第3課題 LADYBUG 第2問
ヴァージニアスリムを吸い続けていたナナホシテントウだが、最後の一吸いを終わらせると、気怠そうに、でも手際よく右前脚で吸い殻を踏み消した。
そして、ようやく俺の方に視線を向けたかと思いきや、悪びれもせず「ごきげんよう」と丁寧にお辞儀をしやがった。
黒いドットの赤いハードコートの下からのぞかせる、スラリと伸びる六本の手足。
左右に揺れるカールの効いたアンテナ。
育ちが良いと分かる貴賓に満ちた所作。
俺は一撃で「ナナ」に惚れてしまった。
見とれてボーっとしていると、ナナは突然美しい羽根をバサバサっと広げ、隣の女性の肩から、俺の鼻骨頂点部分へ飛びついてきた。
「!! いきなり過ぎて、ビビっちまったよ。ナナ……よく俺の元に来てくれた。だけど残念なことに近すぎて、ナナの事、俺、見れないよ。もっと、別な場所からお前の美しい姿を見せておくれよ」
ナナは俺の言葉を再びガン無視し、歩き始めた。
そしてどこに行くのかと思いきや、俺の右外鼻孔、いわゆる鼻の穴の中へその美体を忍ばせた。
本来、異物を押し出す役目の俺の鼻毛は、ナナにとってドアマットでしかない。
足の汚れを拭き落とすと、鼻の更に奥へと続く道、鼻翼に足を踏み入れた。
すると、ナナはそこで一旦留まり、つけ睫毛のポジションを確かめるみたいに目をパチパチさせ、瞳孔の開きを調整した。
急に明るい電車内から光の届かない鼻の中に入ったから、目がまだ暗闇に慣れていないのだろう。
「ああ、お前の瞼から送られるそのそよ風は、まるで女神の吐息のようだ」
悲しいことに、ナナに俺の言葉は届かない。