16.私のやれる事とやるべき事は?
うつらうつらとしたり、目を覚ましたり、現代日本人には超恥ずかしいトイレに行ったり。
ほぼひきこもりニートな半日を過ごしていると、段々、恥ずかしくなってくる。
みなさんが優しければ優しいほど、甘えた自分が恥ずかしい。
お昼ごはんも匙で食べやすいものをいただいて、グズグズ半泣き状態を続けているのを心配してか、水分補給を定期的にさせられる。
夕方近くに、お母様が可愛いハーブのブーケを持ってきてくれた。
「ウオロアー」※お花
優しい香りがする。ハーブは葉や種、球根などが主で花は慎ましやかなものが多い。
このミニブーケに纏められているものも、小ぶりなお花が密集した感じのが多く、桜のように花に匂いはあまりなく、葉に良い香りがある。
この数日で私の好みを覚えてくれたのか、ミントやローズマリーのようなスーッとした香りや、甘ったるい匂いのものは入れられてない。
花も、かすみ草みたいなのや、シソや立浪草の花みたいな、小さくて愛らしいものばかりである。
「どうもありがとうございます。いい匂い……大切なお花なのに……」
お母様があんなに丹精なさってるお花なのに、私なんかに摘んでくださって……
また、ジワッとして来る。
でも、気遣ってくださってるのだから、なるべく笑顔でお礼を述べる。
何度も発言するので、恐らく《ありがとうございます》があちらの言葉でのお礼の意味だとは覚えて貰ってるみたいなので、いつもお礼は「ありがとうございます」で統一している。
私が中々こちらの言葉を覚えられないうちに、ここの人達が先に日本語を覚えたりして……
ブーケになってるハーブには沈静や安息の薬効でもあるのか、少し眠く、少しどんよりした気分が浮いてくる。
にっこり微笑んだお母様に微笑み返すと、安心したようで、戻って行った。
掛布の中でハーブのブーケに口元を埋め、目を閉じると、走馬燈のように、バニラエッセンスを買いに出掛けてから、こちらの世界に迷い込んだ後の事が頭の中だか目蓋の裏だかにくるくるまわる。
一日、お勉強もサボって刺繍やレース編みなどの手習いもサボって、なにもせずにいてやはり思う事は、ここに居るとダメになる。
私は、ここでええとこのお嬢みたいな扱いを受けてのんびりしてていいご身分でも、そうされるだけの価値のある人間でもない。
勿論、手厚く優しく保護される年齢のお子様でもない。ここの人達は、私が小柄だからか、勘違いしてるみたいだけど……
公爵家の人々がどう思ってるのかは解らないけど、本来なら、政府の移民に関する部署や、警察などの身元不明者の括りで保護されるべきで、間違っても、借りてきたお嬢様な扱いを受けるのは違うと思う。
言葉が解らなくて騙されたり襲われたり取り上げられたり殺されたりしないのは、本当にありがたい。
今、逆に、私が勘違いされてるのを利用して子供のふりで騙してるみたいな感じになってるけど。実際はただの厨二のトロい中年女の田舎者なだけなんだけどね。
前はダメだったけど、今は、ぼんやりとでも漫画で伝える事が出来るのだから、王都へ連れて行ってもらって、お役人さまか偉い人に、
『異世界から来た中年女で、言葉が通じませんが、生きていく術を何か与えたください』
って頼むべきだろう。
言葉が通じない以上出来る事は限られてるけど。
絵を描く。芸大でプロのイラストレーターに習ったリアルイラストの描き方で、この世界で使われてるパステルに近い色棒を使えば、似顔絵描きくらいなら出来るかも。
やり方さえ教えてもらえば、お掃除洗濯くらいは出来るかな。電子レンジやガスレンジとか無さそうだから、お料理はすぐには無理……だけど、教えてもらえば頑張る! いや、正体不明の人間に、食に携わる仕事はふらないか。
これ以上、ここの人達に借りを作ったり負担になりたくない。
ルーシェさんが帰ってきたら、王都に行きたいって伝えて、ジュードさんの面会や、今後の身の振り方とか、少しお世話になったら、寂しいけどお別れして、いつか恩返しに来よう。そうしよう。
ジュードさん、収容所に入れられてても、面会くらい出来るよね?
状況が許したら、出して貰えるか聞いてみよう。絵だけで上手く伝わるかな……
そうと決めたら、ルーシェさんがいつお帰りになるのか気になってくる。
夕飯のゆるゆるリゾットとドライフルーツとナッツの温野菜サラダ、ベリーたっぷりのヨーグルトが、女中頭さんとメイドさん2人、ルーティーシャンさんと共に運ばれてくる。
「ヴァニラ、ヴィッフィアルゥヴ」
「うー」
あれ?ヴィッフィアルゥヴって《おはよう》じゃなかったのかな? おかしいな、夜にも言われると思わなかった……
「ぶっひあるぐー」
挨拶なのかよくわからないけど、返しておく。変な顔はされなかったので、朝晩関係なくただの挨拶なのかな?
心配げなルーティーショアさんの後ろにお母様も居る。
「あのぉ、ルーシェさんはいつお帰りになりますか?」
意味がそのまま通じなくても、ルーシェさんの事を訊いてるくらいは解るだろうと訊ねてみる。
「クク、ルーシェンフェルド・クィルフ・エッシェンリール=ククヴァン・デ・シェルリエロフ……(以下略)」
う~ん、解らん! 再度、上目遣いにお母様を見て、訊いてみる。
「ルーシェさんにお話があるの。えっと、ルーシェさんはしばらくお帰りになりませんか?」
お母様もにっこり微笑まれて、私の頭を撫でながら、何か仰ったけど、様子からして、今夜帰るから待ってろ、ではなさそう。
ルーテシアさんに匙を持たされ、なし崩し的に食事が始まる。
どれも大変美味しゅうございました。たぶん、日本の、母が買ってくる惣菜と違い、化学調味料などが入ってないから、アレルギー由来の味覚障害が出なくて美味しいのだろう。
誤魔化されそうになったけど、なんとかルーシェさんと会話しないといけないのだ!
「あのう、それで、ルーシェさんがお帰りになるのはいつでしょう?」
次回 第2章 17話 だから、どうしてそうなった?




