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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第二章
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七十五話 昇華

 アリアスは肩で呼吸をしている。

 体内魔力の激しい消耗に物理ダメージが相乗効果を上げて危ない状態だ。


「もう終わりって、んなわけないでしょ」


 強気だが声は小さい。

 目線は下を向いている。


聖なる治療ハイリヒハイレン


 そう唱えると、受けた傷が塞がり、傷跡がなくなっていた。


「回復までできるなんて、私が見た人間の中でもかなり上位に入るわよ」

「じゃああんたが見てきた人間は大したことなかったんじゃない?」

「人間はね?」

「えっ?」


 ロベルティーネはそれ以上話は続けずぽつりと言った。


「そろそろ終わらせましょう」


 リーナは剣を地面に突き刺し、命令するように言った。


「舞え、コンティドラ・ロベルティーネ」


 ロベルティーネの周りが紫がかって、異様な雰囲気が辺りを包む。


「おねえちゃんたち、ばいばい」


 お別れの挨拶をして、剣の柄頭に両手を重ねて乗せる。

 魔力を注いでいるのだろうか。

 その場に髪が揺れるほど風が渦巻く。


「あれはやばそうだな……」

「本当に……どうする?」


 ロイはリーナを見て言った。


「今ならあれ壊せねぇか?」

「無理よ」


 クロエはそう決めつけた。


「今のあんたたちじゃ傷さえつけることができないわ」

「へぇ~、じゃあ詰んだな」


 しかしリーナへと近づいて行っている。


「何するつもり?」

「アリアスに任せっぱなしだったからな。そろそろ交代だ」


 ソードブレイカーを今一度強く握りしめた。


「勝算もないのにね」

「あったらとっくに使ってる。だいたい何とかなるだろ」


 右手に銃、左手にソードブレイカー。

 銃口を剣に向け、引き金を引いた。

 魔法陣が浮かび上がって、赤い弾が飛んでいく。


「甘いですよ」


 諭すようにロベルティーネは言って、弾が向かってくる方向に手を挙げた。


「おい、マジかよ……」


 弾は見えない壁に当たった、のだろう。

 音で作り出した壁とでもいうべきか。

 それを何も唱えることなくやってのけた。


「あら、今のでお終いですか?」


 とにかく言葉を紡がなければ。

 そう思い、必死に言葉を探す。


「おいおい、最初から全力で攻撃しかける奴がどこにいるんだ?」

「ここにいるとしたら?」

「……それはだめだろ……」


 一瞬で終わっちまうぜ。

 まだ時間は残っている。

 ここからどう稼いでいこうか。


「まあ、全力を出さないとしてもそっちの勝ちは濃厚だな」

「急にどうしたんですの?敗北宣言ですか?」

「この状況で勝利宣言する奴はイカれてるだろ」

「私に歯向かう時点で十分に乱心ですよ」


 うふふと笑うが、こちらは顔が引きつっている。


「おにいちゃんじかんかせぎ?」

「当たり前だ。こんなとこで死んでたまるか。まだやらなきゃなんねぇことがたくさんあるんだよ!」

「だったらたたかうしかないんじゃない?」

「挑発か。ちっさいのにやってくれるぜ。おら、しっかり構えてろよ!」


 ロイは銃を肩に乗せ、唱えた。


「アリアス、なんか霧みたいなの頼む。透明なる殺人者ドゥルヒズィヒティヒメルダー

「は、はぁ!?霧って……砂霞ザントドゥンスト


 視界の悪い状態で透明になる戦法。

 ファニクス戦で使ったものだ。


「小賢しいわね」


 ロベルティーネは魔法も使わず全て吹き飛ばした。

 しかしどこにもロイの姿はない。

 全方位探すも影も形もない。


「ここだ!」


 声のする方向は頭上高くだった。

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