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17話 再会

誤字脱字チェック、ほとんど出来てません。

気付き次第、訂正します。

「ポン」


 どうして、こんなことになっちゃったんだろう。


「フィリップ。ドラとはいえ軽率に鳴くのは情けないのではなくて? あ、チーです。頂きますわ」

「オリーヴィア。言っていることとやっていることが矛盾していますよ」


 どうして、どうして、こんなことになっちゃったんだろう。


「申し訳ありません、お二方。ツモです」

「「フィリップ!」」


 どうして、どうして、どうして! こんなことに! なっちゃったんだろうっ!!


 私は今、雀卓を囲んでいます。

 王妃のエルヴィラ様にオリーヴィア第二妃殿下、それに攻略対象の第三王子フィリップ様の三人と。

 これが動画配信サイトとかなら「そうはならんやろ」ってコメントが大量に流れてる。

 なんなら私も思ってる、そうはならんやろ。


 昨日の約束通り、お妃がたに麻雀を教えるために王城に上がりマシタ。

 皆さま、役もルールしっかり把握してたので五ブロック理論だとかそういうのを教えてマシタ。

 メルセイディス様が急用で退席されマシタ。

 ここまではいい。いや、よくはないんだけどまだいい。

 ピンチヒッター、フィリップ登板。

 挨拶のため顔を出しに来たフィリップ様を、エルヴィラ様が「用がないなら打ってきなさい」って呼び止めて今に至る。

 なんでだよなんでだよなんでだよ。


「こほん。話を戻しますね」

「はい」


 ほっとした。すっごくすっごくほっとした。

 ずっとこのままだとどうしようかと思ってた。


「雀牌はどのくらい増産出来そうですか?」

「商会に話を持ち帰らなければ正確な答えは出せませんが、そう多くはないと思われます」


 パトリシア様が次の秋にルーウィンに嫁がれるんだけど、その時に麻雀セットを持っていくつもりらしい。

 へー、そうなんだーって感じなんだけど、パトリシア様のお兄様やオリーヴィア第二妃殿下、エルヴィラ様はそのまま麻雀をルーウィンで広めたいんだって。

 金銭的な利益はもちろんだけど、他にはこの国──イングレイシュに親近感を持たせたいんだと思う。

 パトリシア様が成婚したら、その次に第二王子殿下の婚姻が控えてる。

 第二王子殿下はルーウィン王に即位し、あっちの王女と共同統治という形を執ることになるから、少しでもやりやすくするためにね。


 それなら国で雀牌の生産に乗り出せばいいじゃんって話だけど、そうしないのは私、もといテイラー侯爵家の顔を立てるため。

 余計な火種を作らないようにってのもあると思う。

 利益が出たら国に事業を取り上げられる、なんて前例は作っちゃ駄目でしょ。

 軍需産業ならもともかく、嗜好品でやっちゃうと揉めに揉めるのが目に見えてるし。

 他にもオトナの事情が色々ありそう。


()()()品を扱っている商会に増産を促してもいいのですが、立場のある人間はまず貴方の懇意の品を求めるはずです。

 可能な限り多くを作らせなさい」

「資材が不足していた場合、多少の援助は頂けますか?」

「程度にもよりますが、善処しましょう」

「ありがとうございます」


 私が作ってもらってる雀牌、ちょっとだけ珍しい技術使ってるんだよね。

 木製の牌や点棒の表面をプラスチック──ユリア樹脂みたいな手触りにするってだけなんだけど、ちょっと難しい技のわりにはそんな意味ないじゃんってことでほとんど需要がない。

