表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

短編集

防犯対策

作者: よぎそーと
掲載日:2022/05/08

「いやあああああああ!」

 悲鳴が響き渡る。

 下校途中の女子児童。

 それが数人の人間によって抱えられ、車に放り込まれていく。

 女子と人が乗り込むと、車はすぐに走り出す。



 典型的な誘拐事件だ。

 昨今では珍しくもなくなった。

 当たり前すぎて、ニュースにもならない程だ。

 既に常識となっているので、騒ぐ者もいない。

 実際、この場に数人ほどの人間がいた。

 いずれもたまたま通りがかった者達だ。

 だが、それらも決して助けようとはしない。



 様子を見て、それが誘拐だとは分かっていた。

 その場に居合わせた者達にもそれは分かった。



 通り過ぎる者達の中には、誘拐の行われてる真横を通った者もいた。

 それでも通り過ぎた者達は、誘拐されていく女子を助けたりはしなかった。

 気付いてないわけではない。

 体を数人がかりで抱え上げられてる女子の方は見ていた。

 見ていて、それを無視したのだ。



 だが、犯罪者から女子児童を守ろうとはしなかった。

 助ければ犯罪者になるからだ。



 いつの頃だったろう。

 迷子の女子児童を交番までつれていったという事態があった。

 そうしたら、保護して交番に迷子を連れて行った者が逮捕されるという事があった。

 女子児童への非行・不当な行為として。



 女の扱い・接し方に厳しいご時世である。

 それも当然という風潮だった。



 そんな調子が長く続き。

 だんだんと女子供に近づくのが危険視されるようになった。

 一緒にいるだけではなく、近くにいるだけで警察に通報される。

 そして、通報されればほぼ確実に逮捕される。



 しかもそのまま犯罪者として拘束。

 裁判にかけられ、そのまま有罪となる。

 刑期に差はあっても投獄は確実。

 そして、前科がついていく。



 さして珍しくもない事だ。

 このご時世、それが当たり前となっている。



 そうした事が当たり前となった時。

 誰も女を助けなくなった。

 特に男は、女がどれだけ被害にあおうとも無視するようになった。



 助ければ逮捕。

 加えて、犯罪者との戦いでの負傷もありえる。

 最悪、戦ってる最中に死ぬ事もある。

 それでいて、見返りは何もない。

 なのに何で助けねばならないのか?



