七十九話 血祭り人形
えっ?
思うより先に打撃は入っていた。
完全に意識の外だ。
回避する術はない。
アリアスとは思えない綺麗な回し蹴りが決まる。
地面に叩きつけられ、吹っ飛ぶ。
ロイとロベルティーネが繰り出した魔法がぶつかった後、微かにそれは聞こえた。
「血祭り人形」
確かにそう言っていた。
態勢を起こしてロベルティーネを牽制しつつアリアスを見る。
目は虚ろで足取りはおぼつかない。
殺気すら感じられなかった。
まるで。
「操り人形のようでしょう?」
ロベルティーネはロイの考えを言った。
「その気味悪い音楽の所為だろ」
「ご名答です。では私がしたいこともわかりますよね?」
一息ついて答えた。
「同士討ちだ」
「ふふ、その通りです」
優しい目をしてドギツイこと言いやがる。
「あまり自分の手は汚したくないものです。ですのでここから私は操ることだけにしますね」
「それはありがたい」
「なぜです?」
「俺が攻撃しなければアリアスは傷つかないからな」
懐にソードブレイカーに収めた。
アリアスの物理攻撃は殴る蹴るだけだ。
これでは峰だろうが傷つけてしまう。
「さあこい!」
銃を盾代わり攻撃は全て流す。
「千雷槍」
アリアスは唐突に唱えた。
「待てよ!魔法使えるのかよ!?」
「使えないなんて言ってませんが」
「お前、てかお前ら魔遺物の精はなんで大事なことを言わないんだ!?」
「……きかれていないので」
おい、クロエと心で思う。
「知らないわよ。先に言っとくけどあいつが使う魔法がどんなものかなんてのも知らないから」
「そうだ。それでいい。もっと気を使って教えてくれよこれからも」
「あんた周りに頼りすぎよ」
「周りが有能だから頼るのが正解だろ!?」
それより前前とクロエが慌てている。
あっ、そうだった。
「焔壁」
目の前に炎を展開して雷を防ぐ。
止んだころを見計らって炎の壁を消す。
だが見計らっていたのはアリアスも同じだった。
気づけば正面にいた。
今度は受け流す。
普段近距離戦をしないだけになかなか珍しい姿だ。
アリアス、というか人間離れした脚力で横蹴りがtンで来る。
それほど身軽な恰好ではないが、それすら感じさせない無駄のない動きだ。
「おっと」
少々バランスを崩されながらも掠りもせず避ける。
それだけで終わらないことはわかっている。
連続でくる攻撃をしゃがんで、半身で、バックステップで躱す。
もともとかなり削られていた体力が底をつきかけている。
アリアスもそうではあるが、魔法で操られているため全く関係なくなっている。
ずるいな。
ロイは息が切れて集中力も欠けて、銃を盾にする。
あの魔法が解けたとき痛いかもしれないが、ま、それは代償だ。
銃を時には両手で持ち、強めの蹴りに対処する。
「まだおわんねーのか!?」
「んー?もうちょっとじゃない?」
「おい自分のやつだぞ!?興味持てよ!」
「まあ、人間には折れないし、それにあんたが避け続けてるの飽きたし」
なんて言い草だ。
主だろおれ?
「がんばれ~」
「ざついわ!」
ふんっと蹴りを跳ね返す。
そのまま距離をとって、間を作る。
「花火さっさと上がれよ!」
ロイの叫びは悲しくも誰にも届かず木霊するだけだった。




