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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第二章
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八十話 一対一

 なおも躱し、銃で受け、猛攻を寸前で避けている。

 後ろに下がりつつ、ただ時間が過ぎるのを待つ。

 その間、リーナは金色の髪を弄っている。

 ロベルティーネはというと目の前で行われている自分がさせた強制同士討ちを心底楽しそうに眺めている。

 外――敵から見ている分にはさぞ楽しかろう。

 こっちは生きるか死ぬかの境界線をいっているのに。

 お構いなく攻撃を続け、ときたま魔法を打ち込んでくる。


鋼鉄の棘アイゼンドルン


 かすれた声で唱える。

 操られている所為か。

 地面から何本も直径十センチ程度の棘が出てくる。

 その全てがロイに向け、伸びていく。

 躱せないほど早くはない。

 銃を使いつつ、後ろへと逃げる。

 しかしなぜ操られていいるのだろうと思う。

 アリアスは戦闘中に自分を守るための魔法を唱えたはずだ。

 それがある限り外からの攻撃は一切通じないはず。

 たとえ攻撃が物理でなくとも、アリアスが唱えるなら物理以外の攻撃も通らないようにできているだろう。

 だとしたら考えられる理由は一つ。

 魔力が尽きている、もしくはほとんどなくしている。

 だがそれでは説明がつかないことも出てきてしまう。

 今魔法が使えているということだ。

 その二つを同時にクリアする方法でもあれば別だが。

 方法さえわかれば対処の方法も見つかるかもしれない。


土壁エーアデヴァント


 どんっ、と背中にそれが当たる。

 下がっていたロイの後ろにそり立っていた。

 そこで初めて操られているアリアス、もといロベルティーネの作戦を理解した。

 ただ単に攻撃を仕掛けていたのではない。

 近距離攻撃を多用していたのはロイの体力を奪うために。

 土壁エーアデヴァントは後ろへの進行を阻むため、それと棘と組み合わせだ。

 壁で動きを止め、棘を使って壁と四肢を何重にも巻き付ける。

 足が宙に浮き、身動きがとれない。


「いたっ!いてぇ、やめてマジで!一生もんの傷つくから!」


 と、アリアスに言ったところで聞く耳どころかまず届いていない。

 虚ろな目、生きた人間とは思えない奇妙な、全くリズム感のない歩行で一歩、また一歩と近づいてくる。


「おいおい、話せばわかるだろ!?」


 抵抗は意味をなさず、このまま死刑執行が始まるまである。


「待て待て!おいそこの……リーナの精!ちょっと待て!」

「時間がないので……では」


 いやに急ぐな……とか言っている場合ではない。

 アリアスはもう手を伸ばせば届く位置にいる。

 ああ俺は何の魔法で殺されるのだろうか?

 雷か、炎か、土か、土でどう殺すんだろう?

 しかし一向に魔法を唱える気配がない。

 ロイは首を傾げ、アリアスの顔を覗き込む。

 その瞬間、棘が解け、同時に壁も崩れ去った。

 地面に着地し、事なきを得た。


「おっ、助かっ……」


 解けた理由はアリアスを縛る魔法がなくなったからだ。

 力が抜けるように倒れようとするアリアスを、ロイはすぐさま駆け寄り地面につく前に抱えた。

 目は閉じられており、眠っているようだった。


「なんか知らないけど助かった……」


 が、ふうと一息つく暇もない。


 アリアスその場に寝かせ、敵がいるのほうを向く。


「おい、ロベルティーネだったか?そっちはどした?」


 ロイの目にはリーナしか映っていなかった。

 普通なら見えないはずのロベルティーネはロイには見える。

 ましてや具現フェアケルを使っているので、魔遺物ツァオベライユーバーレストが扱えない者でさえ見える。


「もうじかんぎれ」

「まだちょっと残ってるだろ?」


 花火は上がっていない。

 音も光もなかった。


「ちがうよ。具現フェアケルはあんまりながくつかえないから」

「そうなのか」


 勝率が上がった気がした。

 このまま花火が上がればなおよしだ。


「だったら一対一だな」

「そーだね。おにいちゃんはかてるかな?」

「舐められたもんだ」

「だったらかってみせてよ」


 リーナは剣を両手で持って担ぎ、大きく踏み込んだ。

 また超絶火力任せが始まるのか。

 少しでも初撃の威力を削ぐため、リーナに銃口を向ける。


「睡眠でよろしくな」

「りょーかい」


 短いやり取りを終え、一発放つ。

 リーナは軽々と避ける。

 みんな避け過ぎだろうが。

 避けの挙動のままにロイへと向かう。

 それに合わせ、引き金を引く。

 寸分の幅で避ける。

 狙っているのだ。

 横の移動を最小限にすることで、勢いを殺すことなくロイへと向かえる。

 大きな剣を持っているのに大したものだと感心する。

 ロイの抵抗も虚しくトップスピードで剣の射程圏内へと入る。

 水平に、身体を真っ二つにする気満々で剣が振られる。

 バックステップで逃げられるが、それでは仕切り直しだ。

 近距離を逆手に取ろうと、上に高く跳躍する。

 振り切られ、止まった剣の上に乗り、その距離で催眠弾を発射する。

 リーナは回避するかと思ったが、即座に剣を縦にして、弾を当たる前に斬った。

 ロイは離れることなく、距離を保って三度リーナに銃口を向ける。


「連射だ!」


 もはやクロエの返事など聞こえない。

 この至近距離ならばいくつも撃てば当たるやもしれない。

 淡い期待を込め撃ち続ける。


「あはは、そんなんじゃ当たらないよ?」


 まるでシャボン玉でも割るようだ。

 リーナの容姿に合っている、それが銃から放たれたものでなければ。

 すべてが割られ、連射が終わる。

 ここにきてまさかの至近距離戦だ。

 体内魔力もかなり少ない。

 次の一発に全力をかけるしかない。

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