 もし助ければ、何らかの痛い思いをする。

 しかし、無視をすれば、痛い思いをせず、逮捕・投獄もされない。

 犯罪者として扱われ前科者になる事はない。



 どちらがマシなのか。

 考えるまでもなかった。



 たまに善意や正義感から助けに入る者もいる。

 だが、そうした者達は例外なく犯罪者によって痛い目にあう。

 投獄されて刑務所行きとなる。



 そうした善人・正義漢は出所しても当然まともに生活してられない。

 理由はどうあれ、逮捕投獄された者をまともに扱い者はいない。

 まして、女子供に触れたというのが最大の悪事とされる世の中である。

 それらを助けるためというのは、言い分けにもならない。



 かくて善人・正義漢ほど犯罪者となっていく。

 そして、刑務所を出て来ても、そのまま浮浪者・ホームレスになって野垂れ死ぬか。

 唯一受け入れてくれるヤクザ・暴力団などの反社会勢力に組み込まれていく。



 そうなる事を望む者はいない。

 誘拐に限った事ではないが、襲われてる者を助けてもろくな事にはならない。

 襲われてる被害者はつらい思いをするだろうが。

 助ければ自分が酷い目にあう。

 ならば、放置した方が良い。



 泣くのは襲われた被害者だけ。

 助けに入れば、助けた者が地獄行き。

 どっちにしろ、犠牲者は出る。

 ならば、どっちを優先するのか。

 大半の人間は自分を優先する。



 かくて、この時も誘拐事件が起こりはしたが。

 それを見ていた者達はことごとく無視をしていく。

「あ……」と気付いても、すぐに無視をする。

「ふーん」と起こってる事を見つめながらも助けようとはしない。



 警察への通報だってしない。

 すれば余計な面倒が増える。

 なぜ助けなかったのかと言われるのは当たり前。

 下手すれば共犯者扱いされる事もある。

 検挙実績が欲しい警察が、通報した者を共犯者に仕立てあげるなど、既に常識だ。

 怖くて警察への協力なんぞ出来ない。



 こうして、この時起こった誘拐事件は終わっていく。

 被害者は一人だけで済んだ。

 もし、居合わせた数人の男達が助けに入ったら、彼ら全員が犯罪者となっていただろう。

 そうなれば、誘拐犯に加えて、救助者の数人が犯罪者となる。

 無罪で投獄される人間が数人出てしまう。



 しかし、誘拐されるのを黙って見ている事で、被害者は一人だけで済んだ。

 単純な計算である。

 あるいは比較問題だ。

 どちらの方が被害は少ないか?

 どちらも最善では無いだろう。

 だが、より被害が少ない、少しは良い方はどちらなのか?

 それを考えれば、自ずと答えは決まっていく。



 たった一人の被害者で済ますか。

 一人の被害者を無くすために、数人の被害者を出すか。



 そんな計算がすぐに出来たわけではない。

 しかし、己を大事にするという当たり前の生き方を居合わせた者達は選択した。

 自己犠牲ほどばかばかしいものはない。

 命がけでも、自分を捨ててでも守りたい何かならともかく。

 どこの誰ともしれない存在の為に、己の人生を提供するのは愚行でしかない。



 利他的というのは、自分の命を軽んずる最低の生き方だ。

 それは、生きると言うことを根本から否定してる。

 人生への最大級の侮辱でしかない。



 まず、己を大事にする。

 その範囲で、誰かを助ける。

 これがあるべき姿だろう。



 そう考えれば、ここで女子児童を放置するのは最善の答えになる。

 危険を顧みず助けても、報酬が投獄と人生終了では釣り合いが取れない。

 それならば、誰かが犠牲なる事で、自分は穏便な人生を歩んだ方が良い。



 お礼の一言すらもらえないのだ。

 やってくるのは罵倒と怒声。

 それなのに、なんで誰かを助けねばならないのか?



 これが今の社会のあり方になっている。

 もう、これをおかしいとは誰も思わなくなっている。

 それだけ常識として浸透している。

 そもそも常識は、時代や時間と共にかわるもの。

 そんな常識を、世間の基準として扱い方が間違ってるのだろうが。

 気にする者などどこにもいない。



「助け────助けて!」

 今まさに車のドアが閉められようとしている。

 その瞬間に誘拐されていく女子児童の声が響いた。

 周囲にいた者達はそちらに目を向ける。

 どうしても気になってしまうから仕方ない。



 一番近くにいた、すぐ横を通り過ぎようとしてる者。

 彼は車の中の被害者と目があった。

 涙をにじませたその瞳は、助けを求めていた。

 しかし、

「なんで助けなきゃならない?」

 男はそうぼやいただけだった。



 そんな彼の前で、車のドアが閉まる。

 女子児童の目が遮断される。

 それから車が走っていくのを、男は黙って見送った。



 少しざわついたが、それだけ。

 町はいつもどおり、平穏なものだ。

 その場に居合わせた男達も、それぞれの行くべき方向へと進む。



 それぞれが、それぞれの日常へと向かっていく。

 この全てが当たり前になった、いつも通りの日々に。

 それが、人助けという愚行に血迷わなかった。

 自己犠牲や利他的な行動という、己を蔑ろにする悪辣さに与しなかった。

 いわれなき誹謗や、負ってもいない罪をかぶせられる事もない。



 最悪に陥らないように最善の選択をした。

 そんな彼らが手にした報酬だった。



 普通に生きる事。

 それが難しいこの世の中で、平穏は最も最良の褒美になる。



 無形の褒美を手にした彼らは、それらを駆使してこれからを生きていく。

最後まで読んでくれてありがとう


面白かったなら、ブックマーク・評価点を


「いいね」も貰えると嬉しい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。




またコメント欄で話題にあげてくれてありがたい
皆さんも覗いてあげてくれ
http://mokotyama.sblo.jp/article/189354517.html#comment

__________________


活動支援もよろしく

【活動支援】 小話をBOOTHで販売してる
https://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/487805203.html
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