八十三話 一難去って……
ロイは未だに歩いていた、その先にあるルーツィエ国を目指して。
「なだ着かないの?」
アリアスが耳元で聞いてくる。
ロイはだるげに答えた。
「まだまだだなー。誰かの所為で遅れてるんだけどなー」
皮肉たっぷりに言った。
「あら、誰かしらね」
あくまでも白を切るつもりらしい。
遠いとはいっても道のりは平坦なので、それほどは辛くない。
それでもまだまだ時間がかかりそうだ。
ルーツィエ国に着いたのはちょうど日が傾きかけ始めたころ。
国全体を覆う壁が見えたことで、安堵の息が漏れた。
「はぁ、着いた……」
「ごくろーさん」
「もういいいだろ、降りてくれ」
そういうと、アリアスはよっ、とロイの背中から飛び降りた。
「グレゴール挨拶してから、一泊する?」
ちょっと考えてから答えた。
「そうだな。帰りはどうするかまた考えよう」
しまった、帰りの翼龍はどこからのればいいだろう。
何も考えずに飛び出したツケ回ってきた。
もしかしたらルーツィエ国がそれを飼っているかもしれない。
それに賭けよう。
門をくぐり、もう見慣れた風景が目に飛び込んでくる。
兵士が凱旋しただろうが、さほど変わりはなく、来たとき同様、静かな田園風景だ。
「なんか久しぶりって感じだな」
一日も経っていないが、もう何日も過ぎた感覚だ。
城までの一本道ゆっくりと歩く。
急ぐ竜がないため、景色でも楽しみながら行く。
見ているだけで疲れがとれそうな景色に加え、そよ風が熱くなった身体を撫でて、心地よい。
しかしそれはある男の一声によってかき消された。
「見つけたぞ、貴様」
どこかで聞いたこと、いや、実際に戦ったことがある男の声だ。
行く手を阻む形で立っているのは、ファニクスだった。
「お前どうしてここに?」
嫌な予感がする。
外れてくれればいいのだが。
「前回は殺しそこなったからな。直々に出向いてやった」
いらねー気遣いだ。
そしてその一言はロイが直感した最悪の事態だった。
殺しそこなった奴に会いに行く理由は一つしかない。
きっちりとあの世に送るためだ。
「おいおい、タイミング悪すぎるだろ……」
激しい戦闘に次いでまた始まろうとしている。
人生最大の危機が去ったと思ったらそれを超える危機が訪れるとは、厄年かな?
「貴様らには聞きたいことがある。答えるつもりはあるか?」
「ねぇよ!」
そうか、と言ってファニクスは腰に差しているレイピアを握る。
「早速始めるつもりか?」
「当たり前だ。貴様らを動けなくした後でじっくり吐かせてやる」
前回会ったときより鬼気迫る感じだ。
目に力が入っており、どうしても戦いは避けられないようだ。
既にレイピアを抜いて構えている。
「アリアス、下がってろ」
「えっ、でも」
「魔力も少ないだろ?」
「そうだけど……」
これで前回と同じ条件だ。
「随分と疲弊しているようだが?」
「それでもお前ぐらい余裕だぜ」
そんなわけまったくないけど。
ロイはソードブレイカーを取り出し、銃も違う手で持つ。
「あれぇ~?私は~?」
ファニクスの横に現れたのは、クロエの姉であるアレクサンドラだった。
「今回はレイピアだけだ。出番はない」
「つれないわねぇ~」
これぐらい魔遺物を使わなくてもいいってか。
「その判断後悔させてやる!」
二回目のファニクスとの戦闘が始まった。




