異界かくれんぼ
異世界かくれんぼ
ネットの掲示板で見かけた都市伝説だ。 深夜にある手順でかくれんぼのような儀式をすると、異世界に行くことが出来るというものだ。
たまたま材料はそろっていたので、興味が湧いてやってみることにした。
手順1:部屋の四隅にロウソクを立て、火を灯す。 電灯は全て消す。
手順2:部屋の中央に人が一人座れる大きさの円に七芒星を描いたものを用意する。
手順3:七芒星の角に人形を置く。 全部で7体。 美少女フィギアでもロボットのプラモデルでも、人型なら何でもいいらしい。
手順4:七芒星の中心に立ち、深夜0時に「僕が鬼!」と宣言する。
手順5:体育座りで顔をふせ、声に出して100数える。
手順6:最後に「もういいかい?」と唱えて、顔を上げる。 周りに配置した人形が消えていれば異界に転移完了。
ちなみに、消えた人形を回収して「みいつけた!」と宣言すれば元の世界に戻れる。
以上の事を踏まえてやってみる。 床に直接七芒星を描くわけにはいかないので、大きめの布を買ってそれに描いたものを床に敷いた。 さて、儀式を始めよう。
「いーち、にーい、さーん・・・」
最初のうちはなんてことなかったが、途中から異変を感じはじめた。
「ななじゅういーち、ななじゅうにー、ななじゅうさー・・・ん?」
生臭いような、血なまぐさいようなにおいが鼻につき、部屋の空気がジメジメと生暖かいものになった。 まぁ気のせいかなと思いカウントを続行した。
「きゅうじゅうきゅーう、ひゃーく。 もういーかーい?」
「もういーよ!」
俺は思わず飛び上がった。 友達がたまたま連絡無しで遊びに来て、イタズラしたんだろうか? だが俺は部屋の変わりようを見てすぐさまその仮説を否定した。 部屋中赤黒いシミでベッタリと汚れていたからだ。
そして何より、人形が一体無い! 変な趣味の友達からもらったブードゥー人形が無くなっていた。
「マジで異世界なのか・・・?」
まだ朝とは言えない時間なのに、妙に薄明るい。 俺はカーテンを開いた。 そこには赤い空が広がっていた。 夕日や朝焼けの赤ではない。 空というスクリーンに蛍光ペンキをぶちまけたかのような、真っ赤な空だった。
太陽が無いのに妙に明るく、その空の下には見覚えのない町並みが広がっている。 自分は安アパートの2階に住んでいるはずだが、眼下に広がる景色は明らかにもっと高い場所から見下ろしたものだった。
「やばいな、マジで来れると思ってなかった」
そうだ、無くなった人形を探し出せば帰れるんだな。 そういえばさっきの「もういーよ」の声は、玄関の外の方から聞こえた気がしたな。 一応自分の家の中も探す。 ついでに外は何があるか分からないから、サバイバルに使えそうなものは持っていくか。
「いってきます・・・でいいのかな」
玄関を開けて俺は外へ出た。 結局、部屋の中ではブードゥー人形は見つからなかったのだ。
「なんだこれ・・・ 血?」
廊下も赤黒く汚れていた。 とりあえず、ゆっくりと探索を進めた。
「こういう脱出ゲームって、なんかこうヒントとかないもんかな?」
他の部屋のドアは鍵がかかっており、中には入れなさそうだ。
「そもそもこの異世界に住人はいるのかな?」
そうぼやいて角を曲がると、ソイツはいた。 白装束にボサボサの黒髪で顔を隠している女・・・であろう何者かだ。 手のひらも裸足も傷だらけで血色も悪い。
「まんま貞子のパクリか?」
奴がこっちを見た。 髪の毛が動いて顔が一瞬見えたが・・・ なんというか、目も口も真っ黒な穴が開いていて、でもその穴の奥から“こっちを見ている”というのが感じられた。
貞子モドキはこっちへ全力ダッシュし始めた!
俺はこれまでの道順をざっくりメモしていたが、もうそれどころでは無かった。 とにかく奴を振り切る事だけを考えて、階段があれば駆け下り、角があれば曲がった!
ある程度引き離したようだが、それでも奴の足音がする。
「あれは?」
俺は半開きになっているドアを見つけると、その中に入り込んだ。 振り切れないなら隠れてやり過ごそう。
俺がいた部屋と間取りは違うが、何の変哲もない一般家庭の家という雰囲気だ。 小柄な俺はキッチンの下の収納スペースに入り込んで息をひそめた。
俺が隠れて20秒後ぐらいだろうか? 足音が勢いよく部屋の中へ響いてきた。 奴が入って来たに違いない。 外を覗くか? いや、小さい隙間でも見つかる可能性がある。
バタンバタンと音がした。 おそらく押し入れやクローゼットの中を探しているのだろう。 ベランダを開ける音がして、しばらくすると足音はまた玄関の方へ向かって、廊下をペタペタと歩き出した。
そのままじっとして1分経っただろうか? 10分だろうか? 恐怖で時間の感覚がおかしくなってはいるが、ゆっくりと俺は収納スペースから這い出した。
そのとき、俺の肌に違和感があった。
「ん!?」
俺の体に髪の毛が無数に巻き付いていた。
「うあわわわ!?」
なんとか大声にならないよう髪の毛をほどいて、その部屋を後にした。
廊下に足跡は見えなかったが、足音が去って行った方とは逆方向・・・だと思う方に俺は歩き出した。
しばらくするとエレベーターが見えた。 建物の外が気になったので、とりあえず1階に降りようと思ったので、乗ってみることにした。
呼び出しボタンを押して1分もしないうちにエレベーターが到着し、俺はそれに乗り込んだ。 やたらボタンが横の壁一面にあり、1から999までの数字とアルファベットやよく分からない記号のボタンもあったが、とりあえず「1」のボタンを押して「閉」を押した。
ドアが閉まってエレベーターが動き出した瞬間。
ドンッ!
