うさぎ密室の一日
なんであんな、ごく僅かの隙間から、彼らは脱出できるのだろう。
それは密室化されてないからか?
それとも……
本作は、「なろうラジオ大賞」参加作品で、キーワードは「密室」です。
まだほの暗い朝、目覚ましが鳴ると、ゴソゴソ動き出す人影が最初にするのは、俺の食器にご飯を入れることだ。
バタバタ支度をするヤツを見ながら、俺はゆっくり朝食を摂る。
俺の頭を二度撫でて、鍵を確かめてから、ヤツは飛び出していく。
難儀だねえ、人間って。そんなに大事か? 仕事って。
自分を飼い主か、テイマーとか思っているらしいが、ヤツは単なる下僕。飯係とトイレ係だ。
俺の部屋は下僕と一緒。ただし、下僕が出かけるときは、俺のプライベートスペースには鍵がかけられる。
即ち、俺は密室に閉じ込められるのだ。
しかし、下僕はわりとアホだ。
人間の目には密室に見えても、俺から見れば隙間だらけ。
その気になれば、いつでもプライベートスペースを抜け出せる。
今日もヨッコラせっと、抜け出した。
そして隠してある、我ら種族専用タブレット「ウサホ」を取り出し、仲間と情報交換に励む。
我々には肉球がない。よって、液晶画面へ簡単にタッチできるのだ。見たか! 肉球種族よ!
仲間からの情報は貴重だ。
なんでも某国はひどい干ばつで、我が種族の主食である牧草が、枯れ果ててきているという。
やばい!
下僕が用意している主食は、某国産なのだ。
俺はSNSの「ウイッター」を使って呼びかける。
地球温暖化を阻止し、干ばつを防ごう!
あ、バズッた。
そうこうしているうちに、夕方になる。
床ヒーターはプライベートスペースにしかないので、俺はまた密室に戻る。
ああ、ヒーターは温い。
ごろっと横になって、俺は暖を取る。
なんだか、眠くなってきた。
ドタンバタンとうるさい音がする。
あ、下僕が帰ってきた。
「ゴメンごめんね! 遅くなったね」
下僕が俺の夕食を準備する。
そういえば、腹が減ってるな。
俺の食事姿を、下僕は嬉しそうに見つめる。
「いつも閉じ込めていて、ごめんね」
いや、別に。
「でもお前はいいね。悩みなさそうで」
下僕のセリフにカチンときたが、まあいい。しょせんアホな下僕だ。
その証拠に俺が鼻を突き出すと、「イイコイイコ」と鼻先を撫でる下僕。
あのねえ、俺だって、俺たちウサギだって、毎日地球の心配しているよ!
声帯がないので鼻息で、下僕にそう主張した。
下僕は目を細めて、いっそう俺を撫でた。
お読みくださいまして、ありがとうございました!
そろそろペット用に、ライブカメラでも付けておこうかと思っている下僕です。
誤字報告、助かります。