表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

蹴斗とこっくりさん・質問

「おはよー。」

「「 おはよー。 」」


 あの一件から翌日、[服部はっとり蹴斗シュウト]ら4人は無事に登校していた。


「な……なんだったんだろうな?」

「ヘンな夢だったのよ、きっと。」


 男児と女児が首を傾げつつ、昨日を振り返る。


 昨日は、気が付くと何事もなかったように時が過ぎていた。

 【こっくりさん】なんて本当にやったのかさえ、記憶もあやふや。

 最終的に、この件は4人の秘密にしようという事で落ち着いた。


 というのは、表向きの話で。


 蹴斗は帰ってすぐに異変に気付いた。そう、【こっくりさん】に再会したのだ。


「(どういう事なんだ、いったい。)」

「どうもこうも、契約したから。ボクは一生、キミのしもべだよ。」


 蹴斗にとっては、ほぼ無意識の出来事だったのだが。

 契約する旨を伝えてしまった結果、【こっくりさん】が消えずについてきてしまった。

 幸いな事に、今のところ悪影響はないが……。


「(ヘンな事、企んでないよな? クラスメイトを呪おうとしたらぶっ飛ばすぞ。)」

「あるじさまの命令なら、しないよー。」


 気楽そうな回答に、若干心配になりつつ。

 しかし、それ以上に気になる言葉を聞いてしまう。


「なぁ、聞いたか? 裏山のモノノケ出たんだって。」

「柊が休んでる理由だろ、聞いたよ~。」


 蹴斗がそちらを振り向き、とっさに尋ねる。


「どういう話だ?」

「ん? 裏山に、ヘンな生き物が出るんだって噂。」

「柊が、それを確かめるために行ったんだけど、ケガして帰ってきたんだと~。」


 蹴斗を含め、4人がゾッとした。

 あの【こっくりさん】の体験。謎の少年に襲われた感覚。

 クラスメイトの柊も、似たような体験をしたのだろうか。

 あの恐怖を味わったのか。


「だから、柊は今日休みだって。」

「おばさんが言うには、すごく怯えてたらしいよ~。」

「……ありがとう。じゃあまた。」


 噂する2人は、へらへらと語る。

 居もしない化け物を、何かと見間違えた程度だと思っているかもしれない。

 そんな2人にやり場のない怒りを抱えつつ、蹴斗は去った。


 ―――ひと気のない場所に行くと、蹴斗がひとり呟く。


「なぁ【こっくりさん】、心当たりはないか?」

「ないよー。知りたいなら、調べたらいいじゃん。」


 蹴斗の言葉に【こっくりさん】が答える。


「どうやって? 聞き込みでもするのか?」

「ボクを誰だと思っているのさ。五十音表と十円玉を出して。」


 それを聞き、蹴斗は察する。昨日使った五十音表を床に広げ、十円玉を置く。


「こっくりさん、こっくりさん……柊を襲ったのは伝説使徒ってやつか?」


 蹴斗が尋ねると十円玉はゆっくりと動き、「はい」で止まる。


「知ってたんじゃないか。」

「知ったんだよ、ボクの能力で。

 この儀式を行っている間、ボクはあらゆる質問に答えられる。」

「じゃあ、どんなやつかも教えろ。」


 蹴斗が尋ねると十円玉はゆっくりと動き、「?」で止まる。


「……ごめん、伝説使徒には鉄の掟があって。

 秘匿性……互いの秘密を簡単に見抜けないようになっているんだ。」

「くっそ、面倒だな……。」

「もっと情報があったら、特定できるんだけどね。」


 情報……蹴斗が頭を捻る。

 柊を襲ったのは伝説使徒というのは事実だ。

 他に情報といえば……ケガか?


「柊のケガは、伝説使徒がつくったのか?」

「おっ、いいセンスだ。」


 十円玉はゆっくりと動き、「はい」で止まる。


「柊のケガは? どんなケガだ?」


 十円玉は「き」「り」「き」「ず」という単語を紡ぐ。


「切り傷……切られたのか……。」

「鋭い爪で引っかかれたのかもしれないね。」


 蹴斗は理解した。

 簡単な噂や情報を集め、【こっくりさん】への質問を作る。

 【こっくりさん】の答えをもとに、情報を整理する。そして質問を繰り返す。

 最後に、真相である伝説使徒に辿り着く。


 まだ慣れないが、質問を繰り返して情報を整理してみたところ。


1.柊は脚に切り傷を負った。

2.それ以外の外傷はなかった。

3.出血はないが、切り傷は塞がりそうにない。


 調べるほどに、伝説使徒というものが怖くなっていく。

 自分の脚に、もしも塞がらない傷ができたらどうだろうか。

 大好きなサッカーを続けられるだろうか。

 そんな一生を変える傷を負って、柊はどんな状態だろうか。


「……気持ちは分かるけど、手詰まりだよ。もっと情報がないと分からない。」

「いや、これが最後の質問だ。」


 ここまでの情報で、蹴斗には心当たりがあった。

 あとはこの質問ではっきりするはず。


「柊は伝説使徒を見た瞬間、怖がったか?」


 十円玉はゆっくりと動き、「いいえ」で止まる。


「なんで……?」


 【こっくりさん】は疑問に思う。

 刃物を持った、あるいは鋭利な爪を持つ化け物を見たら驚くはずだ。

 学校を休むほど恐怖したなら、なおのことである。


「当たり前だ、あそこではよく見るんだ。イタチ。」


 祖父の言葉を思い出す。

 裏山のイタチは利口で、人を避ける。稀に人懐っこいものもいる。

 けれど、決していじめてはならない。一生ものの傷を負う事になると。




「柊を襲ったのは、【鎌鼬】だ。」




 十円玉はゆっくりと動き、「はい」で止まった。

病気で参ってましたが、ボチボチ復活します。


こっくりさんみたいなものは便利すぎるので弱体化という本音を隠しつつ、伝説使徒には自らのプライバシーを秘匿する能力があります。

犯罪に利用すると、直接見たはずなのに顔や名前を思い出せない……という記憶にモヤがかかったような完全犯罪状態に。

しかし伝説使徒や契約者なら、秘匿性を無効化したり抜け穴を探す事ができる、といった感じです。


なお、逆に自分の存在を周知させる拡散性も持っています。今回なら、柊君の話を学校中が知っているのは伝説使徒の拡散性によるものです。

ただ、拡散しすぎると駆逐される恐れもあるため、適度にホラ話のように認識させる必要がある訳で。

伝説使徒は「拡散性」と「秘匿性」を使い分けてミームを保っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