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七日前に死ぬ君へ  作者: オルテンシア
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彼女は後退する

過去の恋に囚われて新たな恋を見いだせない十代の女子高生

恋人を作る気はあるのに好きな人ができないと悩む少年少女

恋愛に興味はないんだけどなんか泣きたい男子高校生に読んで欲しい小説です

 序幕 『神様はいつだって気まぐれ』


 ニュースで起きた殺人事件がまさか自分の周りで起こるなんて、この世を生きる八割の学生は考えもしないだろう。

 寝れば明日にログインができて、五日間連続ログインができれば二日間のログインボーナスがもらえる。

 そうしてまた次の時へ進む。時間は止まらない。一分一秒を楽しもうと日々人は苦悩する。


 これは別に私が作ったルールじゃない。

 この世がより効率よく機能するために人間が少ない知恵を振り絞って考えた結果だ。

 無限の可能性を売りにしている生物は、未来を見ることでその機能を最大限に生かそうと考えた。

 そして、その結果は上々。前に向かって歩く快楽を覚えた人間は後ろに歩くことを忘れてしまった。

 世界の技術はまさに日進月歩。人はひたすらに前へ進む。その先に何があるかも知らずに。



 _______では一つ、気まぐれに思いついたことだが、人に後ろに歩く快楽を教えたらどうなるのだろうか?



 前に進むように、未来を目指すようにプログラムされた人形に過去に戻るチャンスを与えたら。

 絶対的に不変なはずの過去に、未来以上の希望を見せたら。


『その可能性、ちょいと気になるかもなぁ。』


 カラカラと乾いた笑みが唇からこぼれ落ちる。

 真っ白な肌に長い黒髪。淡い色調の着物に身を包んだ女。平成の世に余りにもなじまない格好の私を、しかし誰も気に止めなかった。

 私は神社の縁側にヒョイと腰をかける。

 気づいていないのか、それとも見えていないのか。周りの人々はこの罰当たりな行動を気にもしていなかった。


 ストーリーを定める。主人公を決め、その子に余りにも過酷なな運命を与える。

 私がすることはそれだけ。あとは視聴者に転ずる。いつもと同じだ。


『それでは一つ、皆様に不思議な話を致しましょう』

 周囲の参拝客をぐるりと見回したあと、私は呟いた。

 誰に向けるわけでもなく。ただそっと虚空に添えるかのように。




 壱章 『根源』


 天気って空気が読めないんだなと昔から思っていた。こうも綺麗に土砂降りになるとは。

 今日の予報は降水確率20パーセントの晴天。土砂降りとは無縁の天気のはずだ。

 月日は8月3日。夏休みの真っ只中にも関わらず、公園に人気はななかった。

 それもその筈。こんな湿気がひどく蒸し暑い日は、小学生でも室内でゲームを楽しむのが普通だろう。

 昔からうっすらと思ってはいたが、私は相当な雨女なのかもしれない。


 時刻は9時45分、約束の時間まであと15分。

 電車の時間上どうしても早くつくのは避けられなかった。私が待つ彼はこんな些細なことにも責任を感じる人なのだ。

 時間ぴったりに彼は来る。だから私はいつも3分遅れで待ち合わせ場所に現れるようにしていた。

 そうすると彼は嬉しそうにこちらに手を振ってくれる。気を使わせずに済む。

 待ち合わせ時間の設定をしたのは私だ。今日は彼に悪いことをしてしまったな、とつくずく思う。


『まぁ、たまにはいっか』

 私は開き直って花壇を見て回ることにした。



 例に習って雨の日の花壇は人が少なく、座れないこと以外はそんなに悪いものではなかった。

 綺麗に手入れされた花壇に色とりどりの花が咲いている。

 池の周りは向日葵で綺麗に枠取りされていて、池に反射する景色が雨で歪んでいた。

 晴れの日の花壇も素敵だが、雨の日に見る花も悪くないものだな。


 花壇を見始めて五分くらいたった問のことだった。

『_______ッッァァア!』


 どこか遠くの方で悲鳴が聞こえた。方角と音の大きさから考えて近くの神社から聞こえたような気がする。

 取るに足らない。日常的に奇声のひとつやふたつはそんなに珍しくはないと思う。

 しかし、今日に限ってはそこで起きている出来事が非常に気になる。

 何を隠そう、このあと合流する待ち人ととその神社を参拝する予定だったのだ。

 降り注ぐ雨と妙に静かな公園が不穏な空気を滲みだし、私の不安を誘う。

 参拝をやめるべきだろうか。様子を見に行くべきだろうか。非常に行動に迷った。


『悩ましい様子だな。神社でお祈りすることでも考えてたのか?』


 後ろからいきなり聞こえる彼の声に思わず方がびくりと肩が動く。

 時刻は午前十時。色々と考えてるうちに待ち合わせの時間になっていたようだった。


『ううん、何でもない。ごめん、早く着きすぎちゃった。』

『待たせる男に問題ありだな。次回はもう少し配慮するよ。』


 私は悲鳴の話を伝えなかった。きっとたいしたことない。

 大丈夫だろうと思ってしまったのだ。彼の笑顔が余りにも優しかったから。


『生憎の雨だね。少し歩きにくいかもだけど、神社に向かうとしようか。』


 私はこの時止めるべきだったのだろう。 

 もしここで神社に行かないように話していたら。もしここで彼にこれを伝えられたのなら。きっと私は。


 彼を殺さずに済んだのだから。











ご愛読ありがとうございました。

まだまだ手探りではありますが、基本2話ごと、出来次第投稿の形になります。

Twitterとかいう素晴らしいSNSも始めたので、ぜひそちらもチェックしてみてください!


ちなみに私、理系です


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