8 「猫にも真珠を……」と、にわかボスは言った
「猫だって真珠が欲しいってもんさ……」
ふいに上司の京さんがつぶやいた。私、馬弓柑奈は今、とあるインターネットの情報サイトでカメラマンとして働いている。
「……えっ?」
「あっ、聞こえちゃった? ……豚に真珠とか猫に小判って言い方するじゃん? 猫だって真珠の方が好きかもしれないのに。いや、私が猫だったら絶対真珠の方を選ぶ」
何やら訳のわからないことを言い出した。
「何かあったんですか?」
「えっ……あぁ気にしないで、ちょっとしたグチだから。あれがまた細かいところまでいちいち指図してくるもんでさ、いらついちまったんだ」
『あれ』というのはここの出資者のことだ。このオフィスには顔を出したこともないその人物のことを、私は名前すら知らない。ここの設立に力を貸してくれて、お金を出してくれた人のことを、ひどい言いようだが、京さんの話から推測するに、かなり高圧的な人物のようだ。実のところ、その出資者がどんな人物なのか興味はあるのだが、私が今ここにいるのは、そんなことの為ではない。あれは……一週間ほど前のことだった。
「入りなさい」
応接室には、祖父と、男性がふたり待っていた。このふたりは呉服屋『するがや』の主人、駿河 家宗さんと、その息子の家由さんだ。うちの探偵事務所のもうひとつの商売、扇屋『あげは』とは古くからの盟友のような関係で、最近では家宗さんと祖父が中心となってプロジェクトを立ち上げ、着物文化を後世に残すべく東奔西走している。
「家宗さん、今日はどういったご用向きで?」
家宗さんはしばらく気遣わしげに息子の方を眺めていた。
「……家由、お前の口から説明しなさい」
「おやじ! 彼女はそんなんじゃ……」
「お前から大金をせしめた途端、行方をくらました。もうお前も気づいただろう。残念だが……」
「……ス……スマホをなくしただけかもしれない。それか……だ、誰かに監禁されているとか……。そうだ、それで連絡が取れなくなって、きっと彼女も困っているに違いない。馬弓さん、お願いします。彼女を捜し出してください」
「いいかげんにせんか! 家由。わしがこれまでさんざん言い聞かせてきた通り……」
「出会ったばかりの人物に簡単に気を許すなと言うんだろ? 彼女はそんなんじゃないってオレ、何度も言ったじゃないか。分からず屋はオヤジの方だ!」
それだけ言うと、家由さんは部屋から飛び出していってしまった。
「すみませんね。樹太郎さん。身内の恥をさらしてしまったようで……」
「なんの、なんの……まだ、家由くんも気持ちの整理がついていないだけでしょう。それに、自分が騙されていたことを認めるのは、想像以上に骨が折れるもんです。どちらにしろ、その女性を捜さねばならないようですな。実際のところは何が起きたのか、最初の出会いからお聞かせ下さい。」
「先月まで、家由には文化交流の一環として、とある国へ出張させておりました。向こうへ渡航する飛行機で、隣の席に座った女性と意気投合したそうです。それが彼女との出会いだったようです。その後も、宿泊していたホテルが同じだったり、気に入って通っていたレストランでばったり会ったりと、何度も偶然に見える出会いが続きました。ふたりはあっというまに親しくなって、滞在中は毎日のように会っていたそうです。彼女はフリーライターを名乗り、うちの職業を知るとたいそう喜んだそうです。」
「ほう? 理由は?」
「今度、自分の記事で日本の服飾文化について取り上げるつもりだ、と。ついては日本に生活拠点を移したい。ちょうど後ろ盾になってくれる人物を探していた。あなたが不可能でも誰かを紹介してくれ……と。家由は、それならば自分が……と安請け合いしてしまったようです。今にして思うと、異国で知り合った気の合う女性を前に、いいかっこしたかったのかもしれません」
「家宗さんは、その女性を快く思っていないご様子ですな。何故ですか?」
「その女、日本にやってきてから頻繁に私どもの店にも顔を出すようになりました。どうやら家由のヤツにカネをせびりに来ていたようで……」
「大金を持ち逃げされたとおっしゃっていましたな?」
「ええ……最初の内はささやかな金額でした。タクシー代が足りなくて車を待たせているだの、財布をどこかに忘れてきただの言って……。そのうちに会社設立という名目で、私には内緒でまとまったカネを何度か渡していたようです。総額で一千万円ほどになりますが……」
「よく、お気付きになりましたな」
