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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第三章
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九十五話 闇属性魔法教室:実践編

影刃シャッテンクリンゲ


 ロイの期待は最大値まで膨らんでいた。

 だがそれに見合った出来事はいまだに起こらない。

 徐々に期待が萎んでいく。

 レノーレはいたって真剣な表情ではあるので、何かしらあるはずだが。

 耐え切れずに口を開く。


「なにしてんの?」

「……」


 レノーレは両手を腰に当て、ロイを見る。

 何かを語りかけてくるような目だったが、ロイには通じず、仕方なく説明する。


「これはな、闇属性だ」

「知ってる」

「……だからな、目には見えない攻撃なんだ。こっちにも非はあるのかもしれないな」

「見えない攻撃か、なるほど」


 見えない攻撃には二種類ある。

 死角からの攻撃と、実体がない攻撃だ。

 今回のそれは後者が当てはまるはずだ。

 レノーレに似た立ち位置でも全くわからなかった。

 それは死角からではないということを証明するのに十分な理由だ。

 習得できたとすれば、かなり重宝するだろう。

 問題は覚えられるかどうかだ。


「コツみたいなのはあるのか?」


 何事も重要な部分がある。

 それさえ掴んでしまえれば、他にも応用が利く。


「う~ん、コツかぁ。特にない。センスと努力だ」

「どっちもない俺はどうすればいいんだ?」

「安心しろ」


 にっと笑って指をさす。

 刺したのはザミーラ。


「そのためにこいつを連れてきた」


 大丈夫か、指されたほうもびっくりしてるけど。


「まだなにするかきーてないんだけどー?聞いてる~?」

「こいつと戦え、簡単だろ?」

「いや他人事みたいに言うな!」


 ええ、リーナより少し大きいぐらいであとはあんまり変わりがないような気がするがどうなんだろう。


「ロイ、あんましこいつを見縊んなよ」

「戦って勝てばいいんだろ?」

「違う。影刃シャッテンクリンゲを使って、尚且つ勝つんだ。そうしないと意味がない」

「わかった」


 影刃シャッテンクリンゲで止めを刺さなくても、使えすればいい。


「じゃあとは頼んだぞ、ザミーラ」

「丸投げだけど、まあ、いいか」

「ロイ、忠告はいるか?」

「いらねぇ」


 どうせコツもないし自分の感覚でやるしかない。


「そうか、じゃ、始め!」


 号令とともに、向き合っている二人は戦闘態勢に入った。

 先に仕掛けたのはロイだった。

 先手必勝と言わんばかりに背負っている銃を構え、挨拶代わりに放つ。

 得意属性の一つである赤い魔法陣が浮かび上がり、赤色の弾が発射される。


「あんたホントいろんなとこで戦ってるわね」


 クロエは呆れ半分に言う。


「どういう流れかそうなることが多いな」

「ほら喋ってないで前」

「うおっ!?」


 ザミーラは弾を避け、その挙動を利用してそのまま距離を詰めていた。

 その速さたるや今まで経験したことないほどのものだった。

 もう目の前だ。

 懐からソードブレイカーを出して……ない?

 と思ったが折れているのを完全に頭から抜けていた。

 これでは近接戦をする術がない。

 所謂詰みだ。

 もうロイに小さき刃が牙を剥いている。

 ザミーラ愛用のナイフだ。

 細身の、店で売っている包丁やナイフよりもさらに細い剣身である。

 短いレイピアとも形容できようか。

 それが真っすぐロイへと向かっていた。

 ソードブレイカーのない状態では受け止めることも受け殴すこともできない。

 銃をもってすればできるかもしれないがロイの技術量を鑑みるにできそうにない。

 結果道具を使わずに躱すことになる。

 だが案の定ザミーラの速さを超えられない。

 腕をナイフが掠める。


「だから忠告いるかって聞いたろ?」

「ってぇぇぇええ!!忠告くれ!」


 やれやれと頭を振って忠告をする。


「ザミーラアタシが見た中で一番速い」

「知ってるよ!肌身で体験したばっかだ!」


 今年一番どうでもいい情報に違いなかった。

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