1.ここはどこ? 奥多摩ぢゃないよね?
アルファポリスさんで、アルファポリスアプリで縦書きで読むことを前提に投稿していたものです。
とにかく、状況把握が出来ません。
ここはどこ? ──360度、樹に囲まれてます。
そこの少しだけ拓けた空間で、足元に茸とハーブ?っぽい植物で出来た妖精の環みたいなのがあって、その真ん中に立ってます。何故?
今はいつ? ──もうすぐ日暮れかな?
樹々の隙間からのぞく空は、茜色と赤紫と濃紺とが入り雑じった色をしてて、一等星以上の大きな星がちらちら瞬いている感じ?
茜色を映した雲も早く流れてて、昼間の暖かさと夜の涼しさの温度差に流れていく感じで、もしかしたら雨が降るのかも…… やだ、傘がないよ!
というより、荷物なんにも持ってない? あるのは、低い鼻に引っ掛かりつつズレ落ちかけの近眼鏡と、右手に握られたスマホ。これでどうしろと?
私は? ──私は明莉、薗田明莉。
母は茉莉花とつけたかったらしいけど。祖母と父の意見が通って明莉になった。うん。頭は大丈夫のようだね~。よし。
取り敢えず落ち着いて、身の回りを確認。
膝上丈のテンセルスカートの左ポッケにソフトクッキーのミニパック1つとポケットティッシュ2つ。
右ポッケに、さっき買ったバニラエッセンスの小瓶3つをタオルハンカチで包んで入れてた。
もう1枚予備の畳まれたハンカチ。
猫の顔を模した百均で売ってる小銭入れ。ただし残高は大人の財布にしては泣けてくる程度。買い物した後だしね! ……言い訳です。元々お金持ちじゃありません。ハイ。
上着やコートの類いはなく、薄い若草色で単色の、絹のようなつるっとした綿の長袖シャツの合わせ目から、レースの縁取りが唯一お洒落なレーヨンの、やはり藤色単色のキャミソールが見えてる。
古典和色が好きなのだ、薄い薄い小豆色とも濁った薄桜色とも見える、テンセルのスカートの下は、レーヨンのてろてろした薄手の、黄色の花柄で地は薄藤色のパンツが足首まである。
レーヨンは肌にひっつきにくくてシワが目立たなくて好きなんだ。ユ○クロのイージーとか室内着とかのヤツね。
ここまで描写したらお気づきかと思いますが、ファッションセンスありません。ハイ。
40にもなって未だに、お出掛け前には母親に、その格好はどうなんだ、せめて上を替えろとかズボンはどれどれにしろとか、厳しいチェックが入ります。
40……自分で言っててどんよりしてくるね。
どちらかと言えば、50に手が届く歳ですが、まともな就職もした事なく、結婚もした事ないし子供もない、実家でぼんやりパートで食い繋ぐ色気の枯れたオバサンだけど、労働のストレスや嫁姑子育て等の苦労も経験した事なく、趣味は読書(ラノベや漫画が8割を占める)とゲーム、たまに映画鑑賞、自分のおやつづくりという、人と接しないインドア派な為、頭の構造はそこらの中二病患者と変わらない。
自分で言っててちょっぴり悲しくなるけど、すぐどうでもよくなるお気楽な性格。
そんな私でも、これはどうなのだろうか……
さっきまで駅前の、公園という名の空き地で、ペンキの剥げた木製のベンチに座り、スマホで、更新通知貰った流行りの投稿ラノベの最新話を読んでた、はず。
うん、それは間違いない。夕方に近いのもそんなに時間が経ってないはず。気を失ってて翌日以降と言うのならわからないけど……
今日は、年齢からパートという身分ながらも中身はアルバイトとほぼ変わらないお仕事もお休みで、おやつにクッキーかカップケーキでも作ろうと思ったら、大好きなバニラエッセンスが空に近いほどなくなってた。
仕方なしに駅前のスーパーまで、部屋着のまま、ミュールと言えなくもない普段履きのサンダルで出掛けた。
天気はよかった。
ここ最近、温暖化とか異常気象とかで猛暑日が続いたりしてたけど、秋が近いのか、ほどほどの気温で、日陰を歩けばまあまあ涼しいかもくらいの過ごしやすさだった。
あ、私の話に、そこそことかほどほどとか、てろてろとか、擬音(?)が入ったり助詞抜けたり語尾が微妙なのはご勘弁、関西の田舎育ちなのだ。
家族の都合で関東に引っ越して、どんなに標準語を使ったつもりでも、話すと直ぐ関西人だとバレる。解せぬ。
聞いてみるとその理由は、イントネーションは勿論、この擬音が端々に入るのと、喋りに必ず身振り手振り等のアクションが加わって、全身で語るかららしい。
え~これ、普通だよねぇ? 東京の人は違うのか?