「うちの従業員が、息子とその女が話しているところを偶然目撃したんです。彼女が言うには、『借りたお金は、会社が軌道に乗ったら必ず返せる。運悪く今まで仮のオフィスにしていた物件が火事に遭って、新しい物件をすぐに探さなければならない。他の債権者への返済期限が迫っているのにどうしよう。家由さん……助けて』と、こういうわけです。その時にも二百万円ほど要求されていたそうです」
「それはそれは……こちらの親切心や愛情に訴えかけて少しずつカネを巻き上げられて、気づいたら大金を渡していたというところですかな」
「はい、そればかりではありません。ウチにある家宝を独占取材させてくれ。本邦初公開を自分のメディアでやれば注目を浴びることができるし、自分の次の仕事に繋げることが可能だ……と、こう言ったそうです。息子は、お金は貸したものの、取材については断ったそうです」
「家宝……ですか?」
「はい。どこから情報を得たのか、うちにある『掌中の珠』について、根掘り葉掘り聞き出そうとするんです」
「『掌中の珠』?」
「我が家の先祖から伝わる、ある装飾品の名です。およそ300年ほど前、当時随一とうたわれた細工師、初代枢亥亭 久示の手による作品だそうです。ここに……この写真に写っているものがそれです」
写真の中には、ニンマリと満足そうな笑みを浮かべた招き猫が鎮座していた。手には小判ではなく、真珠の大きな珠を抱えていた。
「これは……根付ですか? ずいぶんと……滑稽なデザインですな」
「ええ。我が『するがや』の初代当主は、無類の猫好きだったようで、店の看板にも猫が描かれているくらいです」
「私、見たことがあります。たしか、招き猫の絵柄ですよね」
「ええ、柑奈さんはご覧になったことがありましたか。現在使用しているのは10代目の看板ですが、創業当時からデザインはそう変わっていないようです。初代当主は、ラッキーアイテムとして招き猫を集めていたそうで、今でもウチの倉庫にたくさん保管されていますよ。そうだ、柑奈さん。よろしければ、今度お見せしますよ。こう……招き猫がズラッと並んでいる様は壮観ですよ」
ふと入院中に見た夢……を思い出した。
「うっ……機会があったら伺います」
「その直後にいなくなった、と?」
「実は……事態はそれだけでは済まなかったのです。息子に断られた後、女はなんと、私に直接連絡をしてきました。彼女の言い草はこうです。『掌中の珠をどうしても取材したい。自分のところで取り上げればおたくのお店も話題になりますよ。正直言って今時こんな店、客が来るんですか? せっかくの家宝がしまい込まれたままじゃ、宝の持ち腐れじゃないですか』掌中の珠はウチの大事な家宝です。門外不出といっても過言ではない。他人の人気取りやカネ儲けのネタに利用されるなんて……冗談じゃないです」
「かなり強引な女性のようですな」
「家由にも落ち度はあったかもしれません。易々と大金を渡してしまったのですから。ひょっとしたらあわよくば……という期待もあったのでしょう。その下心につけこまれた形になってしまって……」
「……家由さんにはお気の毒ですが……」
「どうぞ樹太郎さん、正直なご意見を言って下さい」
「家宗さんのニラんだ通り、その女性は最初からある目的を持って家由さんに近づいてきたのでしょう。飛行機の座席も、宿泊するホテルも前もって予約しているわけですから、家由さんがそこにいることは調べることができるでしょう。残念ですが……」
がっかりすると言うよりは、自分の見込みが当たったことに安堵した表情を浮かべている家宗さんに私は尋ねてみた。
「……その女性がいそうな場所に心当たりはありますか?」
「ほれ、ここに……その女がくれた名刺があります」
名刺には『フリージャーナリスト 甘展 京』と書いてあった。
女は自宅からほど近い場所にある、このカフェに立ち寄るのが日課になっていた。本来ならばその地域での仕事が終わればすぐに次の街へと引っ越すことにしているのに。ここで提供されるコーヒーが気に入ってしまったのだ。それに、近所の住人も特に自分のことは気に掛けていないようだ。今の自分にはそれぐらいの他者との距離感が心地いい。女の後ろで順番待ちしていた二人組の会話が聞こえた。
「おい、聞いたか? スコーピオンが、今度は日本に出没したんだって」
「ふうん、スコーピオンって何だ?」
「有名な宝石泥棒だよ。ネームドの宝石あるところには必ずスコーピオンありと恐れられているそうだ」
「へっええ、名前が付くような宝石なんてオレには縁がないからな。そいつ、そんなにすごいのか?」
「ああ、すごいなんてもんじゃない。世界を股に掛けて活動していて、一度も捕まったことがないそうだ。」
「捕まったことがないのになんでスコーピオンの仕業だってわかるんだ」
