蹴斗とこっくりさん・勝負
《ゲームに勝てば、お前達は助かる。だが負けたら4人全員呪う。……都合のいい解釈はしないよ。》
「……いいさ、勝つ。」
少年、[服部蹴斗]と【こっくりさん】による、命懸けの勝負が始まろうとしていた。
【こっくりさん】は手から黒い球を生成し、蹴斗に投げる。
《ゲームは蹴鞠にしよう。キミの得意なゲームだ。》
「けまり……?」
《ルールは簡単。その球を地面に付けることなく、何度も跳ねさせる。
ただし両手、厳密には肩から先を使ったらアウトだ。主に脚を使うこと。》
蹴斗は黒い球を受け取り、感触を確かめる。
……感触はサッカーボール、それもよく馴染む。ルールもリフティングに近いようだ。
蹴斗はサッカー少年だ。仲間達の間では上位に入るほど上手い。
リフティングも結構できる。勝つ見込みはあるはずだ。
「つまり、オレとお前でリフティングの回数を競うと?」
《ボクは何もしないよ。だた、指定回数だけ跳ねさせたらキミの勝ち。》
どんな条件であれど、自己ベストを尽くすだけだ。大丈夫、蹴斗の自己ベストは……。
《指定回数は、100回。》
……自己ベストは、73回。
――――――
呼吸を整えて、蹴斗は黒い球を見つめる。
一度始めたら失敗は許されない。緊張の最中、リフティングを始める。
1、2、3、4……。
蹴斗も始めたての頃は、最初の数回でも苦戦した。
慣れればこの程度は目を瞑っても、とまでは言わないが、今では簡単にこなせる。
11、12、13、14……。
初めて10回以上できた時は興奮し、友達に自慢して回った。
そのおかげで、この辺りも難なくこなせている。
21、22、23、24……。
それ以降は、ただ暇な時に自己ベストを更新するためやっていた。
それでも、徐々に回数が増えていくことに達成感を覚えていた。
……これを、100回。
31、32、33、34……。
【こっくりさん】は知っている。これはクリアできないと。
負けを予知した上でゲームを始めたのだ。
あえて勝てそうなゲームで失敗し、絶望させるために。
41、42、43、44……。
絶望が深いミームを生み、死の恐怖で鮮明なものとなる。
そして児童たちが噂し、強力なミームとして【こっくりさん】が存在できる。
これが伝説使徒の、生存本能のようなものだ。
51、52……!?
その時、蹴斗の足元が狂った。
ボールが蹴斗を離れ、壁際へと飛んでいく。
「あっ!?」
《えっ?》
蹴斗は駆け進み、とっさにボールへ飛び上がって胸で受け止める。53。
勢いのなくなったボールは足元へ落ち、そのまま、つま先で低めに蹴り上げる。54、55……。
《ほっ。》
……なぜ安心した? 失敗すればよかったんだ、姑息な真似を。
どうせ長くは続かないんだ。いつか失敗する。
61、62、63、64……。
そうとも知らず、蹴斗は必死でリフティングを続ける。
命懸けで、真剣に、友のために。
71、72、73……。
とうとう、自己ベストに到達した。あとは精神と体力の限り続けるだけ。74。
あと一息、あと一息なんだと心で唱えつつ、蹴斗は続ける。75。
76、77、78、79……。
なぜザワザワする? この感情は何故だ? ボクは何を求めている?
【こっくりさん】の感情が揺らぐ。
82、83、84……。
なぜ呪おうと思った? 呪わなくてもミームは維持できる。
いや、呪う事でミームを維持してきたはずだ。……いつから?
87、88、89……。
ついに大台。90。
あと数回で生き残れるんだ。91。
蹴斗が勝つ。なんだこの安心感は。
ボクは、ボクは……。
安定を求めていた。
確かな自分。我としての選択。
それらを保証してくれる圧倒的な……。
97、98……。
「これで……!」
《ッ!? させるか!》
【こっくりさん】の影が、ボールに向けて手をかざす。するとわずかにボールの軌道がズレた。
99。なのに、ボールは低く、遠くに跳ねていく。
「ッ……!」
蹴斗は駆ける。狭い教室が、今だけだだっ広く感じた。
あとたった1回。そのために……!
《いいかげん、諦めッ!》
と言いかけた時だった、【こっくりさん】の影を、何かが掴む。
他ならぬ、自分自身の手。自分が自分を妨害している。
なぜ!? ミームを高め、圧倒的な力を手に入れたらいいだろう?
違う。正しき心を持つ仲間、圧倒的な信頼が欲しかった。
《だから……いけ!》
蹴斗はスライディングに全てを賭ける。落下地点、速度、タイミング、……ドンピシャ!
100。
終わった。蹴斗は勝った。
精神的にも肉体的にも疲労した蹴斗は、大の字に伏せる。
成せないと思った100回達成に、【こっくりさん】の影が意気消沈する。
しかし、予知を裏切り運命を掴むものこそ、【こっくりさん】が求めた人間だった。
少なくとも、その瞬間はそう思った。
「ねぇ、キミ。」
「……なんだ、まだ、なにかあるのか。」
息を切らしながら、蹴斗は【こっくりさん】の問いかけに答える。
「ボクと契約してくれないか。」
「けーやく……?」
「そうすれば、キミも友達も絶対助かる。……ボクもね。」
蹴斗は疲れていて、あまり考えが働かない。
ただ、助かると聞いて、少し安心して答えた。
「じゃあ、けーやく、してやるよ……オレとけーやくだ、【こっくりさん】……。」
その瞬間、蹴斗に頭痛が走る。
同時に、【こっくりさん】の姿と影がうごめき始める。
《なぜだ! ボクが、ボクこそが正しいんだ!》
「違う! 何かを犠牲にして得た者は一瞬でしかない。ボクは永遠が欲しい!」
《ふざけるな! 全てを糧に、永遠になればいい! だから!》
「もういい。ボクは決めた。お前なんか……必要ない!」
影が光にかき消されると、狐耳の少年がそこに立っていた。
少年は優しい目で、蹴斗の姿を見る。しかし蹴斗は気絶し、目覚めていなかった。
――――――
これが、服部蹴斗の物語の始まりとなる。
【こっくりさん】との出会いは事件と波乱を呼び、時に傷も苦悩も被る事になる。
―――されど、服部蹴斗に一片の後悔なし。
蹴斗とこっくりさんの物語がやっと始まります。
その前に、安定した投稿ペースを獲得したいなぁ。
ちなみに、某所で感想やご指摘を受けており、未熟を痛感していました。
まずは経験値を溜めて文章力を高めたら、ネタの方を仕入れていきたいなと考える所存……。