巻き込まれた男・人攫い掃討
「バカなッ!? どうやってここが……」
「兄貴ィ! こいつワープしてきませんでした!?」
【メリーさん】の能力を使って俺が転移する、シンプルな話だ。
己の人間離れを噛みしめたいが、今は【メリーさん】救出だ。
「【メリーさん】!」
「やらせるか! かかれ!」
誘拐犯が指示を出すと、棒立ちしていた仲間が動き出す。
うち1人が俺に殴りかかろうとしたので、思わず腕で庇おうとする。
「うわっ! ……あれ?」
なんともない。目を開くと……手に持っていたスマホから、鋭い爪の生えた黒い腕が伸びていた。
その腕は誘拐犯の頭を掴み、その行動を止めていた。
《……やはり。》
「呪影!?」
【呪いのビデオ】・呪影の能力。
動画を再生している画面から、自由に出入りできる。
ただし画面サイズに応じて、出せる身体が大きく異なってくる。
俺のスマホ画面では、腕を出すのがやっとだ。
「ありがたいが呪影、そいつは……。」
《……伝説使徒だ、主。【遊園地の人攫い】を手駒にして、人攫いを行っていたようだ。》
人間じゃなくて、伝説使徒!? 伝説使徒に伝説使徒を攫わせていたのか。
【遊園地の人攫い】……都市伝説というにはお粗末な存在も、伝説使徒になれるのか。
「あの腕、伝説使徒の能力か!? まさか2重契約……?」
「どうします兄貴! なんか強そうですよ!?」
誘拐犯どもが慌てている間に、【人攫い】の伝説使徒をすべて倒しておきたい。
【メリーさん】を助けるか、あるいは……見つけた!
俺はスマホ画面を振り回しながら突き進む。呪影の爪が【人攫い】どもを薙ぎ払う。
そして、誘拐犯が使っていたであろう『ノートパソコン』に辿り着く。
「おい、勝手に触るな!」
「じゃあ触るぞ。」
誘拐犯から許可もとったので、ポケットからUSBメモリを取り出し、無造作に差し込む。
このUSBメモリは自作ウイルスが仕込まれている。といっても、致命的なものではない。
ただ……差し込んだ瞬間、『とある動画』が再生されるだけだ。
《……ずいぶん広い画面だ。やっと出られる。》
【呪いのビデオ】が再生され、人影が映し出される。
そして画面の縁を掴んで、その身体を引きずり出す。
現れたのは、とても人間には見えない真っ黒なバケモノ……呪影だ。
「……さて、相手してやろう。」
「「ば、化け物!?」」
呪影は大げさに暴れつつ、【人攫い】の伝説使徒にのみ爪を振るう。
意識が反れている内に、【メリーさん】の拘束を解こう。
ちなみに、呪影があんな姿になってしまったのは俺のせいだ。
契約の際、特定の姿が想像できなかったために曖昧な身体となってしまった。
本人は気にしていないどころか、むしろ気に入っているようだが。
「ぷはっ……絶対許さない呪ってやる。」
「すまない【メリーさん】、俺が目を離したばっかりに。」
「アンタじゃなく。……あんなマヌケどもに攫われたという事実ごと、消し去ってやるわ。」
拘束が解けると、【メリーさん】は勢いよく誘拐犯の元へ飛び出す。
「私、メリー。今ね……怒ってるの。」
【メリーさん】の姿を確認し、呪影は大ぶりな攻撃をやめる。
呪影が【人攫い】を捕まえ、【メリーさん】がナイフで止めを刺す。
あるいは【メリーさん】を捕まえようとする隙に、呪影が頭を掴んで叩き伏せる。
連携を意識し、二度と捕まらないように・捕まえさせないように立ち振る舞う。
誘拐犯も、流石に苛立っている様だ。
「おい! 対伝説使徒拘束具はッ!?」
「あっちです兄貴!」
「なぜ持ってないんだ!? おいお前らも立ち上がれ!」
まだ止めをさせていない【人攫い】の伝説使徒が、ゆっくりと立ち上がる。
といってもあの2人相手なら時間稼ぎ。今のうちに俺の仕事をしよう。
俺はノートパソコンに向かう。
おそらく取引先と連絡するためのものだ。あるいは、その取引先も複数ある。
警察に通報する際、使えそうな情報を可能な限り抜き出しておこう。
まぁ、パスワードがある訳で。一筋縄では行かないことなど承知の上。
俺はスマホ用VRゴーグルを装着し、ノートパソコンに向かう。
―――これは、呪影が持つ【呪いのビデオ】の応用だ。
彼は、ビデオ再生中の機器をコントロールできる。
その能力をどう扱っているか、呪影に聞いた際……よく分かっていなかったらしい。
そこで、呪影の視覚を借りて、俺の知識で機器を操作してみたのが始まりだ。
なんと膨大な情報が手に入る。さらに入力も自在。
【呪いのビデオ】を再生した端末は、実質ハッキング状態となるのだ。
正しいパスワードなんてお手の物で、情報収集もマルチシンクで行える。
スマホを利用したVR大画面で全ての情報を表示し、不要な情報を消していけば……。
「やはり、人間も攫っていたか。」
伝説使徒専門なんて、非効率だとは思っていた。
アジトへの瞬間移動か隠し通路があるなら、人間相手でもローリスクになるのだ。
人間も攫う事で、取引相手も増やせるから収益効率が上がる。
使えそうな情報を収集し、さっさと警察に送信する。
ここの位置情報も添えたので、あとはあいつらを縛り上げるだけだ。
――――――
「ふぅ、ふぅ……。」
気絶したふりでやり過ごしていた誘拐犯の親分は、既に真後ろまで来ていた。
人攫いだけで食ってきた、今までの人生が泡と消える、その前に。
この男を……消してしまう。
「もしもし。」
男が電話をしている。その瞬間、誘拐犯の親分は鉄パイプを振り上げる。
「私、メリー。今ね、あなたの後ろの人の、後ろにいるの。」
誘拐犯の親分の首にナイフで突かれた―――いや、峰打ちだった。
「【メリーさん】、ナイス。」
「これでやっと、お片付け完了ね。」
ちょっと短くなっちゃいましたが、自分としては及第点。
徐々に質を上げられたらなと考えています。
ちなみに、しばらくは毎日投稿をノルマにやっていきます。
……できれば、可能な限り、体調と相談して……。