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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第三章
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九十二話 特別訓練

「ロイさん大丈夫ですか?」

「これおかしいだろ……?」


 慣れないどころかトラウマになり、回数を追うごとに嫌になる。

 心なしか操縦も乱暴になっている気がする。

 ディオーレに着いて隠れ家の中を歩いていく。


「とにかくまずはクラインさんに会いましょう」

「立て続けに嫌なことが起こるな……厄日だ」


 青い顔がますます青くなる。


「私からも言いますから大丈夫ですよ」

「頼むぜ……」


 ラーシャの存在は命綱まである。

 そうこう言っている間にクラインの部屋の前だ。

 ガチャっとラーシャは扉を開けた。

 奥にはクラインが何やら書類に書き込んでいる。


「おう、連れてきたか、命令違反野郎を」


 静かに怒るクラインはまた別の怖さがあった。


「え、ええ、ですがそれより問題が」


 さすがだ、すぐに話を変える。


「アリアスさんがさらわれました」

「……そうか。どこに?」

「おそらく帝国だと」

「……ふぅ」


 また難題持ち込んできやがったな感が否めない。

 少し間を空けて、クラインは口を開いた。


「ロイお前は助けたいだろうな。気持ちはわかる……こういうときの規約はなんだったかなぁ……」


 ごそごそと机の側面にある引き出しを漁る。

 勢いよく引いてはまた押して元ある位置に戻す。

 頭を悩ましているようだ。

 沈黙が重い。

 こくこくと時計の音だけが響く。


「なにしてんだ?」


 ロイはそう尋ねた。

 クラインは曇った顔で答えた。


「あいつ助けるために今規約載ってる本探してんだ。見つけて方法が分かったらおまえらに言うからそれまでどっかほっつき歩いてろ」


三人の背中を強引に押す。


「お、おい、ちょっと」

「さっ、もう行け!」


 そして部屋から追い出されてしまった。

 どたんっと勢いよくドアを閉めた。


「ひでえな、まったく」

「それもクラインさんなりの優しさではないでしょうか?」

「そうか?ただ仕事の邪魔だったとしか思えないけど」

「まあ、それもないとは言い切れないかもしれません」


 わりと素直に肯定するんだな。

 意地でも自分の言ったことを通すと思ったけど、かなり人の意見も取り入れていくタイプの人か。

 将来大成しそう。


「さて、これからどうしますか?」


 ラーシャは二人に聞いた。


「……ロイ様といる……」


 セシリアはぎゅっとロイの腕に抱き着く。

 そのときに腕に柔らかい感触があった。

 包み込むように両サイドから触れるそれは暖かく、癒されるの一言だ。

 アリアスがいたら文句を言われ堪能できないと考えると感慨深い。

 鬼の居ぬ間になんとやら……

 そろそろかという頃合いでロイは答えた。


「俺はもう決まってんだ」


 姉妹は首を傾げる。

 ここにきてまだ三人はひと時も離れていない。

 誰かと会って約束もしていないのに決まっているのはおかしいのは確かだ。


「何するんですか?」

「それはなぁ、俺強くなる!」


 ぽかんとした顔でロイを見る。


「ど、どういうことでしょう?」

「まあ、つまりだな。助けに行くためには敵と戦うのは避けられないだろ。だからそのために力をつけないとな」


 きっと自分に力があればアリアスを守れただろう。

 今度こそは何があっても助けなければならない。

 成功率がちょっとでも上がるのであれば、どんな苦労も惜しまない覚悟だ。


「しかしお一人でなさるんですか?」

「いや、実はな……」


 とロイは二人の間を射抜くように指した。

 振り返るとそこには一人、ぼさぼさの頭を掻いて、いかにも寝起きの人がいた。


「彼女は?」


 ラーシャは問うと、答えたのはロイでなく、セシリアだった。


「レノーレ……」

「あら、セシリアお知り合いの方ですか?」

「……戦った……」

「ええっ!そんな人がどうして!?」


 説明不足を補うようロイは付け足した。


「今はなんやかんやで味方になってるから」

「そうなんですか。安心しました。でもいつの間に戦っていたんですか?」

「あー、それはだな……」

「ふふ、……秘密……」


 いたずら笑顔でセシリアは言った。

 初め会ったころでは想像もできなかった。

 話すことすら気まずかったが、今ではすっかり打ち解けている。

 これもまた成長というものだ。


「お~い、レノーレ」

「ああ?」


 不機嫌そうに三人を睨む。

 

「なんだあたしゃ今……」

「することないだろ?」

「……痛いとこつくねぇ」

「そんなあんたにお願いだ」


 ほうと腕を組むレノーレ。

 目が一気にキリッとなる。


「聞いてやろうじゃねぇか」

「他でもない。前に言ってたことだ」

「例の特別訓練かい?」

「そうそう」


 動きやすさを重視した服装のレノーレは、七分袖を二の腕の真ん中までまくって言った。


「じゃ、いっちょやるか」


 実は特別訓練をしたかったのかもしれないと思わせるほどに目は輝いていた。

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