九十四話 闇属性魔法教室
ここディオーレは、富裕層や貴重な石を売れる抗夫が多い。
そのためそれを狙うごろつきやこそどろも多くなる。
一例が目の前にある。
つい先日まで本業にしていたレノーレと、もしかすると現在進行形の可能性もあるザミーラだ。
しかしそれが今や俺に魔法を教える立場になっているもんだから不思議だ。
「いいか、じゃまず……なにする?」
教えるた経験がないため、どう教えればいいかすらわからない。
ロイは依然通っていた魔法学校でやっていたことを思い出す。
「やっぱ見本があるとやりやすいかな。学校でもそうしてたし」
「が、がっこうっ……!」
「え、これホント……?」
レノーレとザミーラは驚きを隠せないでいた。
学校は中流階級でも上位しか行けないほどのものであった。
子供はみな労働力として見られ、普通は家で手伝いをするのが一般的だ。
ロイのような人は実はかなり少ないのがこの世界の現状であった。
それを知らないロイは平然と言った。
当たり前であると思っていたからだ。
「あんたけっこういいとこの出だったんだ」
「そうか?」
「ああ、オドロキだ。見てりゃ全然わかんなかったけどな」
「ま、中身はちゃんとしてるからな」
ロイは自慢げに言ったが、周囲の誰一人として尊敬の眼差しを送ることなく、逆にじぃー、と疑いの目で見ている。
いやいや、そこまでじゃないでしょ?ちょっとはある……思うんだけどなぁ。
「見本を見せる前にそっちの実力を知っとかなきゃな」
「知ってるだろ?そっちより強い」
「ははぁん、喧嘩するか?」
「やめておきます。すみませんでした」
威圧怖すぎでしょ……
後ずさりするまである。
「闇属性がどんなやつ使えるかって意味だ。さ、やってみろ」
「そんじゃまあ、透明なる殺人者」
唱えると、ロイの姿が跡形もなく消える。
一同は感嘆の声を上げる。
「おお、こいつはすげぇな」
「レノーレもこういう実用的なもん使えるようになれれば楽に稼げるのに」
今ザミーラなんかおかしなこと言わなかったか?
と思ったあたりで、徐々に魔法の効果が解け始めた。
足からゆっくりと姿を現し、最終的にはまたもとに戻ってしまった。
「え、そんだけ?」
拍子抜けだ的ニュアンスを含ませていることがひしひしと感じる。
「そうだ。悪かったな、数秒で」
「これじゃあ役には立たねぇな」
「それが立ったんだぜ?」
「マジか!?相手もバカだなぁ……」
一回目のファニクスと戦ったときは状況がかなり異質だったから一概にそうはいえない。
ただたまたま異質だったから役に立ったのには変わりはない。
使える時間が長くなるのに反対はないし、むしろそうしたい。
「他は?」
「……終わりだ」
「え?」
「終わり」
これが唯一使える闇属性の魔法だ。
ダメ元で使った冥府の監獄は結局発動しなかった。
闇属性の魔法なんて習ってないし当然だろ。
「はぁ、こりゃ教えがいがありそうだ」
額に手を当て頭を悩ますレノーレ。
何からしようか考えているのだろうか。
「……よし、まず最初に覚えてもらう魔法だが」
「おっ!」
ロイは身を乗り出して聞き入る。
「影刃だ。闇属性の魔法の中でも簡単な分類……のはずだ。アタシはそう思う」
「じゃあそれをもできるようにするんだな?」
「今日中にな」
「無理だろ!」
魔法は一日やそこらで習得できるはずがない。
ましてや魔法を苦手中の苦手とする俺のことだ。
「ロイさん、アリアスさんを救うのでは?」
ラーシャがささやいた。
確かにそうだ。
見た目によらず人を操るのが上手い。
「わかった、やろう。見せてくれ」
「瞬きすんなよ」
レノーレは大きく息を吸い込んだ。