「さあな? 予告状が来るとか? わかんねえよ。ただ、手口がとても鮮やかなんだそうだ。決して人を殺めることなく、無駄な破壊や強奪もせず、ただただその場で一番価値のある宝石のみをいただいていくんだそうだ。そんなことをできるのは、スコーピオンしかいないという話だよ」
「まゆつばものだな。実在するのか? そのスコーピオンとやらは……」
「お待たせ致しました。オリジナルブレンドひとつですね」
「ありがとう」
女は注文した品を受け取ると、背後の大型モニターから流れるニュース映像をふと見上げた。
『昨日、日本の美術館から“水底に眠る星”が盗まれていたことがわかりました。館内は沢山の展示ケースが破壊され、盗まれた物の確認に時間がかかったようです。なお、この事件で警備員2名が重傷のため、入院したとのことです。当局の発表によりますと、怪盗スコーピオンを名乗る者の犯行だと……』
「……くっ……」
女は店を出た。他人にぶつかっても気付かずに……。ある考えが頭の中をグルグルと駆け巡っていたから。やがて、女は人混みに消えていった。何かを決意したかのように、わずかな微笑みを口元に浮かべながら……。
「清見ちゃん! この記事は本当なの?」
「へっ?」
「『へっ』じゃないわよ、『へっ』じゃ……。川瀬美術館から宝石が盗まれた件よ。どこもかしこもスコーピオンの仕業だって話題になってる。警察の公式発表なの?」
「ど、どうしたの? 青島さん」
「みかんちゃん、聞いてよ。スコーピオンが日本で盗みを働いたんですって」
「あっああ、どこかの美術館の……『水底に眠る星』とかいう……アクアマリンだっけ?」
「それよそれ。」
「でも、スコーピオンって有名な宝石泥棒なんでしょ。その記事の何が問題なの?」
「こんな……杜撰な手口……監視カメラにバッチリ姿を捉えられた上、逃げる時に警備員にワザと怪我させたなんて……スコーピオンらしくないと思わない? どうなのよ、清見ちゃん」
「そのことでしたら、こちらとしても『スコーピオンの可能性もある』としか言っていません。ただ……」と言うと清見さんは声を潜めた。
「これは発表していないことですから、ここだけの話にして下さいよ。置き土産があったんですよ。ほら、名探偵もののフィクションによくある……名前入りのカードが置かれていたんです。犯行声明みたいなもんですかね。スコーピオンって文字とイラストが入っていたんです。」
「そんなの、誰だって作れるんじゃないかな?」
「みかんちゃんの言うとおりよ。スコーピオンが自分の名刺置いていくなんて聞いたことない。『殺めず、壊さず、自慢せず』がモットーなんだから」
「も、もちろん現時点ではスコーピオンと確定したわけではありません。他の犯人の可能性も考えていますよ。ですが、敵さんが大怪盗なんてロマンがあるじゃないですか……」
「ロマンとか言う問題じゃないでしょ。もう……。あ、あら、みかんちゃん。もう出かける時間でしょ」
「うん、行ってくるね」
「お仕事ですか?」
「清見刑事だから教えてもいいか……『するがや』さんの件で浮上してきた女性の居場所が判ったから、ちょっとばかりその人の部下になってきます」
「潜入ってことですか? 柑奈さん。危険な真似はやめてくだいさいよ」
「そうよ、清見ちゃんの言うとおり」
「はいはい、んじゃ、行ってきます」
「『するがや』さんの件って何すか?」
「怪しい女が自分の息子にまとわりつき始めたから調べてくれって」
「へえ、『するがや』と言えば、江戸時代に創業されたとか言う……」
「そうよ、豪商といってもいい」
「……金持ちのボンボンやるのも、楽しいことばかりじゃないんですね」
「今日は取材にご協力いただいて、ありがとうございます。最後に店の外観の写真だけ撮らせていただいてもよろしいですか?」
「ええ、後はそちらでご自由に」
最近話題のこの甘味屋の店主は、取材に慣れているのか、あるいは野分に……破壊願望を内に秘めたかのような冷酷さだった……晒されるのを嫌ってか、撮影の許可だけを出すと、さっさと店内に引き上げてしまった。
「さあ、柑奈、正面を撮り終わったら、次は店の横の、ここんところも撮って」
「でも京さん、そうすると隣の建物も写っちゃう」
「いいから、いいから。そこのバックのカエデの木の感じがいいんだよ」
店の隣には、マンションが建っていて、カエデの木を入れるとマンションの玄関部分も写ってしまう。人の出入りも結構多かった。私ができるだけ関係ない人物をフレームに入れないように苦心していると、業を煮やした京さんがつかつかと近づいてきて、私からカメラを奪い取った。
「いいから貸しな。後でトリミングすればいいんだからさ……」と言うと、さっさと撮影を終えた。
「ここのマンションってさ、結構有名人が住んでいるらしいんよ」
「……そうなんですか」
