蹴斗とこっくりさん・邂逅
人は噂した、「硬貨と五十音表を使った降霊術により現れる、【こっくりさん】がいる」と。
人は噂した、「必要なものをひとつだけ奪う、【妖怪いちたりない】がいる」と。
『Meme』。それは人類が進化の過程で獲得した遺伝情報の一種。
情報は進化し、姿かたちを変え、ついに人々の生活に影響を及ぼし始めた。
『伝説使徒』……あらゆる噂・伝承・都市伝説をもとに生まれた情報生物。
その出自は時空を超えて、もはや特定する事も不可能となった。
故に。
人間も、彼らに対応するように進化する。それが世界の理である。
――――――
「いくぞ?」
「覚悟はできたか?」
男児ふたりが女児に向けて言う。
4人は机を囲み、その机には五十音表が広げられていた。
「い、いいわ。始めましょう。」
「実に興味深い……。」
女児のひとりは震える手で十円玉に触れ、もうひとりはその手を支えるように真似する。
男児ふたりもこぞって十円玉を指で押さえる。
「「こっくりさん、こっくりさん。鳥居までおいでください。」」
そう……これは【こっくりさん】と呼ばれる降霊術である。
その話によれば、これは獣の霊や人間の霊を呼ぶ方法らしい。
その霊は、博識でありあらゆる質問の答えを知っている。
口は聞けないため、五十音表を介して対話を試みるという訳だ。
正しい作法で行わなければ呪われるとも言われているが……好奇心に勝るほど恐ろしくはないようだ。
「お、おっ?」
「うう、動いた!」
しかし、科学的には『オートマティスム』……筋肉が無意識に伸縮する現象とされている。
あるいは、参加者のうち誰かが勝手に動かしているだけだ、とも。
「鳥居に……。」
「つまり、成功のようだ。」
五十音表に書かれた鳥居マークに、十円玉は辿り着いた。【こっくりさん】の始まりである。
「じゃ、じゃあ順番に、ひとつずつ……。」
「オレから! こっくりさん、マタギ……オレの友だちが元気か教えてくれ!」
十円玉はゆっくりと動き、『はい』と書かれた丸印で止まった。
「……そんなので良かったの?」
「うん、次は誰だー?」
女児がもったいなそうに見つめつつ、意を決して質問を告げる。
「わたしは、タケルくんと結婚できますかっ!?」
「おぉ~……。」
十円玉は動かず、『はい』の位置で止まっていた。
「こ、これって『はい』でいいの?! どうなの!?」
「タケルくん好きだったんだ……意外。」
女児の決意をよそに、別の男児が質問を考える。
「将来の事かぁ……オレは大金持ちになっているか、ってのはどうだ?」
十円玉が動き出し、『いいえ』の位置で止まった。
「えっ!? 貧乏になるのか!?」
「普通という可能性もある。」
「うぅ、もう1回やらせてくれー。」
男児の頼みを聞き流しつつ、もうひとりの女児は考える。
「よし、3日後の天気は?」
十円玉が動き出し、五十音表を彷徨う。『は』『れ』という言葉を紡いだ。
「晴れ……そんなのでいいのか?」
「真実か確かめるためさ。これが合ってたら、他のも合ってるだろうさ。」
女児は、【こっくりさん】という儀式の信憑性を研究したいようだ。
他の3人は、鵜呑みにするように信じ込んでいたが。
「で、もういいか?」
「うん、満足。」
「もう1回……やりたいけど、約束だし。」
「よし、終わるか。」
4人全員の質問が終わり、今回はお開きという空気となる。
「「こっくりさん、こっくりさん。お帰りください。」」
十円玉は動き出し……。
『いいえ』で止まった。
「あ!」「しまっ。」
「えっ?」「何ッ!?」
その瞬間、4人の傍らに怪しい影が現れる。
その影は揺らめきながら、やがて人間の子どもらしい姿をとった。
《せっかくのイケニエだ。逃がす訳ないじゃん。》
その姿を見て、ひとりの女児が腰を抜かす。
「ひっ。」
《離したね、十円玉から。呪わせてもらうよ!》
子どもの影は、女児の方へ手をかざす。すると、その女児は意識を失った。
「だ、大丈夫か!?」
《お前も離したな、アウトだ!》
女児に手を貸そうとした男児も、子どもの影に呪われて意識を失う。
「オレの友達を……!」
「答えろ、お前は……【こっくりさん】なのか?」
残った男児と女児に、子どもの影は答える。
《正解、キミ達が召喚した【こっくりさん】。》
「なぜ帰らないんだ!? 帰ってれば、それで終わりだったのに!」
《だって呪いたいんだもん。ボクを便利屋と勘違いしてない?》
「呪いたい……?」
《呪って、ミームを得るんだ。キミ達には分からない事だよ。》
ふと、十円玉を支える手に違和感を覚える。
その手を見ると、虫らしきものが這っていた。女児は思わず手を払う。
……どうやら、幻覚だったようだ。虫の痕跡はどこにもない。
《ひっかかったー。罰ゲーム!》
「くっ! うっ……。」
女児も気絶し、残るは男児1人となった。
《キミはどれだけ耐えるかなぁー?》
「……全部、耐えてやる」
うごめく虫、肉食獣の牙、ついばむ鳥の群れ……。
様々な幻覚を男児に見せるが、彼は十円玉を離さない。
さすがに、【こっくりさん】と名乗る影も、彼がただの男児でないと悟ったようだった。
《……特別に諦めてあげようかな?》
「いや、勝負しろ。オレが勝ったら全員を解放し、負けたらオレを呪い殺せ。」
《ほう……面白い。乗ってあげるよ。》
男児は十円玉をポケットに入れ、【こっくりさん】を睨みつける。
「オレの名前は[服部蹴斗]。お前なんかに絶対負けない。」
《ボクはしがない【こっくりさん】。挑まれたゲームは、正々堂々やるよ。》
児童4人の命を懸けた勝負が始まる。
えー、体調壊してました。素直に週1投稿にしようか……まぁ色々考えます。
今回はゲーム形式の戦闘。故に難しくなる予感。手短に終わらせたい。