九十話 翌日
目覚めは最悪だった。
目を開ける前から感じる身体の痛み。
全身がばらばらになっていてもおかしくないと思えるほどだ。
それでもゆっくりと目を開ける。
ばらばらにはなっていないようだが、腕にも足にも胴にも包帯が巻かれている。
思わず起こした頭が再び枕にがくっと落ちた。
「お目覚めですか?」
隣に座っていたラーシャが声をかけた。
「ああ……」
声もがらがらであまり出ない。
ラーシャの横にセシリアもいる。
ロイはラーシャに尋ねた。
「ここはどこだ?」
まったく見覚えのない部屋だ。
部屋には分厚い本がいくつもある本棚や、絵画が飾られていている。
「グレゴールさんのお部屋です」
「はぁ……え?」
なんでそんなところにいるんだと聞こうとしたとき、扉がきぃぃ、と音が鳴って開いた。
「おお、起きていたか」
顔色一つ変えない。
驚いた表情も見せず冷静にロイに問うた。
「あそこで何が起こった?」
「そうだ……!」
反応して体を起こそうとする。
思い出したのだ。
「ってぇぇ!」
身体中を痛みが走る。
まだ完治には程遠い状態で、受けた傷も癒えていない。
「だめですよ!」
ラーシャが身体を抑える。
「ア、アリアスはどうなったんだ?」
ラーシャをはじめ、誰も答えない。
顔も背けるだけだ。
「……そうか。わかったよ」
悟って力を抜く。
手を額に当ててそのまま目へとスライドさせる。
落ち込んだ空気はひしひしと感じられる。
そんな中、グレゴールは重い口を開いた。
「君らのおかげでルーツィエ国は救われたといっても過言ではない。代表して礼を言おう」
「それはよかったな」
他人事であるかのようにそっけない返事だった。
今のロイはそれどころではない。
アリアスを失って意気消沈しているのだ。
自分がよわかった所為だ。
その考えが頭を巡り巡る。
「ロイさん落ち込んでいるひまはありませんよ」
ラーシャは力強く言った。
ロイには意味がさっぱりわからなかった。
呆然としているロイをまくしたてる。
「アリアスさんはまだ捕まっただけで助かるはずです。そうでしょう?」
無意識かロイの手を握る。
痛いくらいなのだが、それぐらいに思いが込められている。
「あっ、し、失礼しました……」
「いいや、こっちこそ……」
ラーシャは顔を赤らめ、目を背けた。
それをすぐに戻すとラーシャは言う。
「落ち込むのはそれからでも遅くはないですよね?」
ここで初めてラーシャの顔を見た。
赤の瞳の目はキリッとしている。
「そうだな。悪かった」
まだ打つ手はある。
ファニクスは殺す気はないようだ。
でなければわざわざさらってはいかない。
「まずはどうするかだな」
と辺りを見回して言う。
「あれ、ソードブレイカーは?」
銃はベッドの端に立てかけられている。
しかしソードブレイカーは見当たらない。
「それなんだが……」
グレゴールは言い渋っている。
「なんだ言ってくれないとわからないぞ」
「では言わせてもらうが、折れていた」
同時に心も折れた音がした。