「おや、興味がなさそうだね。例えばさ、元野球選手の阿野山とか、芸人の園川だとか……」
「なんでそんなに詳しいんですか?」
「えっ……まあね……噂話も情報の一種だからな」
「でも……ウチって町の美味しい店とかカルチャー情報を発信するサイトですよね。有名人とかゴシップとか関係ないような……」
「け、見識を広めるのは悪くないだろうよ。いつか役に立つかもしれない。うん」
「はあ、そういうものですか」
「ところでさ柑奈、今日の夜……いや、準備が間に合わないか……明日の夜、空いてる?」
「……暇ですけど、何かあるんですか?」
「ちょっと、手助けして欲しいことがあってさ。ちょっくら私に付き合って欲しいんだよ」
「それって……お給料出ます?」
「う……ん……出ます出せます。少ないけど」
「じゃあいいですよ」
京さんに指定された場所は、ここ数十年の間に開発された地域で、適度に残された緑と住宅地が上手く共存している、快適そうな町だった。その一角に構えられた家の玄関前まで来ると、京さんは立ち止まった。
「ここだよ。今、鍵を開けるからね」
「京さん、この家は?」
「ここの家のヤツ、私の知り合いなんだ。そいつがさ、とても珍しい翡翠の象の置物を持っててさ、是非写真を撮らせてくれって頼んだんだ。そしたら、当分の間旅行で留守にするから、勝手に来て撮影していっていいって合鍵も渡されてさ。だから柑奈にも来てもらったってわけ」
玄関を入ってすぐは、リビングルームになっていた。
京さんは、さっさと奥の部屋のドアを開けて中に入っていく。
「撮影するのはこっちね」
その部屋はホームオフィスとして使用されているようで、デスクとPC、それに巨大なモニターが3つも壁に掛かっていた。サイドテーブルの上に話題の翡翠の象が飾られていた。ずっと眺めていると、飴玉みたいな美味しそうな色の煙が、内側からシットリとモヤモヤと放たれているような感覚にとらわれる。そう、別世界に誘われてるような抗えない感覚。
「柑奈、撮影はもう終わりだからさっきのリビングで待ってて。私、ここのヤツに本を貸しててさ、この部屋に置いてあるから持って帰っていいって言われているんだよね」
私は一人リビングに戻って、しばらくの間ゴトゴトと京さんが立てる音を聞いていた。
「さっ、帰るよ。早く仕度しな」
戻ってきた京さんは、どうした訳か焦っているように見えた。
玄関を出ると、スーツのふたり組がインターフォンを押そうとしているところと鉢合わせた。そのうちのひとりには見覚えがあった。清見刑事の同期の求令武刑事だ。
「おや、君は確か……馬弓探偵事務所の……」
「あっあっあっ、ごほん……」
「探偵事務所って何のこと?」
「き、きっと人違いですよ。やだなぁ」
慌てて求令武刑事に目配せをした。黙っていてくれると助かるな。
「失礼。この辺りを巡回していましてね、最近宝石泥棒が頻発しているのをご存知ですか?」
「まあ、怖い! 知らなかったわ……」
「この家の方ですか?」
「いえ、知人の家です。家人が旅行中なんで鍵を借りて用事を済ませてきたところなんです」
「そのカバンは?」
「撮影用の機材です」
「ちょっと拝見させてもらってもいいですか?」
「えっ、ちょっと待ってよ! そんな権利ないでしょ」
「何か見られちゃまずいものでも入っているんですか?」
渋々と京さんはカバンを開けた。京さんのカバンには、入っていてはならない物は何も入っていなかった。
「これは失敬。手順が決まっているんでね。ここのところ物騒だから、おふたりも気をつけて下さいね。それじゃ」
夜の帳が下りた頃、闇に紛れてその家にやって来たひとつの人影があった。その人物は玄関には入らずに、庭を回って一番奥の部屋の窓の下までやって来た。そこに落ちている小ぶりな黒いカバンを拾い上げると、中身を確認した。昼間、この家に来たときに、窓の外に落としておいたのだ。中にはこの家にあった高価なジュエリーの類いと、翡翠の象も入っていた。大きな翡翠の塊を彫刻して作られた愛らしい象の形をした像だ。その人物=甘展京は、最後に一枚のカードを窓に貼り付けると、バッグを大事に抱えて満足げに夜の闇の中に消えていった。電柱の陰で私、馬弓柑奈が一部始終を見守っていることにも気づかずに……。
「……このように、少なくとも一件の盗難事件に関しては、甘展京の犯行で間違いありません」
「報告ありがとう、柑奈さん。昨日は悪かったね。潜入調査中だとは気付かなくて声を掛けてしまって……あの後、大丈夫だったかい?」
求令武刑事が私を労ってくれた。
「はい、私が探偵事務所の人間だというのは誤魔化せましたし、どちらにしろあの仕事、今日で辞める予定だったんです」