まぁいいや、自分では変だとか直そうとか思ってないから。別にええやん、的な。
ただ、急に雨が降って、折り畳み傘を出すまでに上着と髪がぼとんこに濡れた時に、
「あ~あ、濡れ濡れだよもう。急に降んなっての」
と言った途端、周りに変な顔され、同時刻にあがって一緒に帰宅途中だった同僚に、濡れ濡れとか言うなと怒られた。
何処がかは解らないが、卑猥な感じがするらしい。
濡れてる状態が少しじゃなくてぐっしょりだからヌレヌレ、おかしくないよね?って言い訳したら、更にぐっしょりもあかんらしい。
……言っていい? すぐに頭の中でなんでもエロい変換するお前らの方が卑猥じゃ!
めっちゃ濡れたからヌレヌレ、強乾燥してればカサカサ、ゴザゴザ、パリパリ、濡れ具合を表すのに、しっとり、じっとり、ぐっしょり、びしょびしょ……
擬音入ってた方が、より正確に状態が伝わるよね? 私はそう思ってるし、育った地では、変やとかエロいとか言われた事ないし!
よし、これからもこのまま変わらん! し、変えられん。
──話が変な方向に反れたな。
とにかく、状況が解らない。
なんで、駅前の広場(あれは公園とは認めません)でネット小説読んでたハズが、森の中で立ってるんだ。
もう一度、よく思い出してみよう。
① 夕方が近いけどまだまだ明るい時間に、小銭入れだけ持って、つっかけ履いて、駅前のスーパーに向かった。近場だしね。
② レジ袋辞退すると2円引いてもらえるから、目的のバニラエッセンスの小瓶3本と、ソフトクッキー5枚入りパック1つ、ペットボトルのドリンク2本だけ買って、クッキーとバニラエッセンスはポッケに小銭入れと一緒に入れて、店のロゴマークの入ったカラーテープをペットボトルのバーコードを隠すように貼って貰ってそのまま持って店を出た。うん。
③ 店を出て直ぐ、左のポッケに入れてたスマホが鳴いた。
ヒタキや四十雀等の野鳥の鳴き声が、お気に入り登録したネット小説の更新を報せるメールの着信音だ。癒されるよね。
④ 風が心地よいし、更新されたものが今一番続きが気になるやつだったので、家に帰るまでのお楽しみには我慢出来ず、駅前の公園とは名ばかりのベンチと花壇しかない広場の木陰で、ペンキ剥げ剥げの木製ベンチに座り、売ってる店が限られる好みの微炭酸飲料の蓋を開ける。乳酸飲料微炭酸か、ミルクコーヒーがいいよね。
⑤ スマホでネット小説を読む。どこでも、本持ち歩かなくても好きに読めるのがいいよね。
木陰なので、アスファルトの道の眩しさや蒸し焼きになるような熱も感じないし、夕方が近いため、日の当たる場所と日陰の温度差が出来てきて起こる風が、駅舎や街路樹の陰で涼しくなってから届くので、そよそよと心地よく。
が、しかし、実は近視で乱視で、実年齢は結構行ってる為、あまり長くバックライトのついた液晶画面は見続けられない。目も疲れるし、脳も疲れる。歳はとりたくないね。
⑥ 今一番の作品の最新話見たあと、ついつい他の更新作品が気になって、五〇〇㎖ペットボトルを飲みきるまでと色々読み込んでしまい、次第に熱中症的な寝不足的な、目が物を見るのを嫌がるような感じがしてきた。ン? これがよくなかった?
そうだ、こりゃアカンとまずは帰る事にして、川沿いの木陰が続く家までの道を、ふらふらと歩いていたはずだ。
幾ら熱中症に近い(いや、本当に熱中症だったのかな?)症状だったにせよ、歩いて10分もかからない殆ど一本道を、迷って山ン中に入り込むとは思えないけど……
関東に引っ越したけれど、最初は国分寺で、数年毎にどんどん23区から遠く離れた田舎の住宅地っぽい地区に引っ越して。
散策してみると、どこか今まで住んだり活動範囲だった、川西や新三田、池田や箕面、豊中を思い出す街並みだ。
勿論建物の感じは違うし、信号や道路標識の道案内の内容に「ソコ!? なんでや」って感じたり、色々と違うところはいっぱいあるけど、山や林と住宅地の位置関係や駅前だけ変に都会みたいに開発された感じが、ちょっと懐かしい。
東京都内とは言っても、神奈川や埼玉、山梨と隣接した辺りは山や森林がいっぱいあるし、街でも梅田や神戸にも見られないくらい緑が多い。
ただ、緑は多いがどこか態々計画した整備された感があまり好きじゃない。開発計画の模型や街を造るシミュレーションゲームのマップみたいだ。
それはともかく、ふらふらと歩いていたとはいえ、道をそれて山中にいるなんて事はあるはずがない。
今も、この妖精の環の周りはクリアな空気だけど、少し離れた木々の間には霧がうっすら漂っていてちょっと幻想的♪ ……なんて言ってる場合かいな。
秋から冬口に朝なら川から霧があがる事もあるけど、こんなまだまだ残暑の時期に、夕方に霧なんてない。
雨の後の靄ならあるかも知れないけど。
もやもや~とした中からヘッドライトが延びてきて、急に車が出てくるの危なくて怖いよね。
で、ここどこ?
次回、第2話 ここどこ? 箕面の森ぢゃないよね?