七十八話 操るは音楽
そのまま攻撃してしまったら通らない可能性がある。
ロイは早めにソードブレイカーを振るった。
無秩序な世界なら何か起こるかもしれない。
しかし予想、ないしは期待しと結果は起こらなかった。
「ふふ、どうしました?」
見下す感じの嘲笑。
何も起こらなければそのまま攻撃するだけ。
先ほどよりも強く、叩き切るイメージで。
「だから、どうしました?」
勢いはあったはずだ。
だがそこには二本の指でつままれたソードブレイカーがあるだけだった。
傷どころか遊ばれているようだ。
抜こうとしてもビクともしない。
「何処に行くんですの?まだ遊び足りないですわ」
と言って詠唱する。
「音波鞭」
読んでタイミングを合わせて瞬時によける。
ロイの頬、腕を掠めるように飛んでいく。
そこからたらりと血が流れた。
刃物とは比べものにならないほど切れ味がいい。
いつの間にか切れていた。
徐々に痛みが出てくる。
しかしそれにかまっているほど余裕はない。
「おい、さっきは打撃だっただろうが」
「もう言わなくともわかるでしょう?」
「わかったから離せ!」
ソードブレイカーに向けさせておいて。
「くらえ!」
額に銃口が当たらないように肘を引いて引き金を引く。
火属性と物理攻撃を表す魔法陣と弾の色が出ると、ほぼ同時に着弾する。
爆風と煙が一帯を包み、どさくさに紛れて手が離れた瞬間にその場から離脱した。
頬から垂れる血を拭う。
後でアリアスに治してもらおう。
そうこうしているうちに煙が晴れる。
「ふふふ、銃でしたね。クロエ」
名を呼ばれて応答した。
「そうよ。あんたみたいなバカでかい時代遅れの剣とは違うから」
「遠距離だけが取り柄。近距離が不得手。失敗作の後継機。火力不十分。これではここで戦うにはかなり不利ですよ?」
「あんたぐらいならそれぐらいで十分だけど?」
「なら試しては?」
でもこれ戦うのは俺なんだよな。
こっちは具現できないし。
「もう時間少ないしね。そろそろケリつけるわよ」
「えっ、最初の話聞いてた?」
「聞いてるわけないでしょ!?」
これ俺が悪いのか?
理不尽に怒鳴られた気がするが今は敵に集中だ。
帰ってからクロエを問い詰めよう。
「ではこちらも強めの魔法でいきますね?」
「じゃあこっちもちょっと、ほんのちょっと強めの魔法で対抗するかな?」
「……」
「……」
なんかあいつ腹立つな。
「でしょ?」
「確かに」
問い詰める必要がなくなった、安心だ。
「さて」
「では」
「焼き尽くす焔!」
「音鋭鎌」
ロイとロベルティーネとちょうど中間で爆発が起こる。
それによって巻き起こされた風が髪を揺らす。
攻撃はこちらには届いていない。
しかし無効にも届いていないだろう。
爆音に隠れるように聞こえたのは謎の、気味が悪い音楽だった。
心を汚すような、爆音どことなく気持ち悪い、センスがないものだ。
それらが不協和音となってより一層気分が悪くなる。
「さようなら」
音楽と共に聞こえたのは、ロイの後ろ、アリアスの声だった。




