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19話 『 』の気配

『さきはな』と『シャドブ』、それぞれのことを書いたノートを広げる。


「持ってきておいて良かった……」


 ヴィクトリアになって──つまり、ゲームに触らなくなって半年。

 どっちのゲームもうろ覚えになってる部分が出てきてる。

 ノートを何度も読み返して書き足してってしてこれだから、書き残してなかったらかなりのことを忘れてたはず。

 実際、ヴィクトリアになってからノートに書くまで時間が空いちゃった『シャドブ』のほうは記憶が怪しいところが出てきてるし。

 だから、ゲームの記憶を照らし合わせるのにノートが無かったら困るんだよね。

 あ、そうだ。覚え書き用に新しいノートも出しとこう。


『さきはな』の神話は、どこからか現れた影の軍団が神々と争うところから始まる。

 神は一柱、また一柱と倒れていくけれど、影もまた数を減らしていく。

 その中に花の女神の恋人だった神もいた。失われた恋人を想って流した涙から竜が生まれ、その竜は花の女神に寄り添い、ともに戦う。


 数え切れないほどの時間が過ぎた頃にはほとんどの神と影が倒れていた。

 残った神は二柱。花の女神とその兄神。残った影は最初に現れた、最も強力な影。

 争いに意味を見いだせなかった兄神は、花の女神に別れを告げてこの世界を去る。

 花の女神は竜と共に最後の影と戦い、竜を失ったが辛くも勝利する。

 痛手を負った花の女神は竜の亡骸に寄り添いながら眠りにつき、そこからたくさんの花が生まれた──っていう感じ。


 で、『シャドブ』。

 神話がちゃんと出てくる『さきはな』に対して、『シャドブ』は明確な形では神話が出てこないんだよね。

 ただ、アイテムのフレーバーテキストやストーリーから少しだけ読み取れる。

 神々が生まれて数千年。

 ある日、一柱の神に足元の影が「変化がほしくないか」と囁きかけた。

 変わらない日々を憂いていた神は、影の口車に乗ってしまい、力を分け与えた。

 力を得た影は多くの神々を飲み込み、世界に『闇よりも昏き影』をもたらした──ざっくりこんな感じ。


 二つのゲームの神にまつわる話の共通点っていったら、神々と影が争ったってくらい。

 神々と何かが争うなんて珍しくない、よくある話。

 だけど、()()()()の神話とならどっちも共通点がよく見えてくる。


 最初に始まりの神がいた。

 始まりの神はふと思い立って、己の体を分け、神々と大地を作り出した。

 神々は強い力と不老の肉体を持って生まれたけれど、生命を生み出すことだけは出来なかった。

 そんな中、ある神の足元にあった影が力を持ち始めた。

 やがて影は神から力を奪い、他の神の影たちと共に神々へ牙を向き、大きな戦いとなった。

 長い争いの日々の中で、神々は影を討ち、また、神々も影に討たれていく。

 倒れた神々の躯からは精霊や妖精、動物や人が生まれ、大地に根を張った。

 影が最後の一つになった頃には、残った神は二柱の兄妹神だけだった。

 けれど兄神は影との争いを無意味に思い、この世界から去っていった。

 残された妹神は己から生まれた竜とともに最後の影と戦い、竜を失いながらもこれを討ち倒した。

 深く傷ついた妹神は残された力を振り絞り、大地に息づいた生命たちに祝福を与え、眠りについた──大まかな流れだとこんな感じ。


『さきはな』はそのまんま──というか、この世界の神話を一部抜粋したら『さきはな』の神話になる。

 蛇足だからゲームでは省かれただけかもしれない。

『シャドブ』のプレイ中は影が神に勝ったんだって思ってたけど、よくよく考えてみると神々と影の争いに決着がついたかは明言されてなかった。


「いや、そこはどうでもいいのよね」


 トンと指で『シャドブ』のノートを叩く。

 間違いないのは、()()()()()()の影が始まりだったってこと。

 それがどういう神なのかは、この世界の神話でも語られてない。

 気にはなるけど、ここはとりあえずスルーしとく。

 何より大事ことがある。

『シャドブ』でデバフ『呪い』を解除できるアイテム『昇華薬』を売ってくれるNPCの異国の巫女。

 もしかしたら、この巫女の出身地がわかるかもしれない。

 それというのも、この世界の神話は一つだけど、信仰する神が国や種族によって違うから。

 この国は花の女神だし、ルーウィンだと鍛冶を司る槌の神、エルヴィラ様の生国ゲイルノートだと始まりの神って具合に。

 つまり、()()()()()()か分かれば、どの国から来るか推測できるってこと。

 もっと言えば、その国から『昇華薬』を取り寄せられるかもしれない!


 生き残りへの初めての手がかり。興奮で背筋がぞくぞくする。

 この調子で照らし合わせていけば、もっと多くの手がかりが掴めるかもしれない。


 巫女のセリフを細かいところまで思い出せ。

 ペンを握った手でこつこつと額を叩く。

 確か、巡礼の最中だって言ってた。他の信者ははぐれてしまったり、倒れてしまったりとか。他には、全ての薬は自分で作ったとかも。

 あと、そう! 買い物した後に必ず言うセリフの「旅こそが我が信仰、我らが巡礼」だ!

 っていうことは、旅が関係する神だよね。

 うーん、ちょっと記憶にないな。

 マイナーな神かもしれない。後で調べてみよう。


 新しいノートにつらつらとメモしていく。

 付箋かルーズリーフがあったら、新しいノート作らなくてもいいんだけどね。

 残念なことにどっちも存在してないし、もっと残念なことに実現のためのアイディアもない。


 ふぅと一息吐いて、気付いた。

 ぞくぞくしたのって、興奮だけじゃなくて熱があるから、かも?

 心なしか寒い気がする。

 天気が良かったとはいえ、外で立ち話するには寒い季節だしな。


 うーん、もうちょっと色々考えたい、けど。

 寝込む羽目になる前に素直に休もう。考えるだけならベッドの中でも出来るしね。

 コニーに余計な心配かけさせるのも嫌だし。

 早めに休んでさっさと治そう。


 そう決めた私は、ベルを鳴らしてコニーを呼んだ。

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