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巻き込まれた男・人攫いの電話

《……オタクのお子さんは預かった。》


 唐突な展開に驚きを隠せないでいたが、誘拐犯らしき男性の声は続く。


《安心しろ、お子さんは元気だ。》


 電話越しに、少女のうめき声が聞こえる。口を塞がれた【メリーさん】なのだろうか。

 ……いや、この電話は間違いなく『メリーさんの電話』から掛かってきた。

 ならば疑う余地こそ万に一つない。


「要求は何だ、いや、その子がなんなのか分かっているのか?」

《分かっているさ、警察に頼るだけ無駄だぞ。居もしない人間は攫えないからな。》


 ……伝説使徒狙いの誘拐犯、だと?

 確かに、【メリーさん】は実在の家族ではないから、血縁を証明できない。

 最悪の場合、俺の方こそ人攫いにされてしまう。警察には頼れない。


 かといって、誰が何と言えども【メリーさん】は家族だ。放ってはおけない。

 憎たらしい程に、合理的な誘拐犯だ。


《別に要求はない。最後のメッセージさ。》

「なんだと……?」

《この子は、とある筋に売り飛ばす。だから忘れろって事だ。

 探すのは勝手だが、見つかる訳がない。じゃあな。》


 そう言い捨てて、電話は切られた。

 既に思考はまとまらず、半ば放心状態だった。


《……『遊園地の人攫い』、か。》


 呪影の声を聞いて、我に返る。

 すぐ駆けだそうとしたが、どこへ行く当てもない事に気づき、立ち止まる。


「くそっ、いったい何が……なんなんだ!?」

《……伝説使徒を攫う・集めるという話なら、心当たりがある。》


 一旦俺は、呪影の言葉に耳を傾けた。


《……伝説使徒には【風の噂】という情報ネットワークがある。

 その『噂』によれば、伝説使徒を研究する組織があるとの事だ。》


 その組織なら、あるいは金を出してでも伝説使徒を集めるだろうという事。

 そして、その金目当てに伝説使徒を狙う『伝説使徒アーバント狩人ハンター』なる存在もあり得るという事。

 だが、組織の情報どころか、存在の有無まで不明。今まで気にもかけなかったようだ。


「【メリーさん】は……訳の分からない輩の、実験材料にされると。」

《……可能性の話だ。悪趣味な人間の玩具にされるほうが、マシか?》


 どちらにせよ、事態は最悪か。


 こんな時、あのアプリが完成していたらと考えてしまう。

 【メリーさんの電話】から情報を取得し、現在位置を特定するアプリ。

 現状では、喋れない【メリーさん】でも位置情報を取得できたら、助けに行くぐらいできる。

 だが、無いものねだりだ。


「せめて、【メリーさん】の口が塞がってなければ……すぐ俺のところに帰れたんだ……!」

《……。》


 おそらく、そこもお見通しだったんだろう。

 口を塞いだままにしたのは、【メリーさん】の能力を知った上でだ。

 【メリーさん】には身体能力もあるが、おそらくそれを無視できる何かがある。

 どうやって助けたらいいんだ……。


《主よ、可能性を狭めるな。》

「えっ?」


 唐突に、呪影が言葉を紡ぐ。


《……我々、伝説使徒はミームで全てが決まる。噂ひとつで能力を得る。

 「お前は出来損ないだ」と噂されたら、私は無能になってしまうかもしれない。》

「……。」

《……だから、せめて主だけは、我々の可能性を、力を信じてほしい。

 信じてくれるなら、私は主に応えよう。》


 まったく、正論である。

 あの日、常識が崩壊したと思っていたにもかかわらず、今は下らない『常識』を壊せないでいた。

 それをすれば、人間に戻れないとさえ思っていたのかもしれない。


 だが、何があろうと俺は俺だと、保証してくれる家族がいる。

 ならば、常識のひとつ壊れても構わない。


「ずっと思っていたんだ。使えたら、便利だなって。」


 俺は【メリーさん】の電話番号を入力し、スピーカーに耳を当てる。


「もしもし、聞こえるか【メリーさん】!」


――――――


 その頃、とある廃工場では。

 十ほどの男性の姿と、縛られて動けない【メリーさん】の姿があった。

 人攫いのアジトのようだ。


「―――まぁ、ざっとこんなモンだ。」

「やったぜ兄貴、大勝利!」


 親分らしい男性と、その下っ端の1人がはしゃぐ。

 他の下っ端は、ただ無言で拍手する。


「ノーリスク・ハイリターンの人攫いだぜ?

 こんなに簡単で良いのかよ。あと1ダースは出荷できる。」

「おぉ! 兄貴の下につけて、俺っち幸せです!」


 親分には人攫いの前科があった。それ故に、この仕事を任されたのかもしれない。

 実際、人攫いとして十二分に『能力を使いこなしていた』。


 ここは遊園地から程遠い、外れの廃工場である。

 攫った現場から離れすぎているため、まず捜索される心配はない。

 そして、ターゲットは伝説使徒。誰もわざわざ捜索しない。


「でも兄貴、なんで教えたりしたんです?」

「ミームのためだ。こいつらにも報酬を与えにゃならんからな。

 まぁ、確実かつ大きなミームを与える工夫だ。」


 そう言いながら、親分は無言の下っ端達を眺める。

 無反応な彼らだが、わずかに光っているように見えた。


「兄貴はやさしいなぁ。それに比べて……。

 お前の親分はマヌケにもほどがある。」


 おしゃべりな下っ端は、縛られた【メリーさん】の頭をつつく。

 怒りを露にするも、一切動く事はできない。


「(油断した……よりにもよって、こんなバカに捕まるなんて。)」


 真正面から戦おうと思えば、勝てる相手である。

 それでも捕まったのは、ひとえに遊園地に浮かれていたことが原因だろう。


 当然、それだけではない。相手が気配を消す事に長けていた。

 一瞬、気の休まりきった隙を的確に突いて捕縛した『能力』。それに負けたのだ。


「(あぁ、伝説使徒が攫われるなんて、マヌケなのは図星よね。)」


 脱出を試みたが、この拘束は対伝説使徒用のものらしい。

 力技も小細工も通用しない。縛られているがお手上げ状態だ。


「……ん、電話だ。」

「取引先からで?」

「いや、マヌケな契約者からだ。ほれ、声ぐらい聞かせてやる。」


 電話を向けられ、声を出そうとする【メリーさん】だが、うめき声にしかならない。

 そのまま電話から、声が聞こえてくる。


《もしもし、聞こえるか【メリーさん】!》



《俺は今……お前の傍にいる!》


――――――


 一瞬、意識が朦朧とする。そして気が付くと、俺は古ぼけた工場の中にいた。

 豆鉄砲でも喰らったようなマヌケ面を拝み、【メリーさん】の姿を確認して。


「実験……成功だ。」

次回こそ戦闘回です。やっとだよ。

カテゴリ詐欺にならないといいんですけど。

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