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10 オスカーは怖い人


「へぇ。オトコ受けねぇ。それはアレかい? 見合いがあるとか好きな男とデート出来ることになったとか?」


 オスカーは右手で頬杖を付きながら、からかい半分に面白そうにリリアンヌに尋ねる。


 だが、そんな態度は彼女の次の一言で豹変した。



「いいえ、違いますわ。私を地味ブスだと罵り、婚約破棄した男に復讐するためですわ。美人になってコテンパンに捨ててやると決めてますの」


 毅然と、むしろさっき泣いたおかげで気持ちに整理がつき、清々したように答えるリリアンヌとは裏腹に。


 口元に笑み残したまま、目だけを剣呑に歪めるオスカーは、先程リリアンヌをからかった時とは別人の様に低い声を出した。



「へぇ〜〜。何、そのクソ野郎の面白い話。最低のミジンコ野郎だな。俺、個人的に女の容姿を馬鹿にする男は大嫌いなんだよね」



 そう言って彼はスッと立ち上がると、リリアンヌの真横に立ち、いきなり彼女の顎をその長い指でクイっと持ち上げると自分の方に向ける。


 リリアンヌはその洗練された動作に、思わず顔を真っ赤にしてしまう。



ーー何これ何これ何これ。


  え? 

  超の付く美男子に顎クイされるって夢かしら?



「やっぱり、このアホみたいな化粧したままじゃ分かりにくいな……おい、ジッとしてろよ」


 リリアンヌが夢見心地で呆然としている間にも、手際よくクレンジングを含ませたコットンで化粧を落としていくオスカー。



ーー指先がひんやり冷たくて、気持ちいい。


  手付きも優しくって……


 って、私ったら何考えてるんですの!? 

 

  いけませんわ! 


  もう顔が良い男には騙されません!




 リリアンヌはすっかりお化粧の取れた素顔を、両手に挟んでピチピチ叩く。


「いきなり何してんの? まぁ、いいや。よく分かったから」


「わ、分かったって。何がです?」


ーーちょっとウットリしてたのがバレたのかしら……


 リリアンヌが恐る恐る尋ねると。



「あんたの顔は化粧でかなり化けるタイプだってこと。全体的に小作りだから華やかさに欠けるタイプだけど、逆に言えば主張がないから、別人級の顔が作れる」


「いわゆる、化粧映えするタイプだ。よかったな」


 オスカーが茶目っ気たっぷりに投げかけてきたウインクに、リリアンヌは座りながら一歩後ろにのけ反るという高等技術を披露した。



ーー顔が良いってやっぱりズルいですわ……


  っていうか、私って褒められてますの? 


  それともやっぱりdisられてます!?




