2.ここどこ? 箕面の森ぢゃないよね?
ここがどこかより、当面の問題は、この先どうするか、だよね?
さっきよりも暗くなってきたし、靄のためか湿気も増えた気がするし、気温も下がってきた感じだし、このままだと風邪引くよね?
まずは、方角を決めないと動けないかな。どっちに行けば、人里に出られるんかな。
木の葉のよく生い茂ってる方や、切り株の年輪の幅の広い方が南だっけ?
星座は判んないな。いや、星座早見表の上での位置関係は覚えてるよ? 理科好きだったから。算数嫌いだけど。
よく不思議がられるんだけど、理科は好きでも算数嫌いっておかしくね? って。
興味があるかないかだけだと思うけど。
生物・天体地学・物理科学は好きなんだけど、力学とかは微妙なんだよね。
算数─数学ですらない─は好きじゃない。科学や物理、力学も、考え方や在り方は好きなんだけど、計算いっぱいするのが嫌なのだ。
また、話が反れたな。
識ってる星座が、実際に空にある星を見てもどれだかよく判んないのだ。
オリオン座や北斗七星なら誰でもすぐ判るけど、夏にオリオン座は見えないし。
例え方角が判ったとして、現在地が解らなくて、どっちへ行けばいいのか…そこも大事だよね。
大声をあげて、誰かいないか探してみる? 凶暴な肉食獣とかいないかな?
樹に登って、周囲を見る? 枝も位置が高くて手が届かないし、幹も真っ直ぐで引っかかり殆どなくて、そもそも登れそうにないな。
獣道っぽいのを探して進む? 靄が視界を邪魔してよけいに迷子になるかな?
多摩地方に熊とか居たかな?
猪は居たな。時々、夜中に駅から帰る途中、山際の囲いの向こうを並走してたな。
猿も。家の裏の川の岸を歩いてるの見たし。高尾山から渡って来たのかな?
見た事はないけど、熊はどうだろう。
熊は大きな音で逃げるって聞いたけど、秋に入ったら、冬籠もりに向けて餌とりとかするのかな。人間って保存食にはならないと思うけどどうだろう。最近、ニュースでよく熊に襲われたって聞くよね。
ここ、本当に多摩地方なのかな? こんなに背が高くなるなら針葉樹かと思いきや、見上げてみると広葉樹なんだよね。森ってくらい木々が密集してて、でもわりと平坦。うちの近くって、住宅に拓いた土地以外、こんなに木が繁ってる場所ならもっと高低差あると思う。
しかも、なんの木なのか判別出来ない。
父がアウトドア派で、子供の時は、夏休みは山に行ったりしたし、海に行っても日本って大抵、海の側に山もあるよね。
母が山野草の趣味で、庭は木や草や花で鬱蒼としてて、初めて来る人に、道案内の見印は暑苦しいくらい鬱蒼としてる家と伝えるくらいだ。
おかげで、世間一般のそんなに植物に特別な興味の目を向けない人達に比べて、まあまあ詳しい方だと思う。の、だが…
で、この目の届く範囲の植物には、識ってる物と共通項や類似点は見られるものの、よく知る植物とは微妙に異なる。
変異種、とか、○○科△△亜科□□種は同じだが、違う物、くらいの違い。植物にそんなに詳しくない人なら、えー同じやん、って言うくらい。
まぁ、植物学者じゃあるまいし、観察してても事態は好転しなかろう。
ずっとここに居ても仕方ないし、より迷子と言うか遭難しちゃう危険を冒しても歩いてみるか?
だいぶ暗くなってきたし、足元も見えないと危ないし、諦めて、朝まで待ってから移動した方がいいかな。
スマホの時計見ると、もうすぐ夕方の5時半で、関西なら今時は7時くらいまで明るいけど、ここらは6時前には暗くなる。
スマホ見ても、アンテナは立ってるけどどこにも繋がらないし、メールも送信したけど、返事も送信ミスの知らせも帰ってこない。
ラインとやらは入れてないし、位置情報サービスもうまく行かなくて、地図情報出せない。
グーグルがんばれよ!
