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異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?  作者: 月媛(*'―'*)♪
駅前から自宅まで約8分の間に迷子になりました
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3.ここどこ? 丹波の森ぢゃないよね?



 雑種犬か山犬か知らない汚らしい獣は、低く唸りながら、妖精の環(フェアリーサークル)の周りをゆっくりと廻る。


 お腹を空かせているのだろう、肋骨が浮き出るほど痩せている。


 こんなどこかわからない所で、犬っぽい何かのお腹の足しになって、改めて振り返るほどでもないしょぼかった人生を終えるのか~


 不思議と、震えたり焦ったり、恐怖は感じなかった。

 現実味がないのかもしれない。意識が途切れた後にもの凄い迷子、不思議な感じのするキノコとハーブのミステリーサークルの真ん中に立ってて。

 状況判断もままならないうちに、現代では殆ど見ない野犬的な獣に襲われる。


 確かに非現実的な感じはする。


 けど、状況的に言って、のほほんとしてられない状況なんじゃないのかな。


 ───── ◆ ◆ ◆ ──────


 お世辞にも、日頃の行いが良いとは言いがたい私の人生でも、ご先祖様は見守ってくれてるのか、山犬らしき獣は林の中に姿を消した。


 どうやら、妖精の環(フェアリーサークル)のハーブか茸、或いはその両方の、臭いだか胞子だかが気に入らなかったらしい。


 おかげで、今夜の方針が決まった。


 嗅覚の良い獣の鼻を刺激するらしいハーブと茸に囲まれたまま、夜明かしする事にした。


 幸い、ちょっと小石がお尻に当たるけど、三角すわりしてもはみ出さない程度に幅は余裕あるし、そのまま寝て足を伸ばしてしまっても、全身で横にならない限り、妖精の環(フェアリーサークル)を蹴飛ばしたり踏み潰したりはしないだろう。


 虫や鳥、特に毒虫も気になるけど、山犬と同じで、ハーブが虫除けになってくれるような気がする。思い込みかな?


 徹夜するか眠るか少しだけ迷ったけど、どうせ気配に(さと)い訳でもなく、明日に疲れを残して(まず)い事になるよりかはマシ。寝る事にした。

 元々、本を持ったまま座って寝落ちるのや、お風呂で湯船に浸かったまま寝るのは日常的で、関西に居た頃、東京で下宿中の弟の所に行くのに夜行バス使っても平気で寝れたし、座って寝るのは大丈夫。


 寝ると決まったら、お腹が空いてるのは気になったけど、他に何もないんだし、今夜はここから出ないと決めたから、食料を探すのも諦めた。

 明日は早めに、水の確保を考えよう。

 人間、二~三日食べなくても動けるけど、水がないとヤバい。


 ホンマに、ここはどこなんかいな。


 それよりも、明日は何か進展がありますように。


  ───── ◆ ◆ ◆ ──────


 ちゅーちち ちゅくちゅく ちーちちち


「あー、もう、うるさい!!」


 自分の、誰かに怒鳴る声で目が覚めた。

 その誰かは、妖精の環(フェアリーサークル)のハーブに実った小さな実を啄む小鳥だった。

「うぇえ、ちょっと待って! それ、私の生命線かもしれないんだから、荒らさないで!?」


 当然、ただの小鳥が私の言う事を理解する訳がない。小首をかしげて啄むのをしばし休んだが、再び啄み始める。

 まぁ、ずっとここに居る訳にもいかないし、小鳥だって食事は必要だ。

 それに実を採るけれど、まだ実ってない花や葉には触らないようだし、止める訳にもいかないだろう。


 しばらく、小鳥の食事を眺めて和む。


 少し肌寒い感じもするけれど、足の辺りは朝日がさして暖かいし、小鳥が鳴きながら啄む姿は見ていて心も少し温かくなる。


 小鳥が飛び去った後、周りを見まわすけれど、やはり見覚えのある景色に戻ってもないし、夢落ちでもなく、現実として、知らない土地の林の中に座り込んでいた。


 さて、これからどうしようかな?


