八十六話 加速する暴走
暴走は魔力が尽きたときに起こるとされている。
しかし実際にするのは、それに魔遺物使用者ということだ。
ファニクスも過去に経験があり、対処の仕方にも心得がある。
「アレクサンドラ」
「ふ~ん、さしぶりねぇ~。あんたんときもそ~と~暴れたのよ」
「昔の話だ」
ロイは銃を連射させた。
とっくに魔力は尽きているはずだが、暴走だと関係ない。
それらを一つ残らず斬っていく。
その間にロイは一気に距離を詰めていた。
「ふん。無策だな」
当然働く頭などないため、敵を倒すという本能以外全く働いていない状態だ。
「で、ど~しやってとめるの?」
「私と同じように止めるほかあるまい」
ソードブレイカーを槌のように力任せに振るう。
軌道が読みやすいので、さっと横へと移動して躱す。
そして背中へレイピアの柄頭で打撃する。
押されてバランスを崩すが、倒れはせず、常人にはありえない態勢で踏ん張る。
そのまま反転してファニクスへ再度攻撃を仕掛ける。
「あんたさっきまで殺そうってしてたのにいや~に傷つけないようにしてるわね?」
「鋭いな」
至近で放たれた銃弾をまたレイピアで斬り飛ばす。
だがだんだん強くなっていることを感じ、次からは厳しいと察した。
「あいつは……まあ、いろいろあってな」
「会ったばっかりなのに?」
「あいつの関係者とだ」
あまりこの話は人に言いたくない、たとえアレクサンドラであっても。
ソードブレイカーを逆手に持ち、斬り裂こうとする。
それをあえて避けず、それを握っている手を掴み、話す。
「おい、アレクサンドラの妹、聞こえてるか」
ちょっと間を空けて応答が返ってきた。
「なに!?今忙しいんだけど!?」
やはりそんな状況か、とファニクスは内心笑う。
「こいつの暴走を止めるのを手伝ってやろうか?」
「なんであんたが?」
まだ疑っているようだ。
敵として二回も戦った相手だ。
疑わないほうがおかしい。
「早くしないと収拾がつかなくなるぞ」
またまが相手答えが返ってくる。
「経験があるみたいね。どういう風の吹き回しわからないけどお願いするわ」
「ふっ、承った」
手を放して腹をけ飛ばす。
後ろへ下がって、ファニクスを睨んだ。
「いいか。とにかくこいつに魔力を使わせるんだ、クロエルローラ。それだけでいい」
「?わかったけど、それでいいいのね?」
「ああ、それだけでいい」
あとは私がこいつが暴れ尽きるまで相手をしてやればいいだけだ。
と、簡単に思ったが、実はそれが一番きつい役回りだ。
暴走しているときは無限に使えるのだ。
そんな人間離れした化け物と戦うのは正直ごめんだ。
それでも自分の中でやらなければならないと思っている。
「はぁ、やるか」
ロイの息は荒い。
距離が離れていても聞こえてくるほどだ。
自分のかつてこうだったと考えると、恥ずかしい気持ちになる。
「ファニクスなんかあれよりひどかったからねぇ~」
にやにやとアレクサンドラは笑う。
この場で唯一そのことを知っている者だ。
全く、過去というものはいつまでも巻き付いてきて邪魔なものだ。
「さすがにあそこまでは……くっそ」
「ふふ、堪えてる堪えてるぅ~」
話しているうちに攻撃の第二波だ。
遠距離から銃で弾幕を張るように撃つ。
「そろそrこっちも使ったら~」
悪魔の囁きだ。
もしかしたら本当に悪魔な可能性もあるため笑えない。
「あいつに使わないと言った。二言はない」
矜持というか、それも相まってこの戦いは使わないと心に決めてしまった。
今更変えるつもりは毛頭ない。
「じゃ、がんばってぇ~」
「無論だ」
弾幕の間を縫うように躱していく。
クロエルローラが誘導でもかけて魔遺物を多用させているのだろう。
なんにせよいい具合だ。
しかし暴走が止まるにはもっと多く消費させなければならない。
「おら、どうした?しっかり当てろよ」
意識のないロイを挑発する。
いかんな、癖になりつつある、と新たな自己発見をする余裕もなくなる。
「無に帰する地獄の業火」
ロイの声とはかけ離れた、よりも人間ですらない呻き声でそう唱えられた。
「おい、冗談だろ……」
その魔法はファニクスですら逃避したいぐらいの強大な魔法であった。




