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巻き込まれた男・新たな家族

「買い物お疲れと言いたいが、さっそく仕事だ。」

「見れば分かるわよ。まったく、人使いの荒いマスター。」


 振り返ると、買い物を終えた【メリーさん】が、白い服の女性と刃を交えていた。

 白い服の女性は、さっと飛び退いて距離を取る。


 ―――契約の履行

 俺は、存在しないはずの【メリーさん】の電話番号を知っている。

 それにより【メリーさん】へ電話が可能なのだ。

 応用すれば、このように瞬時にメリーさんを召喚できる。


 【メリーさん】が来てくれた事で、より冷静に状況を分析できる。

 俺の記憶では、【呪いのビデオ】の効果は『視聴した7日後』だったはず。

 視聴してすぐ現れるものだろうか? 【メリーさん】に尋ねてみた。


「伝説使徒はミームを維持するために必死よ。多少は自力で、ミームを書き換えようとするの。

 『彼』だって色々苦労しているのよ。」

「だからって襲われる身にも……『彼』?」


 改めて見ると、【呪いのビデオ】から現れた白い服の人間が震えだす。


「……あぁ。私とて、生きるためには、どんな手でも使おう。」


 野太い声が、部屋に響いた。


「お前、……まさか。」

「……そうだ、 男 だ よ ! 」


 冷静になった今、『彼』を観察する。

 確かに髪も長く、女性のような衣服を着ているが……身体つきが男だ。


「……お前達 人間のせいで、【呪いのビデオ】と言えば、貞子になってしまった。

 ……そのせいで何をやっても【貞子】のミームが強くなるばかり……。」


 なるほど。伝説使徒はミームを維持するために人間を襲う。

 だが、『襲えば自分を維持できる』とは限らないのか。

 おそらく様々な種類の【呪いのビデオ】があったんだろうが、それが全部【貞子】の手柄になる。

 エサを横取りされ続けているようなものだ。いずれ餓死し、【貞子】だけが【呪いのビデオ】となる。


「……ならば、私も【貞子】として生きるしかない!

 こうやって、カツラもつけて!」

「―――すーっごい、分かるんですけど!」


 何故か、【メリーさん】が身体を乗り出した。


「私、契約するまでは清楚な女子高生を目指してたのよ。それが今は?!

 どう見ても女児! あいつ、あぁ見えてロリコンよ!」

「……なんと。契約に、そのような弊害があったとは……。」

「人間って本当に、自分勝手にミームを書き換えて!