 林の方は、昨夜の(もや)と朝露で濡れていたが、この妖精の環(フェアリーサークル)のある開けた場所は、朝日を浴びて明るく、乾いていた。

 どうやら、雨は降らなかったみたい。さすが、私。

 何がさすがなのか。実は、年間を通じて、殆ど傘を使わないのだ。

 都市型ゲリラ豪雨には数年に1度当たるものの、朝降ってても、出勤時には小やみになってて、仕事中再度降り出し、なぜか帰宅時にはやんでいる。

 それは、急な残業にあっても同じ事。寧ろ定時であがった同僚は雨に降られたのに、残業後にあがった私はやんでたり。

 雨に嫌われる女。降られない女。そんな渾名がついたり。振られない女なら格好いいけどね。


 そして、昨日は全く気づかなかったけど、サークルの内側の、ハーブが何種類か濃く繁ってる所に、ハーブの株に隠れるようにして、昨日飲み残したペットボトルが転がっていた。


 人工甘味料不使用の、ミルクコーヒーだ。

 喉の渇きを癒やせるかと言うと微妙だが、糖分はとれる。

 微炭酸乳酸菌飲料は見つからなかった。殆ど飲んでたから空に近かったけど、あるに越したことはないのに…。


 手のひらよりかは小さいソフトクッキー5枚と、四分の一ほど飲んじゃったミルクコーヒー。

 朝食に食べちゃう? 1枚だけにしとく? 何があるかわからないからとっとく?


 お腹が空いた状態でずっといると胃が荒れるしなぁ…


 取り敢えず、ぐーぐー鳴きだすまでは我慢して、1枚づつ食べよう。次に何か食べられるのがいつになるかわからないからね。


 お陽様はまだ木々のてっぺんにかかる位置には来てないし、寝た感じでは7時か8時くらいかな?


 スマホの電源を入れてみたが、7時47分で、やはりアンテナは5本中3本立ってる。のに、家にも職場にも、家族の携帯にも繋がらない。

 メールも受信はしてない。

 地図アプリを立ち上げても、現在地が検知出来ないとかで、使えなかった。

 電池が勿体ないから、人里に出るまでと再び電源を切る。


 それよりも、12時間以上用足しをしてないので、さっきから急に、朝一番のトイレが緊急な感じである。


 散々迷って、しかしどうしようも無いので、安全地帯と思っている茸とハーブのサークルから出て、林の繁みの陰にしゃがみ込んで()()()()する。


 今は貴重なポケットティッシュを泣く泣く消費して、落ちてる枝を使って埋める。

 他人(ひと)に見られても恥辱で悶えそうだし、臭いで、変な獣を呼びこんだり、昨日の獣の縄張りを荒らしたと勘違いされて襲われてもかなんし。


 さて、人心地ついたところで、どうしようか?



 しばらく、目を閉じて、風の匂いを嗅いだり、音に聞き耳を立てる。


 なんて爽やかな朝。


 音は、葉が揺れる音と、時折鳥が羽ばたく音と、虫や鳥の鳴き声が聞こえる。

 狼とか狐とか、猿とかの獣の声は聞こえない。


 やはり、どんなに意識していろんな音を聞き分けようとしても、人の声や足音、車や自転車の走る音も聞こえないし、じっと空を眺めても、飛行機雲や高い位置をゆく飛行機も見えなかった。空気が湿ってると飛行機雲は残りにくいんだっけ?