てか、アンテナ立ってんのに繋がらんってどういう事やねん!? 富士通頑張れや! いや、ドコモか?
だんだん電池減ってきたし、どうせ繋がらないんだったら1度電源切った方が良いかなぁ。
充電器も予備電池パックも持ってないし。
電池切れたら終わりだよね。連絡手段無くなっちゃう。
さっきから、全然人の気配ないし。
人の気配どころか、車の通る音も聞こえないし、空をいく飛行機も見ない。
私の立ってる妖精の環を中心とした少しだけ開けた場所はともかく、周りの林立した木々の下生えや、木々から下がる蔓植物など、これだけ鬱蒼とした環境で、花粉症のアレルギー反応が全くない。
ここは関西?
東京に引っ越して2年目から雑草のアレルギー反応が強くなって、子供の頃は目が痒い、果物食べると舌が痺れて刺激的~くらいだったのが、喉に浮腫が出て呼吸困難になったり、鼻水ボタボタ落ちたり、声が出なくなったり。
歳とったせいかなと思ってたけど、伯父のお葬式に出る為に一時的に関西に戻ったら、殆ど症状が出なかった不思議。
生まれ育った土地の花粉は悪さしない?
それはともかく、これからどうしよう?
六甲山、五月山、箕面山は勝手知ったるで、登山道を外れても大体判るけど、ここは違う。
土の色も、生えてる植物の群生も。
でも、風の匂いが少しだけ懐かしい感じがする。木々の間は靄ってあちらから来る風は少し湿ってるけど、妖精の環の周りは全体的に空気が澄んでる。深呼吸しても苦しくない。
でも、未だ、この妖精の環から出る勇気が湧かないのだ。
現在地がどこだか判らないのに、移動して大丈夫だろうか?
林の中は薄暗いし、陽が落ちれば確実に真っ暗闇だろう。そんな中で進める訳がない。
でも、少しだけ動けば、実は登山道があったり、例え無人でもキャンプ場が、もしかしたら民家だってあったりするのかもしれない。
でも、何処まで行っても何もなくて、間違って今より更に奥に進んでしまう可能性だってある。
どちらにせよ、夜は危険かな。
ガサッ
初めて、風が木の葉を揺らす葉擦れと、私の衣ずれ以外の音が聞こえる。
私が立ってる背後─多分、南西─の繁みがガサガサ揺れ動く。
狼とか狐とかてできそうだな。低木の葉の揺れる位置からして、リスやウサギではなさそう。
猪や猿もあまり歓迎出来ないなぁ。
息を殺すようにしてじっと見ていると、予想通りの、毛艶のよくない大型犬みたいなのが出て来た。
山犬とか狼とかいうやつ?
いや、ニホンオオカミは絶滅したはず。
どっかの飼い犬が逃げて野生化したのかな?
これまた見ても犬種がわからん。雑種か?
犬っぽい何かは、狂犬病は持ってないのか、泡吹いてたり、目が光って狂気を孕んでたりはしてない。そこは大丈夫かな?
フンフンと匂いを嗅ぎながら近づいてくる。
あまり友好的な雰囲気はない。ネット小説とかだと、仲良くなったりお伴になったりするんだけど。
哀しいかな、こいつは上目遣いに睨んでて、獲物として狙うか伺ってるように見える。
逃げた方がいいのかな?
犬って、狩りの本能で、逃げるモノを追いかける習性があるって聞いた事あるよ?
そもそも、ツッカケで山?の中を巧く走れるとは思えないし、犬の足に逃げ切れる筈もなし。
どうする明莉!? 絶体絶命の危機!!
次回、第3話 ここどこ? 丹波の森ぢゃないよね?