例の貞子モドキがドアの外に張り付いた!!
・・・言葉を失ったまま、俺はエレベータの奥の壁から動けなかった。
どれくらい乗っただろうか? ドアの外には色々な廊下が過ぎて行ったが、やはりこの建物は複雑に入り組んでいるらしく、壁の位置や階段の位置もバラバラだった。
ピンポーン・・・
エレベーターが止まり、ドアが開いた。 どうやらエントランスのようだ。 周りに貞子モドキがいないか確認して、おれは建物の外へ向かった。
そこは荒廃した街だった。 建物という建物に例の赤黒いシミがこびりついており、雲も太陽もない赤い空の下、果てしなくそれは広がっていた。 俺が住んでいた町とは地形も何もかも違う。
「人類が滅んだ後の世界って感じだな・・・ ヱヴァでこういう風景見た気がする」
適当なチャリを盗んで走ってみる。
「なーんか・・・ 風が生暖かいなぁ。 ちょっとジメジメしているし」
商店街は文字化けした看板がならんでいた。 でも客も店員もいない。
住宅街にも人がいない。 公園にも誰もいない。 木も草も生えていない。 あらゆる生物が消滅した世界のようだ。
「こんな広大なマップで探すアイテムは一個か・・・ 気が遠くなるな」
なかば俺は諦めていた。
やがて俺は駅に着いた。 駅員らしき人影も無いが、何となく券売機で切符を買ってみた。 最近はカードばっかりで、現金で切符を買うなんて何年ぶりだろう?
一応機械は動くようだ。 路線図を見上げてみるが、やはり迷路のように入り組んだ線路に、文字化けした駅名が書かれている。 とりあえず一番高い切符を買って、なるべく遠くに行こう。 一周回って現世に戻れるかもと安易な考えがよぎったからだ。
「んんんん・・・ んん・・・ んー?」
変な声がした。 そちらを向くと、人がいた。 後ろ姿だが、黒いスーツを着た男性のようだ。
「あ」
思わず俺が声を出すと、そいつも振り向いた。 真っ白な顔に巨大な眼球がぎょろぎょろとあっちこっちを見ていて、口は耳元まで裂けていた。 真っ白な歯が剥き出しになっており、得体の知れない満面の笑みを浮かべている。
とっさにヤバいと感じた俺は、駅の中にダッシュで駆けだした! やっぱり奴も駆けだした!
「んんー! んー! んーんー!」
口は思いっきり開いているはずなのに、塞がれているかのような声で追っかけてきた! 俺は階段を駆け上がり、駅のホームに出た。 俺は線路に飛び降り、ホームの下に息をひそめた。
「んー! んー!」
奴の声と足音が近づいてきた。 革靴のコツコツという音が響く。
「ん~?」
しばらくして、奴はまた駅の改札のほうに去って行ったようだ。 俺は周りを見わたしながらホームに上がった。
プルルルルルル!
アナウンスも無しに電車が来た。 俺はそれに隠れるように乗り込んだ。 奴が乗らないことを祈りつつ・・・
電車が動き出した。 俺は後ろのほうの車両に乗ったのだが・・・ ふと外を見ると、アイツがいた。 しかも大勢。
「んんんんんんんんんんんんんんんん!!!!」
一人がこっちを指さした。 するとその他大勢が電車を追っかけてきた!
「んー!」「んー!」「んんー!」
電車に追いついてさらに内部に入ってくるか? それは分からないが、前方の車両に俺は逃げた。 前に前に、そしてある扉を開けた瞬間、目の前に巨大なブードゥー人形が立っていた。
サイズこそ違うが、色と形状は目的の人形と同じだ。
「み・・・ みいつけた!」
おれが人形を指さして叫んだ瞬間。
俺は自宅の部屋にいた。
あれから俺は、何事もなく平穏な日々を過ごしている。 あの日の出来事は、変な夢だったのではとも思うのだ。
でも心のどこかでトラウマになったのか、都市伝説とか怪談をまとめたサイトや動画は見なくなってしまった。
「なぁ、聞いてくれないか! 俺、異世界に行ったことがあるんだよ!」
職場の同僚が、休憩時間にそんな話をした。
「証拠もあるんだぞ、ホラ!」
同僚がスマホに画像を表示して見せた。
あの赤黒いシミで汚れた街だ!? あの太陽のない赤い空だ!?
「・・・嘘だろ?」
そう言って俺が見た同僚の顔は、ぎょろりと目を大きく見開き、口を大きく伸ばすようにニヤニヤと歯をむき出しに笑っていた。
ノリと勢いで書いてしまいましたw
つたない文章ですが、どうぞ鼻で笑ってください。