 自衛隊や米軍の演習機とか、新聞社やテレビ局のヘリとか飛んでないのかな。


 ホンマにここどこやねん。


 しばし森林浴を堪能した後(我ながら余裕あるなぁ)、カッと開眼!山犬の去った方角と少しズレた南東(多分)に、水の流れるような音を聞いた。

 水槽の浄水器から水が流れるような、湯船に溜まった水が溢れるような音だ。

 川か、斜面から水が漏れてるのか、流水の音だ。


 生命維持に必要な物の1つを確保するべく、水音に向かう事にした。


 地面は固くもなく柔らかくもなく。

 落ち葉や小石はたまに踏むけれど、乾燥して砂っぽい訳でもなく、朝露で湿ってるけど泥濘(ぬかる)んでる程でもなく。

 木の根っこに気をつけていれば、ツッカケでも歩行は困難ではなかった。


 10分も経たない内に、幅1mほどの小川に行き当たり、目に入る範囲で2カ所程、段差が十数cm程度の小さな滝が見える。その、高低差から流れ落ちる水の音が聞こえていたらしい。


 昨夜の内に聞こえてれば。

 無理か。湿った風のおこす葉ずれの音が、神経質な人なら寝られない程度にはザワザワしてたし、パニック状態ではなかったものの、今ほど落ち着いてもいなかった。


 さて、この水は飲めるのかな。

 山の湧き水。温泉地だったら硬質かもしれない。だったら飲めないなぁ。西日本の水ならたいていは軟水なんだけどね。

 海外のミネラルウォーターみたいな硬水だと、変な味して、喉がアレルギー反応に近い症状を訴えたり、お腹壊したりするからなぁ。

 そもそも、蒸留しないで、細菌とか大丈夫なのかも怪しいか。


 ①穴を掘って、コップを真ん中に置いて、ビニール袋を穴に(ゆる)ませて張って、穴の周りに水を撒く。

 ②蒸気が出てビニールを伝って滴が落ちてコップに溜まる。


《1》大きな樽に、小石、砂利、砂を交互に何層か、上まで詰める。

《2》1番下に、穴を開けてコップで受ける。

《3》上から水を入れて、砂利や砂で濾されて、清水が下から出て来る。


 1.荒い素焼きの水瓶に水を入れる。

 2.ジワジワ染み出てくる気化水を下で受ける。


 以上が、なんかの漫画で得た、本当かどうかちょっと怪しい、ざっぱな知識。

 詳細が解らないから、成功するとは思えないし、道具が足りない。


 迷ったけど、まぁ、日本で、酸や毒の入った川って聞かないし、上流に化学工場がありそうでもないし、少しのミルクコーヒーで凌げる筈もないし、思いきって川に手をつけてみる。


 ひんやりとして気持ちいい。


 そのまま両手に川の水を掬い、顔を洗ってみた。

 さっぱりとして、顔中の毛穴が引き締まるような感じがした。

 顔の皮膚は、身体のように自然に垢にならないから、新陳代謝させるには洗わなくてはならない。

 でも、化粧水も乳液もないから、乾燥しきっちゃうなぁ…

 冬じゃないだけマシかな。


 眼鏡も流水の中に浸して、軽く振るようにして水滴を飛ばす。眼鏡拭きもないから困ったもんだ。

 それでも砂埃や小さなゴミを洗い流しただけで見やすくなる。


 改めて周りを見回す。


 綺麗だ。緑深い自然の景色。さらさらと流れる小川。

 子供の頃は、こういう環境でよく遊んだなぁ。


──いかん、ついほっこりしてしまった。



 さて、川が流れてるって事は、方角はともかく、川下に行けば、山から出られるよね?

 滝があって迂回しなくちゃならないかもしれない。

 断崖絶壁にぶち当たるかもしれない。

 渋谷みたいに、川が地下に潜ってるかもしれない。

 カルスト地形で山の中を鍾乳洞になって抜けるかもしれない。


 それでも、基本的には、街に、最終的には海か稀に湖に出るよね?


 川沿いに行けば、当座の水は確保できる。

 2~3日食べなくても死にゃしない。


 川の流れに沿って、道を下る事にした。


挿絵(By みてみん)

次回、第4話 ここどこ? 霧ヶ峰高原ぢゃないよね?

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