第3課題 LADYBUG 第8問
ガタン、ガタン。
心地よいリズムを刻む懐かしい振動が俺の体を揺する。
まぶしい光が広々とした窓の外から次々と射し込み、瞼の上から優しく瞳を刺激する。
ゆっくりと目を開くと、ローカル線らしき一両編成の電車内で俺は吊革に掴まっていた。
乗客は俺一人しかいない。
古びた木の板でできた床は今にも抜け落ちそうで、足元ではアリの隊列が元気に行進をしている。
一体ここは、何処だ?
するとキキキキーという油が少なくなったブレーキ音を立てながら、どこかの駅に到着した。
駅名は「小湊鉄道 月崎駅」とある。
電車オタクで無い俺には、ますますここが何処だか分からなくなってきたが、とりあえず降りるしかない。
当然ながら、乗降客は俺しかいない。
蔦に覆われた古くて寂れた無人駅。一人ポツンと残された俺は、仕方なく目を閉じて耳を澄ます。
聞こえるのは、線路を通じて感じる事ができる電車が遠く過ぎ去ってゆく音、鳥や虫たちの声、そして大地の息吹。
実に心地よい。
気持ちよさそうにアカトンボが翅を休めている無人改札をすり抜け、駅前へと出る。
予想通りロータリーには車も売店も何も無く、1日何便来るのか分からないバス停の前にベンチがあるだけだった。
だが、そこに一人の女性が座っていた。
太陽に向かって目を閉じ、その髪を風に靡かせていた。
顔は良く見えないが、俺は瞬間的に感じた。
ナナ。
高まる気持ちを抑え切れずにナナの元に走り寄ると、ナナはアハハと笑いながら、手からするりと零れる水の如く俺から逃げてゆく。
待て、待ってくれ!
昔から俺は足が速かったはずなのだが、何故か追いつけない。
もうちょっとでその肩に触れる距離まで近づくのだが、アハハと笑いながら、やはり摺り抜けて逃げられてしまう。
俺は必死になって、懸命にナナを追い掛け続けた。