八話 動き出す歯車
一同が揃ってロイを見た。
「あんた、本気?」
「ああ、本気だ」
まだ半信半疑のアリアスはロイをじーっと見ている。
「俺はいつだって大歓迎だ。今からでも入るか?」
「もちろん」
とんとん拍子に話が決まっていくロイを他所目に、アリアスとラーシャが話し始めた。
「ラ、ラーシャ、様?い、いかがいたします?」
「いつも通りでいいですよ」
「そ、そうね。慣れない事はするもんじゃないわ」
なかなかお目にかかれないアリアスの敬語だった。
「それにしてもどうしましょう」
「う~ん、ロイについて行くのも大変だし」
余計なお世話だ。
「でもロイさんといる時のアリアスさんはとても楽しそうでしたよ」
「そうね、だいたい一緒にいて慣れてるからかな」
「羨ましいですわ」
「俺を放って話をしないで」
ロイの心からの懇願である。
「まあ、私はロイについていくかな。近くで見てないと不安だし」
「心配する必要はねーよ」
「でも子供の時は」
「子供の時の話をするんじゃねぇ」
面倒見がいいアリアスはロイを放ってはおけない性分らしい。
「では私もここで手伝おうと思います。最近の帝国には目に余るものがあります」
「確かにそうね。でもセシリア……ちゃんはどうするの?」
ぼそっとぎりぎり聞こえる声で言った。
「お姉様に……ついていきます……」
「わかったわ。全員同じみたいね」
勢いだけで家を飛び出したが案外何とかなったみたいだ。
「そうか。それじゃあ……」
クラインが言い切るより前に、その場に一人の男が息を切らして走ってきた。
「た、大変です」
「どうした」
「帝国の奴らが紛れ込んでいました」
「何!?」
やっと息がつけると思った矢先の事件だ。
「お前らはここにいろ」
「いや、俺も行く」
「……よし、こい」
少しわくわくしてしまった事は黙っていよう。
「私たちも行こう」
「はい」
全員即座に立ち上がる。
「場所は食料倉庫です」
一番乗りで走り出したのはロイだった。
だが地上へ通じている階段の場所がわからず一人迷子になってしまった。
「やばい、完全に出遅れた」
地下は想像以上に広く、隠れ家というより迷宮だ。
階段の場所を聞くため手当たり次第に扉を開けていく。
三回目の部屋の扉を開ける。
その部屋も虚しく人はいなかった。
だが机の上に奇妙な物を見つけた。
棒のように長いが、先から見ると中が空洞のようだ。
繊細で麗な模様が彫られている。
妙な魅力に取りつかれてしまったロイは、ちょっとだけと手にする。
その瞬間、これに吸い取られるように力が抜けていく。
「てきせーにんしょーかんりょー。そーぞくせーかくにんかんりょー」
聞き覚えのない気怠そうな声に振り返る。
だが誰もいない。
「こっちよ」
声のする上の方を見た。
そこにいたのは赤い髪を両サイドにくるくると巻いた少女だった。
「だ、誰だ。お前」
「え、あたし?」
自分を指して笑っている。
「ああ、お前だ」
「あたしはクロエルローラ。一応あんたの眷属になるみたいよ」
俺は幻覚でも見ているのだろうか。




