⑧
翌日、日曜日。漫画喫茶生活のおかげで、懐が寒いのでカフェなどではなく自然公園で待ち合わせて話すことにしてもらった。外も寒いけれど、背に腹は変えられない。
これから会う人は、一般的には信じられないようなオカルト的な話に食いついてきた上に実際に会おう、と誘ってくるぐらいだから、あのような人ではなく、いわゆるアクティブ系のオタクなんだろうな。
たまたま居合わせたスマホをいじっている爽やかそうな同年代くらいの少年を前にして、ふと思う。
と、その少年が顔を上げ、生川の存在を確認すると、駆け寄ってきた。
「すみません、このアカウントの方ですか?」
爽やかそうな少年は一昨日つくられたアカウントの画面を表示しながら問う。
「あ、はい。そうです」
「俺は矢代という者ですが……」
「ダイレクトメールを送ってくれた方ですか?」
「はい! 俺の要望に応えてくれてありがとうございます。早速聞かせていただいても? ……ん、俺の顔になんかついています?」
ついさっき、見かけた瞬間に『絶対違うな』と直感した人が矢代であったがために驚きを隠せなかった。
「ついてないです、ごめんなさい。それで、その、一つ質問してもいいですか?」
「何でしょう?」
「そもそもなんでこんなオカルト的な話を信じようとして、わざわざ接触してきたのですか?」
「ん~~」
いきなり返答に窮してしまったようだ。
それからやや気乗りしない感じで提案する。
「実際にミて貰う方が早くて分かりやすいのですが、いいですか?」
「見る?」
「ええ」
頷いた矢代はワッフルコートのポケットから御札らしきものを取り出し、短く経を唱えてから生川の着ているブレザーに貼りつけた。
「……ッ」
突然、半透明の老夫婦が視界に浮かび上がった。二人は、お父さんらしき青年とあちこち駆け回る幼児を温かな目で見つめている。
「なんっっっだこれ⁉」
「端的に説明すると、普通の人でも幽霊が見えるように霊感を思いっきり強くする術をかけました」
「術⁉ ……え、えっ?」
「これで信じてくれましたか? 我が校のアクション同好会は――俺以外にも何人かいるのですが――今あなたに付与したような、いわゆる異能を用いて、いわゆる悪霊退治を行っているのです。同好会、という名前はいわゆる表向きのものなんですよ」
「えっ…………これなんてアニメ?」
衝撃のあまり、トンチンカンな本音が飛び出してしまった。
現実では絶対にありえないことだと思っていたけれど、目に見えて実感してしまった以上は信じるしかない。どうやらこの世界では物語のようなことが実際に起きているらしい。
「ということは……ここ三、四日間の変な状況を打開できるのですか?」
「そうするつもりですよ」
「分かりました。うまくできる自信はありませんが、話します」
生川は一から説明した。月曜日に二ヶ月ぶりに登校したこと。木曜日、二年四組の皆が蘇っていて、周囲は何も疑問を覚えず事故なんてなかったような雰囲気であったこと。家に帰ったらドッペルゲンガーに遭ったこと。それから今日まで漫画喫茶で生活していること。ついでに、そのせいでお金がなくなりそうであること。学校に無関係な人は生川と同じ認識であったこと。ちなみに矢代も同じく『大事故』と認識していた。
「――とまあ、こんな感じです」
「なるほどね」
その後、二人で話を詰めていき、明日の放課後に生川の高校へ来ることになった。そんな簡単に外部の人間が入れるものなのか尋ねてみたら、ツテでなんとかなるとのこと。
さらに、今晩は矢代の家に泊めてもらうことになった。彼はワケアリで一人暮らししているらしく、迷惑ではないと主張していたので、お言葉に甘えることにした。