39.他人(ヒト)には解らないツラさ
呪いかアンチチート(だと思う事にした)で本が読めない。
ツラさが貯まって、どんどんネガティブ思考になっていく。
ルーシェさんも3日ほど帰ってこないし、言葉も通じないままだ。
お習い事も、文字のお勉強も放棄して、ずっとサンルームでルイヴィークに凭れて、外を眺めるだけの毎日。
時折、小鳥さん達がやって来て、霊気を食していく。
小さい体で、ヤヤやネネよりも一固体の食す量は少ない。
それでも、元気がなくて運動もしない不健康生活の中で、霊気を魔力を吸われ、少しずつ、老け顔になっていってる気がする。
メイドさん達のスキンケアの過程が増えた気もする。
お風呂の入浴剤も、炭酸風呂だったのが、クリームっぽい泡や優しいハーヴの香りのするオイルっぽいものに変わっていた。
小鳥さん達に生気を分け与えながら、ため息をつく。
ルイヴィークも慰めるつもりなのか、ほっぺを舐めてくれる。
この日はどんよりとした曇り空で、ここに来てから、初日とルーシェさんと出会った日以来の事。ずっといい天気が続いてた。
生暖かい風が吹き、一雨来るな、と思ったら、お庭の林の向こうに遠雷を見た。
その時は、綺麗だな…… 暗い雲の中で、光の龍が身をくねらせて飛んでいるようだな、遠くの山から迎えの静電気が立ち上がり、落雷する瞬間も、綺麗だな、ルーシェさんの雷撃みたいだな、くらいに思っていた。
が、雷の走る速さはそれこそ光の速さ、遠雷だと思っていたのに、
ズドーンッ
ビリビリと地に響く爆音を立てて、目の前の林の木に落ちた。
びっくりしたなんてものじゃない。
小雨が降り始めていたのに、たちまち落雷した黒焦げの木から煙が立ちこめ、周りの木に火がつき始めた。
「う……わ……た、大変……!!」
気持ちは焦るが、腰が抜けたのか、立ち上がれないし、舌ももつれて声を上げられない。
焦る私の頰を舐めて慰めた後、ルイヴィークが立ち上がり、サンルームから飛び出していった。
火がついた木の前で、大きな声で吠える。
すぐに気がついた庭師のオジサンや、力仕事の人達が集まり、なにか騒いでいる。
「ま、魔法が使えるのなら、水をかけるより、燃える素、酸素を遮断した方が早いかも?」
「ヴァニラは時々驚くほど賢い事を言うのね」
私の横を通り過ぎ、ルーティーシアさんがドレスの裾を捌きながら駆けていく。
ルーシェさんと似た真剣な面差しで、呪文を唱え、強い風が起こり、一瞬火が大きくなったように見えたが、パッと消えた。
しっとりと濡れたルーティーシアさんがサンルームに戻ってきた。
「あ、あの、お疲れさまです」
「ヴァニラのおかげよ。確かに、大量の水を作り出してかけるよりずっと早かったわ。ありがとう」
とても綺麗な笑顔で、礼を述べる。
魔術で瞬く間に衣服を、髪を乾かし、
「着替えてくるわね」
サンルームを出て行った。
なんで、今、言葉が通じてたんだろう……
ルーシェさんはいないのに。ルーシェさんが言葉が通じる条件じゃないのかな?
庭の焦げ臭いにおいは次第に薄まり、庭師さん達のお片付けも比較的早く済まされたようだった。




