば、能力向上(バフ)系のアイテムとか。

 原作ヴィクトリアよりも強くなるのは無理でも、上げ底すればいけるはず。


 よし、『なんかすごいアイテムを見つける』、とりあえずこの方針でいこう。

 とはいえ、今は情報がなんっにもない状態だし……図書室でも行ってみようかな。

 善は急げ。

 朝食の後に図書室に寄って何冊かアイテムや呪いについての本を見繕って、部屋に持って帰ろう。

 原作知識や遥華の思い出をノートにまとめるのは空いた時間にちまちまやっていけばいいし、朝食後は予定を変更して調べ物だ。


 本当は図書室に篭もったほうが効率はいいんだけどね、うん。

 コニーと約束した手前……部屋で読書っていうことにしたいなって、うん。

 怒らせると、怖いなって、うん。


 転生(?)初日のクセに、変なところで冷静な自分に感心しながらも、私は記憶と知識の書き出し作業に戻るのだった。

ストックが尽きました。

以降は土曜更新になります。

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