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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第二章
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八十一話 戦いの行方

 短い時間だ。

 短い時間ではあるが、近距離戦故に凝縮されており、本来の時間以上に感じられる。

 ここまでのちゃんと近距離戦をしたのは初めてだともいえる。

 しんどい、怖いなど負の感情が込み上げてくる。

 向こうは切れ味鋭い、斬られれば即死レベルの一撃を簡単に連続で出している。

 しかしそれと同時になにか楽しんでいるような感覚もある。

 一瞬一瞬の命をかけた戦い。

 それに踊らされているようだ。

 悪い気はしない。

 むしろその逆で自ら舞っているようでもある。

 本当はこういう戦いをしたかったのかもしれない。


「おにいちゃんけっこうやるんだね」

「あっ、あたりまえだ。お、俺を、舐めるなよ」


 息も絶え絶え、返答もぎこちない。

 一方のリーナは息はこれでもかというほど整っており、小躍りでもするような素晴らしい笑顔を見せている。

 これが年の差かと、年には勝てないということが証明されてしまった。

 向こう若すぎるけど。


「まだ、いける!」

「そうじゃないとたのしくないよね!」


 この年にして戦闘狂とはなかなかやりよる。

 近い将来国とか造りそう。

 こちらはソードブレイカーを懐にしまい、剣に対して不釣り合いな銃で、しかも撃たずに盾として使うという謎戦法を取り入れた戦闘スタイル。

 ステップステップそしてガード。

 距離をおかずに一定を保ちながら紙一重で躱す。


「う~ん、おにいちゃんなにしてるの?」

「必死に生きてんだよ!」


 一つのミスで死に直結する。

 ちょっとでも気が抜けない戦いだ。

 しかしさっきから近接――剣しか使っていない。

 魔法との組み合わせを警戒していたが、使えない理由でもあるのだろうか。


「魔法も使っていいんだぜ?」


 この余裕を見せつつの質問。

 これなら少なくとも対等な感じでいける。


「さっきの具現フェアケルでけっこうつかっちゃったからね。ちょっときゅうけいかな」

「ほう。そうか」


 内心ガッツポーズだ。

 集中するものはたった一つ。

 剣だけでいい。

 かといって慢心するのはよくない。

 こっちだってもうガンガン撃てるほど魔力は残っていない。

 撃てて五発というところだろう。

 それを外さないためにはできるだけ至近で撃つ必要がある。

 追尾という手もあるが、魔力の消費量が桁違いなので、使ってしまうと殺されるより先に死ぬ。

 膠着状態が続きそうだ。

 そうであれば別にそれでもいい、疲れるけど。

 時間稼ぎも終盤だ。

 ちょこまかちょこまかと動くロイの姿は、人間の手から逃げ惑う蚊のようだ。

 美しさなどは皆無で、汚く、見れたものではない。

 汗が飛び、身体中のあちこちに泥が飛んでいる。

 その動きも時間と共に鈍くなっていく。

 まず最初にきたのは足だ。

 ずっと酷使してきたツケが回ってきたようだ。

 それほど激しい運動をしていなかったため、跳躍も長さが始めとは比べものにならないほど落ちている。

 次に腕だ。

 剣を銃で受け止め続けたのが、その方法しかなかったとはいえいけなかった。

 一回一回の攻撃が信じられないほど重い。

 質量で殴るが如く振るわれる斬撃の所為で、腕が壊れそうだ。

 そしてその受け止めるために、足で踏ん張らなければならない。

 足が痛い原因の一つだ。

 つまりは満身創痍である。


「そんなんじゃおわっちゃうよ~?」

「だって、ロイ。聞いてる?」

「俺が煽られてるってことならバッチリ聞こえてる」


 話すのもしんどい。

 水平に斬ったり、垂直に斬ったりと忙しいな。

 救いなのは剣が大きいため、モーションが大きくなるので避けやすいことだ。

 予測しやすく、また子供なためか攻撃方法が多いとはいえない。


「も~じっとしてよ!」


 まさか年下にじっとしてと言われる来ようとは夢にも思わなかった。


「あんたって落ち着きなさそうよね」

「なにちょっと共感してんだ!」


 子供は誰だってそうだろうが、俺は子供ではないけれどな!

 いかん、集中集中。

 パターンが見えてきたころだ。

 待ってきたそのときがやってきた。

 ひゅ~、どかん、と心にまで響くぐらいに鳴った。

 終わりを告げる花火だ。

 空はまだ明るいが、それでもはっきりとわかる。


「お、終わった~」


 同時に地面に倒れた。

 全身の力が抜けた感覚だ。


「あ~あ、終わっちゃった……」


 リーナはつまんなさそうに口を曲げる。

 ここまできても息一つ乱れていない。

 大したものだ。

 ロイはというと、ぜーぜーはーはー未だに整っていない。

 しかし成し遂げたのだ。

 傷つけることなく、この戦いを乗り切るということを。

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