3/10
第3課題 LADYBUG 第3問
ナナは再び歩き始めた。
暗闇の世界を克服した自信からなのか、先ほどより足取りが軽い。
電車の揺れに合わせ、軽快なタンゴのステップを刻む。
そのステップ一つ一つが、俺の脳幹から体全体を振動させる。
「こんなエクスタシー、今まで味わったことも無いぜ。ナナ、やっぱりお前は俺が思っていた通り最高だぜ」
ナナは俺の言葉には一切耳を傾ける事無く、一心不乱にステップを刻み続ける。
そして、鼻の最深部にある空間、蝶形骨洞まで辿り着いたところで、踊りを止めた。
ナナはその場でお道化るようにくるりと回って見せた。
額から飛び散る汗が、ダイアモンドのように輝く。
でもあんなに激しく踊ったにも関わらず、相変わらずドレスは皺一つなく端整な輝きを放ち続けている。
「え、もう一回言ってくれないか?」
すっかりナナのタンゴステップに心を奪われていた俺に、ナナは突然話しかけてきた。
その吐息に含まれたメッセージを一言も聞き逃すまいと、全神経を集中させる。
なるほど。
どうやら、ナナは俺をハイジャックするようだ。