 どうしても元の世界の雀牌の手触りを忘れられなくて採用したんだけど、出来る人が少ないもんだから生産数がなかなか伸びないんだよね。

 材料があんまり流通してないってのもあるんだけど。


「それと、少しでいいのです。ルウェリンの受注を優先させてください」

「ルウェリン、ですか?」

「ええ。オリーヴィア」

「かしこまりました」


 オリーヴィア第二妃殿下って、エルヴィラ様の秘書みたい。いや、違うな。懐刀? 片腕? うーん、わかんない。

 とにかく、視線をエルヴィラ様からオリーヴィア第二妃殿下に移す。

 お手元の点棒が寂しいことになってるのは見ないふりしとく。


「パトリシア嬢にジェラルド(だいにおうじ)。それぞれの婚礼に先駆け、内々のものから公に訪れるものを合わせ、ルーウィンからの使者が増えております。

 彼らは王都だけでなくルウェリンにも足を運ぶでしょう。まずルウェリンで、麻雀の存在を知ってもらいたいのです」

「ではそのように取り計らいます。商会と話が出来次第、報告いたします」

「頼みましたよ」

「ところで、エルヴィラ様、オリーヴィア第二妃殿下」

「なんでしょう?」「どうしました?」


 こほんと咳払いして、捨て牌たち(かわ)を見る。


「このままだと、フィリップ殿下が一位になると思うのですが」


 小難しい話をしながらだから、麻雀に割くリソースが減りまくってる。

 そのせいでちょっと──ううん、かなり。牌の取捨選択と当たり牌の読みが甘くなってる。


「そんなことないよ、ヴィクトリア嬢。そのまま話を続けてもらっても、私はいっこうに構わない」


 柔和な笑顔でフィリップ様がそう言えば、エルヴィラ様はすぅっと目を細め、オリーヴィア第二妃殿下はきゅっと唇を引き絞る。

 そして、示し合わせたかのようにエルヴィラ様とオリーヴィア第二妃殿下は力強い目で私を見た。


「話の続きは後です。いいですね、オリーヴィア?」

「ええ、もちろんですとも」


 いいんかい。私にもっと勇気があったら声に出してた。

 ツッコみたい気持ちと遠くを見たい気持ちを抱えながら、攻略対象(フィリップ)との初めてのエンカウントは麻雀を打って終わった。

 フィリップの記憶がほぼほぼないのは言うまでもない。

 どうして、こんなことになっちゃったんだろう。










 疲れた。みょうに疲れた。

 昨日とは違う気疲れが肩にズシッとのしかかって来てる。


「ヴィクトリア様。今日は天気もいいですし、中庭をご覧になりませんか?」


 疲れた私への思いやりに満ちた申し出の温かいこと温かいこと。

 女官の言葉が骨に沁みる。

 客人の案内を任されるのは有能な証拠。

 貴族の人間関係にパワーバランスを把握し、遭遇させちゃいけない人同士を廊下でばったり会わせないようにしたり、逆に急ぎで呼ばれてる人間を速やかに案内したり。

 客人の様子を見て、状況に適した対応もしなくちゃいけないんだから大変だよ。


「そうね、そうさせてもらうわ」

「では、またお帰りの際はお声がけください」


 当たり前だけど、昨日来たばかりの中庭に変わりはない。

 それでも来たのは気分転換のためと──。


「いた」


 口の中にしか広がらないくらい、小さく呟いた。

 昨日と同じ場所に、昨日と同じ人物。


「珍しい顔を二日も続けて見るなんて、明日こそ大雪か?」


 セオドアの言葉は昨日と同じでずいぶんなものだけど、昨日とは違って本を読んでた。

 今も、私を目だけでチラッと見て、すぐに本へ目線を落とした。


「ご機嫌よう、セオドア様」

「ご機嫌麗しゅう、金羊の宝玉」


 うーん、皮肉な挨拶だな。ちょっとイラッとした。

 テイラー侯爵家が預かる騎士団は『金羊騎士団』。その侯爵家の()だから『金羊の宝玉』なんて表現にしたんだろうけど。


「あら、セオドア様。我が金羊は宝を魔物に披露するような騎士団だと仰っているのでしょうか? ずいぶんと面白い冗談ですね」


 胸を張って堂々と言い返す。

 意訳すると「女だからって舐めんな、バーーーーーーーーーーーカ!!!!」デス。

 ヴィクトリアは──私は、宝玉みたいに守られる存在じゃない。

 武器を手にして、守る存在になるって決めてるんだから。


「ホント、珍しい」


 セオドアの左の口角が釣り上がった。

 立ち絵やスチルで何度も見た、皮肉めいた笑いかた。


「昨日からそればかりですね。何が珍しいのか、教えて頂いても?」

「へぇ、知りたいんだ」

「何度も繰り返されれば気にもなります」

「ははっ」


 ドキリとした。

 少しくすんだ緑の瞳が私を見つめてる。

 探るような眼差しは、きっと気のせいじゃない。


「テイラーのご令嬢が俺と関わろうとしてること、とか?」

「……関わろうとしてるなど。私の行き先にたまたま貴方がいただけです」

「言い訳にしてはお粗末すぎると思わない?」


 自分でもそのとおりだと思う。

 昨日のセオドアの言い分を聞いた以上、ここには高確率でセオドアがいるってわかってる。

 それなのに、たまたまいたっていうのは苦しすぎる。


「そうですね……」


 特に目的があったわけじゃない。

 なんとなく、いるのかなって気になっただけ。

 でも、セオドアとヴィクトリアの、マイナス寄りの関係値を考えたら不自然だよね。


 うーん、困った。他の言い訳が思いつかないな。

 仕方ない、ここは正直にいこう。


「セオドア様の勤怠状況が気になったので」

「は?」

「セオドア様の勤怠状況が気になったので」


 大事なことなのでニ度言いました。

 いや、大事なわけじゃないんだけどね。


「昨日、セオドア様は中庭でのお昼寝が仕事だと仰っていました。

 私も昨日に続いて再びこちらを通りがかりましたので、どうせならその仕事ぶりを見せて頂こうかと思ったのです」


 正直に、しかしオシャレに言ってみた。

 貴族っぽい言い回しじゃないけど、ユーモアのある言いかたには出来たはず。

 多分。


「く、くくっ……」


 こら、笑うならちゃんと笑いなさい。

 渾身のボケのつもりで繰り出したんだから、受けたならちゃんと笑ってもらいたいところ。

 口元を隠しても、笑い声が漏れてるし肩も震えてるしで笑ってるのはバレてんですけど。


「ホント、珍しい」


 まただ。

 こうも繰り返されるとムッとする。

 でも、セオドアが続けて出した言葉は私を凍りつかせた。


「あんた、ホントにテイラーのご令嬢?」

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