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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第二章
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八十二話 戦いの後

 とっくに両軍が引き上げたなか、ロイはアリアスを背負い、戦地となった場所をとぼとぼと歩いていた。

 まだ目を覚ましていないため、こうして行くしかない。

 血で汚れた静かな草原を歩いていると、かなり草が生えていないような場所がある。

 そこには兵の死体があるのだ。

 改めて戦いの痛ましさを思い知らされる。

 死体は後々その場に埋められる。

 落ちているのを見て、不快に思わないものはまずいないだろう。

 それをするのはルーツィエ国だ。

 これも戦いのルールとして載っている。

 死体の処理は近い国がすると。


「はぁ、まだ着かないのか……」


 行きは楽であった。

 体力が有り余っているので当然だ。

 今は体力もなく、それに人を背負っている状態だからだ。


「手伝ってあげよっか?」


 自分が物質に触れられないことを知っているくせいに、にやにやと笑いながら言ってくる。

 具現フェアケルとやらが使えたら運ばせられるのだろうか?


「いつかあの魔法使えるようになったら持たせてやるからな」


 言った瞬間、クロエの表情が一気に強張った。


「やめておきなさい。あれは危険よ」


 ロイを思っての発言だ。

 しかしロイは食い下がった。


「危険かもしれないけど、さっきの戦いはもっと危なかっただろ」


 相手も全力かはわからないがその魔法を使っていた。

 ならば対抗策としてこちらも同じのを使えば対等に渡り合えるはずだ。


「そうだとしてもまだあんたには早いわ」


 達観した様子で突き放す。

 なんとかそれに反論しようとしたとき、人の声に遮られた。


「おい、ロイか?」


 声の主はグレゴールだった。

 彼の鎧には返り血がこびりついている。


「そうだ」

「今誰かと話してなかったか?」

「いや、ずっとこんな調子だ」


 ロイの隣で浮遊しているクロエは退屈そうに空を見ている。


「ロイ、聞いたぞ。あれを退けたらしいな」


 興奮覚めぬうちにといま会いに来たらしい。


「あの大剣を持った女の子ね」

「そうだ。何人もやられてる。ロイが相手をしてくれていたおかげで予想に反して随分死傷者が減った」

「そうか……」


 減ったとは言われてもこの惨状だ。

 正直減ったと言われてはいそうですかと受け入れにくい。

 だが役には立ったみたいで、それは素直に嬉しかった。


「まだこれからいろいろあってな。すまぬが先に戻らせてもらう」

「ああ、こっちはゆっくり帰らせてもらうぜ」

「ああ」


 といってグレゴールは足早にその場を後にした。

 再び辺りに静寂が戻る。


「さて、歩くか」


 まだまだ距離はある。

 気が遠くなりそうだ。


「ルーツィエに帰ったらどうする?」

「そうだな、まず……ってアリアス!?」


 考え事をしていてクロエかと思っていた。


「どこから目が覚めてた?」

「グレゴールがきたぐらい」

「結構前だな!」


 ならもうちょっと早く行ってほしかった。


「ほら」

「え?」

「え?じゃねぇ。降りろ」

「運んでくれるんじゃないの?」


 おれは運搬屋じゃねぇと一喝。


「私疲れてるんだけど?」

「奇遇だな。俺もだ」


 口車に乗せられてたまるか。


「ど~しても疲れてるんだけど、それでも?」

「……」


 はぁ。


「わかったよ。好きにしろ」

「やった!」


 ロイは心で、これが最後、と自分に言い聞かせるのであった。

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