「そりゃよかった。あんなふうに見えても裏の顔がある危険な女だよ。関わりすぎないほうがいい。しっかし、お宅の事務所、すごい設備だな」
初めてウチの地下作戦室に通された求令武刑事は、目をまん丸にしてあたりを見回している。そこへ、清見刑事が男をひとり連行してやってきた。
「オッス、グレちゃん。来てたんだ。」
「おお、キヨ、お前さんもかい……そいつは、確か……」
「ほら、丸花八家の絵画泥棒のトレーラーに忍び込んでいた……」
「芹井 瓶!」
私と求令武刑事は同時に叫んでいた。湊博物館や甘夏島ホテルの事件にも関与していて、女優の有珠田千鶴さんの事件の時には、前面にしゃしゃり出てきて私の行く手を阻んだ男。私にとっては、宿敵と言ってもいいくらいの男。そんな人物が何故、うちの事務所にやって来たかと言うと、間尼怜斗の逮捕のために協力することを条件に、減刑されたそうだ。間尼の件が片付くまでは、うちの事務所の地下室(千鶴さんが泊まっていた部屋)で寝泊まりすることになった……うちの祖父の計らいで……。私としては当然、面白くない。だが、目的を見誤ってはいけない。なかなかシッポをつかむことができなかった間尼怜斗を、ついに追い詰めることができるかもしれないのだ。それに比べたら、芹井に対する私のネガティブな感情など些末なこと。それに感情の件に関しては、さんざん祖父に八つ当たりしてきた。お昼のお弁当をおかず抜きの日の丸弁当にしたり、借りた文房具を返す引き出しをわざと間違えたり……。事態は動き続けている。そろそろ私の負の感情は水に流さなくては。
「刑事さん、ちょっと待ってくれ……この娘さんに話がある」
芹井瓶が清見刑事に許しを得て、私に近づいてきた。
「そんな顔をしないでくれ、……その……悪かったな。理由があったとはいえ、あんたの妨害ばかりして。あんたの正体が判ってからは、なるべくケガをさせないように気をつけていたんだがな……」
「解っています。……謝って下さってありがとう」
芹井の顔が急に優しい表情になった。
「あんたを見ていると、姪っ子を思い出すよ。やんちゃで……意地っぱりで……勇敢な娘だった」
「じゃあ、これからは姪御さんに恥じない生き方をして下さいね」
「ああ、そうだな。あんたの言う通りだ。何もかもが終わったら……報告に行かないと……」
「姪御さん、今はどこに? 遠方に住んでいらっしゃるんですか?」
「ああ……遠くに……簡単には会えない場所にいる。今は……幸せにしているといいんだが……」
「Q、何をそんなに熱心に読んでいるの?」
Qの手には、色褪せた和綴じの本があった。
「これかい? うちの物置を整理していたら、出てきたんだよ。引っ越しやら家のリフォームやらで、荷物をあちこち移動させているうちに落としたのを、気付かないままでいたんだろうね。嬢ちゃん、あんたも見るかい?」
中身には、日付と文章とところどころに図が描いてあった。
「これは、日記?」
「私の先祖に、腕のいい細工師がいてねぇ。枢亥亭 久示という人物だが、自分で考案したカラクリを書き残していたんだ。小さな装飾品から家具まで、いろんな発明品が載っているよ」
「Qみたいな人がご先祖様にもいたんだね」
「そうさね、何百年経とうと、血の呪縛からは逃れられないのさ。難儀だねぇ」
「……この、花の形の盾みたいなの、何だろう。かっこいいね。……ここにタイトルが付いている……」
「おや? 興味を持ったかい? 『晴明の空に散れ』と書いてあるね。今度ひとつ、再現してみようじゃないか」
次のページをめくると、格子状の扉の説明書が載っていた。部屋の入り口に設置して、別の場所から任意で格子戸を上下させることができるようだった。この装置は……あの、江戸の世界で見た覚えがある。……そういえばあの時、発明が得意な久さんという男が出てきたっけ。ん? 久さん、久さん……久示さん! あの久さんがQのご先祖様だったのかも。
現在、午前10時。高く高くどこまでも、青く晴れ渡った空が続いていた。ここはするがやの主人、家宗さんの自宅兼店舗。敷地を使用しての新作発表会が開催されている。するがやの新作着物を身に纏ったモデルたちが、そこかしこに待機していて、来客と談笑したり、撮影会に興じていた。斯く言う私も新人モデルとなって、来客に飲み物を配って歩いていた。するがやさんが私に貸し出してくれた着物は、ほんのりと薄紅梅色の地に、橘と松竹梅の文様が踊るようにあしらわれていた。金刺繍の帯が、愛らしさの中のピリッとしたスパイスになっている。新春へ向けた、弾む期待と喜びに満ちた作品だ……そうだ。
家宗さんがやって来た。
「柑奈ちゃん、お疲れ様。その着物よく似合っていますよ」
「もう、粗相しないように必死です。私みたいな人間がモデルだなんて、するがやさんに申し訳ないです」