 リリアンヌは淑女の笑みで、何とか言いたいことを飲みこむ。



「それは……よかった、ですわ。ええ、よかったですとも。それでは、私にお化粧をご教授頂けまして?」



 その問いに、オスカーはゆっくりと頷いてみせた。



「ああ、あんたの復讐計画に乗ってやるよ。但し、俺は金持ちからは徹底的にぼったくることにしてる。それと俺には時間がないから、期間は三ヶ月限定だ」


「代わりと言っちゃあ何だが、オトコ受けする化粧以外の髪結いや、所作についてもトコトン教えてやるぜ」


 リリアンヌはコクコクと同意すると、二人は契約書にサインし、ここに三ヶ月限定の師弟関係が生まれた。

 オスカーは毎日、リリアンヌの邸宅に通うことを約束する。




「それじゃ、三ヶ月よろしくな。ところで、クソ野郎で、最低のミジンコ野郎の好きな女のタイプを教えてくれるか?」


 オスカーは腹黒そうな笑みを浮かべて聞く。




「そうですわね……私と婚約破棄した時に、隣に侍らせていた方しか知りませんけど。ピンク色の髪と目を持つ可愛らしいけれど、沢山の男性と噂のある女性でしたわ……」



「ご存知かは分かりませんが、私の祖国のモガリナ王国では、お化粧する女性は珍しいのですけれど、彼女は薄くお化粧をされておりましたの」



 リリアンヌは、出来るだけ正確にロゼリアのことを伝えようと明後日の方向を見ながら答えていた。



 そのため、いきなり目の前の机にオスカーの握りこぶしがドンッと落ちてきて、飛び上がりそうになった。


 さすがに今度は椅子から立ち上がって後ずさる。



「オスカー先生、いきなり辞めて下さいませ。何なんですの?」


 嗜めようとオスカーを睨むように見据えると。


「おい……あんたの元婚約者は、自分の浮気を棚に上げて婚約破棄し、あんたを罵った上に、その浮気は尻軽女で有名だったってことであってるか?」



ーー人ってホントに青筋とか立つんですわね……


 握りこぶしを落としたままのオスカーは、あまりに恐ろしい形相をしている。


 綺麗な人が怒ると怖い。


ーー東洋で聞いた、鬼のようですわ……



 リリアンヌは、さっきまでその美貌に浮かれていたことなどすっかり吹っ飛んでいた。


 オスカーを見ても怖い人という感想しか浮かんでこなくなるくらいには。



「あ、合っていますわ……」


 何とか震えながらリリアンヌが答えると。


「へぇ〜〜。そうかい、よく分かったよ。おい、これからあんたの全身を磨いて限界まで美人にしてやるから、覚悟しな」


 そう言って唇を歪めたオスカーは、今日一番の黒い笑みを浮かべていたのであった。



  ★



「げ、限界まで……望むところですわ、よろしくお願い致します」


 オスカーの不穏な空気に飲まれながらも、美人になれるに越したことはない、とリリアンヌは一歩踏み出して、強く頷いてみせる。



「よし、よく言った。俺は底辺の娼婦を花魁に、街の踊り子を国一番の花形に変えてきた男だ。信じてついてこい」


「じゃあ、まずは五キロ痩せながら並行して筋肉をつけよう!」



 いきなり出てきたハードな課題に、リリアンヌは二歩下がる。


「五キロ! 筋肉!? ど、どうしてですの? 私、別に太ってはいないと思うのですけれど。それにお化粧は?」




 彼女はダイエットの辛さを知っているのだ。


 反射的にお腹の肉を摘んでみる。



「そうだな、あんたは体型も平均的だ。だが、それじゃあいけない。全身を磨くって言っただろ? 化粧はセンスが壊滅的なのは分かったから、後回しだ。」


「そもそも体型って言うのは全体的な雰囲気を作るんだ。ガリガリはダメだが、少し細身で程よく筋肉の付いた体が万人受けする」


 そう言ってオスカーは、自らの鍛えた二の腕を見せてくる。


「想像してみろ。同じ顔の男でも、ヒョロヒョロしてる奴より適度に体を鍛えてる奴の方が、頼り甲斐がありそうに見えないか?」



ーーそれって、ただの筋肉自慢ではありませんの?


 リリアンヌは、文句をつけたい内心をなんとか胸の内に隠しながら答えた。



「だ、男性はそうかもしれませんけど。私は女性でしてよ? それに、そう! お父様が男性は少しぽっちゃりなくらいの女性が好きだと言っていましたわ!」


 両手をパンっと叩いて、自らの記憶力の良さにリリアンヌが喜んでいると。


 オスカーのいる前方から黒い空気が流てくるではないか。




「ごちゃごちゃ煩い女だな。いいか! 男の言うぽっちゃりは女が思うぽっちゃりではない!! ただのグラマーな体型のことだ!!!」



 ドンッ


 再び握りこぶしが机に落ちてくる。



ーーこわいっっっ


 リリアンヌは再び一歩下がる。


 彼女はこれでも生粋のお嬢様なのだ。


 暴力的な態度には慣れていない。


 気が付けば、リリアンヌはもう壁際にまで追い詰められてしまっていた。



 オスカーがその長い足で、コツ、コツと彼女の元まで近づいてくる。


 そして、ダンッと両手を壁に付きリリアンヌを壁との間に閉じ込めてしまうではないか。



 まるで、物語に出てくる王子様の壁ドンのようだったが、残念ながらリリアンヌは全く浮かれることは出来なかった。



「いいか? そもそも、あんた、胸は見るからに絶壁で平均以下なんだ。ちょっとくらい痩せたってこれ以上減る脂肪も付いてないんだから余計な心配はしなくていい」


「な、なんですって!? どこ見てるんですの!」


 リリアンヌは思わず、両手で胸を隠す。



「分かったら、今から庭を走ってこいっ! これから最低一日三周は走れよ。俺はコックにダイエットメニューを伝えてくる」


 そう言って、オスカーは彼女から離れると、扉に向かって歩き出した。


 片手をヒラヒラとさせながら、最初のようにからかい半分のふざけた口調で言う。


「じゃあ、頑張れよ。お嬢様」




ーー憧れの壁ドンって、こんなにときめかないものだったんですわね……


 こうして、リリアンヌは乗馬用の動きやすい服に着替え、庭を走ることになったのであった。

いつもブクマ等で応援して頂き、ありがとうございます!

励みになってます(◍•ᴗ•◍)



美容ネタは作者の独断と偏見です(笑)

突っ込みどころも多々あるとは思いますが、生温かく見守って頂けると嬉しいですm(_ _)m

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