 きっとさっきも、脳内では『はじめてのおつかい』を妄想していたに違いないわ!」


 ……気が付くと、2人は座り込んで愚痴を言い合い始めた。

 邪魔をする訳にもいかないので、俺は【メリーさん】が買ってくれた物を拾い、台所へ向かう。

 2人の会話をBGMに、慣れた手つきで夕食を作る。作り置き分……と言いたいが、これも無くなるかね。


「おぉい、飯ができたぞー。」


 そう声を掛けた頃には、すっかり意気投合していた。


「あ、はーい。盛り付け手伝うねー。」

「……そうか、ん?」


 食卓に料理を3人分並べると、俺達はいただきますの合図で食べ始めた。……1人を除いて。


「……何を、しているんだ?」

「何って、夕食だよ。」


 【呪いのビデオ】からの質問に、俺は当たり前のように返す。


「アンタも食べなさいよ。せっかく来たんだし。」

「……俺は、お前達を襲おうとしたんだぞ?」


 そういう【呪いのビデオ】が言うので、俺は一旦箸を置く。


「【メリーさん】。こいつ、倒せるか?」

「えっ……。」


 少し迷う素振りを見せたが、【メリーさん】は小さく首を振った。


「だとさ。じゃあ無理だ。」


 俺は再び、箸を進めた。


「……何故?」

「【メリーさん】には倒せない。当然、俺にも倒せない。

 誰にも倒せない以上、こうするしかないだろう。食うか、襲うか。自由にしろよ。」


 そう【呪いのビデオ】に伝えて、俺は飯を掻きこむ。

 【メリーさん】も安心したのか、箸の進みが早くなった。


「……俺は、食事ができない伝説使徒だ。だから、要らない。」

「へぇ、低燃費だな。そっちの方がいいな。」

「……いや、食事ができる伝説使徒の方が、保持できるエネルギーが高い。」


 【呪いのビデオ】曰く、自分は『己のミームを消費して活動する』。

 食事するタイプは、『ミームだけでなく、物理エネルギーを消費して活動できる』。

 ミームを消費、という概念が今ひとつ理解できないが、なんとなく理解した。


 【メリーさん】のような伝説使徒は、転移する際に大きなエネルギーを消費している。

 なんせ、自分が買ってきた食材なんかも転送できるのだから。

 そのエネルギーの出所は、情報として格納された食べ物……という訳だ。


 こいつらと付き合い慣れた俺としては、「興味深い」とさえ思えた。

 【メリーさん】の食事シーンをなんとなく見ていたが、俺達とは異なる現象が中で起きているんだ。


 余分に盛ってしまった食事を食べつつ、色々考え込んでしまう。

 伝説使徒は情報の塊であり、他の物質さえも情報化できる。

 ならば、機械と組み合わせると、どのような事ができるだろうか……。


「あ、マスター。また食べながら考えてる。」

「……いつも、こうなのか?」

「うん。仕事の事とかばっか考えて、あまり喋ってくれないの。」


 などという会話を聞き流しつつ、ごちそうさまをして食器を片付ける。


「えっと、申し訳ないが死んでやれない。元のレンタル屋に帰ってくれ。」

「……いや、こちらこそ済まない……こんな事は初めてだ。」


 だろうな。だが、慣れてしまったものは仕方がないのだ。

 こいつらだって、俺達のように生きている。

 よほど害意がない限り、無暗な殺生は避けたい。


「じゃあ、縁があったらまたね。」

「……あぁ、うっ!?」


 【呪いのビデオ】が、急に頭を抱えだした。

 俺も【メリーさん】も支えようとするが、振り払われる。


「逃げ、……我が名は貞子。汝らを呪うものなり。」

「は?」


 冗談だろ、と言いかけた時、【メリーさん】に突き飛ばされる。

 【呪いのビデオ】は、俺のいた場所に鋭い爪を振るっていた。


「……冗談だろ?」

「ミームが書き換わったわ。もうアイツは【貞子】なのよ。

 契約をしていない伝説使徒だもの。こうなるって……分かり切ってたのに……。」


 【メリーさん】が抜刀し、対峙する。

 ……科学とか、常識とかでなく、信じられない。これほど簡単に、伝説使徒は『死ぬ』のか?

 こんなの、あんまりじゃないか。ミームが書き換わっただけで……。


―――人間って本当に、自分勝手にミームを書き換えて―――


「そうだ……。」


 思わず、俺は【貞子】を名乗るものに体当たりした。不意打ちだったのか、奴は転倒した。


「ちょっと?!」

「【メリーさん】は足を抑えていてくれ!」


 もがくソイツに向けて、俺は語り掛ける。


「おい! 俺はお前の本当の姿なんて知らない。だが、俺は知っている!

 生きるために必死だった事、そのために変装までした事、……なのに俺を殺さなかった事!

 お前、本当は優しいんだろ! お前だって、無意味な殺生はしたくないんだ!」


 【呪いのビデオ】が、本当にそうだったのか……それは、願望でしかない。

 だが、俺は人間だ。自分勝手に行かせてもらう。


「お前が、お前のままで居たいなら……俺と契約しろォ!」



――――――



 気が付くと、【メリーさん】が俺の顔を覗き込んでいた。


「お、よう。俺は……。」

「バカッ! 心配したんだからね!」


 グッと絞められる俺。ちょっと苦しい。

 えっと、確か【呪いのビデオ】が襲い掛かってきて……。


「そうだ、アイツは?」

「……ここだ。」


 TV画面を見ると、ノイズと共に謎の影が映っていた。

 井戸でもなければ、白い服の女性でもない。だが、たぶん本当の姿ですらない。


「えっと……失敗だったか?」

「……いや、成功なんだろう。お望み通り、私は私の人格を維持できた。

 もう、誰も襲う必要はない……。」


 それは良かった。と安堵するも、【メリーさん】に背中を殴られる。


「なんの許可もなく、2体目の伝説使徒と契約するなんて!

 もしも脳がパンクしたら、どうする気だったの!?」

「あ~……すまない、無我夢中だった。」

「ほんっとうに……心配したんだから……。」


 ……この時まで、俺は全く気付いていなかった。

 【メリーさん】は、俺にとって家族と言える存在になっていた事に。

 人間だとか、伝説使徒だとかの垣根は、そこに無かったんだ。


 そして今日、もうひとり家族が増える。


「無茶をしたが、すまない。これから宜しくな、【呪いのビデオ】。」

「ねぇ、それなら名前が必要じゃない?」


 それもそうだな、と数秒考え、パッと出てきたのは。


「じゃあ、[ビデ男]だ。」

「「……えぇ……。」」


 ……引かれてしまったので、名前はまた考えるとしよう。

 しかし、【呪いのビデオ】……いざ仲間になると思うと、少し気になる点があるんだ。

 これは、研究しがいがあるぞ。


「あ、マスターが仕事顔。」

「……何故だ、悪寒がする。」

ちょっとお気に入りの話。

ここからバトルものになるまで、しばしお待ちを。

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