「なんのなんの。柑奈ちゃんのような普通の若者にも、もっと着物に親しんでもらいたいのですよ。今日のイベントには、若年層もたくさんご招待しています。柑奈ちゃんには、普通の若者代表としてジャンジャン着物の魅力をアピールしていただきたい。それはそうと、甘展京が必ずここにやって来るというのは、本当なのですか?」
「はい、今日ここでイベントがあるってタダ券を渡しておいたんです。『掌中の珠』を狙っているのなら必ず来ますよ。こういうオープンスペースを使用したパーティーって、わりと簡単に入り込めて、逃げる時も人並みに紛れることができる。まさに千載一遇のチャンスと言えます」
私は飲み物を配りながら、会場内のチェックも怠らなかった。気配り目配り、グラス配り……と忙しく時間を過ごしていると、甘展京が会場に現れた。会場に入ってきたものの、隅っこのほうでおとなしくしている。家宗さんに見つかりたくないのだろう。彼女がここにやって来たのはこちらの作戦通り、飛んで火に入る夏の虫だ。
やがて、騒々しい音楽が流れ始めた。『するがや新作発表会』の始まりだ。先ほどまでそこかしこに散らばって談笑していたモデルたちが、ステージ上を滑るようになめらかに進んでいく。ステージの後方には小川が流れていて、石造りの橋を渡った向こう岸に『するがや』の住宅と店舗がある。会場にいる大部分の人の目がステージに注がれている隙を狙って、甘展がコッソリと石橋を渡り、母屋に向かったのが見えた。すぐに追いかけなくては……。
「お嬢さん、ちょうどよかった」
「私たち、ちょうど飲み物が欲しくて……」
「はい、どうぞ!」
折良く近づいてきた老夫婦にトレーごと押しつけると、私は、甘展が消えた方向へ急いだ。
するがやさんの私邸内は、外のステージから聞こえる喧噪とは対照的に、静まりかえっていた。物音を立てぬよう、そろそろとつま先立ちで歩くのに音を上げかけた頃、甘展がとある部屋へ入っていく後ろ姿を見つけた。駿河家が宝物庫にしている部屋だった。柱の陰に隠れて甘展の挙動を監視した。彼女が、持っていたカバンの中に『掌中の珠』を入れた。今だ!
スルスル、ガッチャン!
事前にテストした通り、部屋の入り口に頑丈そうな格子戸が下りてきた。
「う、わわわわわ! ちょ……誰か! ……ああ、柑奈じゃないか、こんなところで何を……まあ、いいか。ちょうどいいところへ来た。ここに閉じ込められちまってさ。なあ、こじ開けられる物、持ってないか?」
「無理……ですね。だって、あなたをここに閉じ込めたのは、私だもの」
手に持っていたリモコンを甘展の鼻先に見せつけた。
「京さん……」
いつの間にか家由さんが背後に立っていた。
「家由さん、助けて。この娘、何か誤解しているの……」
「待ってて京さん。今この入り口を壊して……」
「やめんか! 家由! お前も一部始終見ておったじゃろ? これがこの女の本性だ」
「ちっ、お見通しかよ。そうだよ。これが……最初からこれが目的で家由さん、あんたに近づいたんだ。」
「そんな……京さん。信じてたのに……僕しか頼れる相手がいないって言ってたじゃないか」
「『信じてたのに……』って言ったって、どうせ脳内で勝手に理想化して盛り上がってたんだろ。ま、無理もないけどね。こっちがあんたに合わせてやってたんだから。赤ん坊を騙すよりも簡単だったよ」
「ひどいよ、京さん」
「うまくいきましたね、柑奈ちゃん」
心底安心して家宗さんが言った。甘展を無事閉じ込めることができたので、あとは警察が到着するのを待つばかりになったのだ。
「はい、思っていた以上のデキでした」
「しかし、驚きましたね。300年も前からあの部屋に設置されていた格子戸が役に立つなんて」
「あれの存在は前からご存知だったんですか?」
「祖父から聞いていて……我が家の言い伝えでは、あれを設置した当時も大泥棒が侵入したのを捕まえたとか」
「へ、へぇ、そうなんですね」
「その泥棒っていうのが、当時人気の役者だったそうで……あれは獅子丸いや、虎丸新之丞っつったかな」
聞いたことがある、いやこの目で見てきた話だ。
「ひょっとして子々丸新之丞!」
「それだ! よくわかりましたね。知っていたの?」
「た、ただの勘です」
先日Qが見せてくれた、発明品覚書きに載っていた品が再現されて、本日の私の懐に入っている。出番が無いままで解決しそうだが、大立ち回りはないに越したことはない。
「さあ、家宗さんと家由さんは離れていて下さい。私は彼女に話しがあります」
シクシク泣いている家由さんを引き摺るようにして、家宗さんはその場を離れていった。
「柑奈、あんたいったい何者なんだい?」
「私? 探偵事務所の者です。駿河さんのお父さんに頼まれてあなたを調べていたんです。家由さんのことは上手く騙せたと思ってたみたいだけど、お父さんの方は最初からあなたを疑っていたんですよ」
「あの親父さんか、やっぱり一筋縄じゃいかないか……。ねえ、ここ開けてよ。息が苦しくて……私……狭い所苦手……なんだ」
仕方ない、ここで倒れられても面倒だ。格子戸がガラガラと音を立てて天井へ上がっていった。
「さあ、京さん開けましたよ。ここに座って……もう悪さはしないで下さいよ」
ちょうどその時万田さんから通信が入って、私は応答した。甘展に背を向けて。
「柑奈さん、清見刑事から連絡がありました。渋滞にはまってしまっているのであと10分ほどかかりますとのことです。いいですか、柑奈さん。確保したからといって、決して油断せ……」
「あっ!!」
後ろを振り返ると、さっきまで息も絶え絶えだった甘展の後ろ姿が廊下の向こうに消えようとしていた。慌てて後を追いかけると、甘展はこちらを振り返って立ち止まった。……かと思ったら、ポケットから何かを取り出して片手を振り上げた。危ない! とっさにQが作ってくれた道具を前方斜め上に構えた。『晴明の空に散れ』と名前がついたQのご先祖考案の道具だ。普通よりも大ぶりの扇子だが、広げると開花した花冠のような形状になる。これを盾にして、飛んでくる異物をはねのける。ちょっとした仕掛けをいじって、プロペラのようにクルクル回転させると、さらに強力なシールド効果を発動させることができる。そうやって甘展が発射したゴム弾をはじき返した。
「危ないじゃないですか!」
「そっちこそ! 変な道具つかって、もう少しで顔に当たるところだったろ」
跳ね返ったゴム弾の一つが廊下に飾ってあった生け花に命中して、見るも無惨な丸裸の枝となっていた。
「あいつめ、こんな危ない橋渡らせやがって……自分がやればいいのに。上手くいかなければきっとまた激怒するはずだよ」
「そんなやつ放っておけばいいじゃん。だいたい前から思っていたけど、『あいつ』って誰よ」
「教えてなかったっけ? 間尼怜斗っていうやつだよ。ここにあるお宝を欲しがったのもあいつだ」
間尼……。
「京さん、もしかして前にもどこかに盗みに入ったことある?……間尼に言われてさ」
「この前柑奈と一緒に行った家の翡翠の象の像のことかい?」
「それはもう知っている。その前にも何かやってる?」
「ああ、4件ほどな。中でも川瀬美術館に忍び込むのは大変だったよ。警備員に見つかっちまってさ、さすがにもうダメかと思ったよ」
「京さん自身は何が目的でこんなことをしてるの? スコーピオンの振りまでして……」
「柑奈、あんたもスコーピオンって知ってるのかい。あれがさあ、世界中で宝石泥棒しまくってるっていうじゃん。あいつだって、私とたいして違わないただの泥棒なのに、もてはやされてスター扱いされてるだろ。なんか悔しいじゃん。身体能力的にはそう変わらないんだから、私にも同じ事ができるかなってさ。案の定、カード1枚置いていくだけでスコーピオンだと誤解させることができたんだ。笑っちまうね。私だって……この招き猫みたいに、真珠のお宝を、この手に抱えてみたくなったってわけだ。だから間尼の奴と手を組んだ訳だけど……まぁ、うるさいことうるさいこと。盗む物をあいつが決めるのはいいとしよう。だが盗みの手順までケチをつけられたんじゃ、堪ったもんじゃない。こっちは盗みのプロだっての。この招き猫だって本当は家由のヤツに持ち出させる予定だったんだ。失敗した時点で私は中止したかったってのに、間尼のヤツが家に侵入しろってさ。それであんたに捕まってちゃ世話無いわ。どちらにしろ、あいつが出す報酬じゃ全然足りないから、もうヤツとは手を切る予定だったけどな。間尼って本当欲張りな男だよね。あれも欲しいこれも欲しいって、まるで駄々っ子だ」
外からパトカーの音が聞こえてきた。
「おっと、話が長くなっちまったね。コレは頂戴したことだし、もうずらかるよ、じゃあな」
甘展は名刺サイズのスコーピオンカードを投げ捨てると、あっという間に窓ガラスをぶち割って外へと逃げていってしまった。
私は振り袖姿のままで、するがやからそれほど遠くない大通りを夢中で走っていた。すれ違う見知らぬ人々に奇異の目で見られているが、今はそんなことを気にしている場合ではない。1キロメートルほど先に橋がある道を走っていると、突如として道なりに建つ家の屋根から甘展が飛び降りてきた。甘展は私を見つけると、クルリと踵を返して橋の方に向かって走り出した。
橋の手前を横切る道路を渡る自動車の列に、私は足止めをくらった。目の前が開けると、橋の上では甘展ともうひとりの人物が対峙していた。黒いキャップを目深にかぶったその人物は、無言で甘展に向けて手のひらを突き出した。あやうく顔にあたりそうになり、のけぞる甘展。体勢を立て直した甘展自身、何が起きているのか理解できずにヘラヘラ笑っている。
「ふっ、誰だか知らないけど、あんた……もしかしてあんたも同じお宝狙ってたのかい? 残念だったね。一足遅かっ……ぶっへ」
今度は黒キャップの蹴りが甘展のスネに命中した。無言でジワジワと小さな攻撃を加算し続ける、黒キャップの不気味さに追い詰められて、ついに甘展は橋から川へと飛び込んだ。
やっと追いついた私は、髪から簪を引き抜いた。小さな赤い花が球型に集まったその根元から、南天の実のような赤いツブツブがユラユラと垂れ下がっている。球体の上には赤い実を狙う縮緬製の雀がちょこんと乗っかっている。川に投げ入れるには、もったいないくらいの愛らしいデキだが、ここで使わないでどうする。人命と招き猫命救助の為だ。勢いよく投げ入れると、球体の花の内部に仕込まれた網が展開された。甘展が無事に投網の中に捕獲されるところまで見届けると、黒キャップは立ち去ろうとした。
「あのっ、あなたは?」
黒キャップは振り返ると、いつの間にか甘展から取り戻していた『掌中の珠』を、私に放り投げてよこした。そして、フッと微笑むとそのまま無言で立ち去った。太陽光に照らされて、黒キャップからはみ出す淡い色の髪がキラキラと輝いていた。
「その黒キャップの人物の顔はよく見なかったんですか?」と、万田さんが詳しく知りたがった。
「口元だけ見えた……体型からいっても、女性だと思う」
「んまぁ、それ、もしかして……本物のスコーピオンだったんじゃない? 甘展って、全然スコーピオンらしくなかったでしょ。だから本家スコーピオンが乗り込んできて天誅を下したのよ」
「ええっ? わざわざそんな真似するかなぁ」
「するわよぉ、考えてもみて。自分の名を騙って自分の美学に合わない犯罪をやっている者がいる、コレって結構な報復ポイントだと思うわ」
「そっか……」
「シッ、おふたりとも、お静かに。始まりますよ」
『それではテープカットをしていただきましょう。皆さんもご一緒にカウントダウンを! 3、2、1、オープン!』
ダークな色調でコーディネートされた沢山の風船が我先にと空へ昇っていった。ここは『メゾン・ド・ホワイト』の新店舗。再オープンのイベント会場だ。人気ショップが軒を連ねる一角なことも手伝って、通りを散策している通行人も続々店舗にやって来る。
「あぁ、どれもこれも本当に素敵! できることならこの店まるごと買い取りたいわ」
どこかへ消えていた青島さんがいつの間にか私の傍らに戻ってきて店内の報告をしてくれた。
「ねっね、みかんちゃんに似合いそうな帽子を見つけたの。こっち来て」
「ええっ、私はいいよ。日除け用と防寒用のふたつがあればいいの」
「つまらないこと言ってないで……」
「おふたりとも、ショッピングはほどほどに。私達は何故島さんのデザイン画を見つけたお礼でここに招待されたんです。あとでご挨拶に行かねばなりませんよ」
店内に私を引き摺りこもうとする青島さんに、万田さんの苦言が飛んだ。
店に入ると、人の多さに気圧されて目眩がした。思わずよろけたところに、すぐ脇を通り過ぎた男とぶつかりそうになった。
「おわっ……ぷっ……」
男がいらいらとこちらを振り返った。間尼怜斗!!
「ふんっ」
間尼は、眉をひそめるとさっさと店外に歩み去っていった。視線で人間を消せるのなら、きっと今の私はやっていただろう。それくらいの気持ちで間尼の姿を目で追っていた。すると、他にも同じような視線を間尼に向けている人物がいるのに気付いた。
「んん?……」
「どうかした?」
「うん……春海さんがいたような気がした……けど、人違いかも」
この時に、私はもっと気にかけるべきだったと、後になってから悔やんだ。
「馬弓社長! お客様が……」
「……通しなさい」
「ですが、お約束のない……」
「……どけ!」
秘書を押しのけて社長室に闖入してきた男がいた。
「おや、あなたは……間尼怜斗さんですな」
「僕の名前を知っているのか、だったら話は早い。仕事の依頼をしたい」
「何故ウチに? ウチの事務所が何度もあなたと敵対関係になっていたことをお気付きですよね」
「だからこそ……だ。この僕と対等に渡りあえる者にこそふさわしい仕事だ」
「依頼の内容は?」
「来月開催のファッションショーで僕のボディガードを勤めてくれ。脅迫状が届いたんだ。お前さんところの仕業じゃないんだろ? だったらどうだい? ひきうけてくれるか?」
「……よござんす。ひきうけましょう」
樹太郎は肘をついて組んだ手の陰でニヤリと笑った。




