七十五話 昇華
アリアスは肩で呼吸をしている。
体内魔力の激しい消耗に物理ダメージが相乗効果を上げて危ない状態だ。
「もう終わりって、んなわけないでしょ」
強気だが声は小さい。
目線は下を向いている。
「聖なる治療」
そう唱えると、受けた傷が塞がり、傷跡がなくなっていた。
「回復までできるなんて、私が見た人間の中でもかなり上位に入るわよ」
「じゃああんたが見てきた人間は大したことなかったんじゃない?」
「人間はね?」
「えっ?」
ロベルティーネはそれ以上話は続けずぽつりと言った。
「そろそろ終わらせましょう」
リーナは剣を地面に突き刺し、命令するように言った。
「舞え、コンティドラ・ロベルティーネ」
ロベルティーネの周りが紫がかって、異様な雰囲気が辺りを包む。
「おねえちゃんたち、ばいばい」
お別れの挨拶をして、剣の柄頭に両手を重ねて乗せる。
魔力を注いでいるのだろうか。
その場に髪が揺れるほど風が渦巻く。
「あれはやばそうだな……」
「本当に……どうする?」
ロイはリーナを見て言った。
「今ならあれ壊せねぇか?」
「無理よ」
クロエはそう決めつけた。
「今のあんたたちじゃ傷さえつけることができないわ」
「へぇ~、じゃあ詰んだな」
しかしリーナへと近づいて行っている。
「何するつもり?」
「アリアスに任せっぱなしだったからな。そろそろ交代だ」
ソードブレイカーを今一度強く握りしめた。
「勝算もないのにね」
「あったらとっくに使ってる。だいたい何とかなるだろ」
右手に銃、左手にソードブレイカー。
銃口を剣に向け、引き金を引いた。
魔法陣が浮かび上がって、赤い弾が飛んでいく。
「甘いですよ」
諭すようにロベルティーネは言って、弾が向かってくる方向に手を挙げた。
「おい、マジかよ……」
弾は見えない壁に当たった、のだろう。
音で作り出した壁とでもいうべきか。
それを何も唱えることなくやってのけた。
「あら、今のでお終いですか?」
とにかく言葉を紡がなければ。
そう思い、必死に言葉を探す。
「おいおい、最初から全力で攻撃しかける奴がどこにいるんだ?」
「ここにいるとしたら?」
「……それはだめだろ……」
一瞬で終わっちまうぜ。
まだ時間は残っている。
ここからどう稼いでいこうか。
「まあ、全力を出さないとしてもそっちの勝ちは濃厚だな」
「急にどうしたんですの?敗北宣言ですか?」
「この状況で勝利宣言する奴はイカれてるだろ」
「私に歯向かう時点で十分に乱心ですよ」
うふふと笑うが、こちらは顔が引きつっている。
「おにいちゃんじかんかせぎ?」
「当たり前だ。こんなとこで死んでたまるか。まだやらなきゃなんねぇことがたくさんあるんだよ!」
「だったらたたかうしかないんじゃない?」
「挑発か。ちっさいのにやってくれるぜ。おら、しっかり構えてろよ!」
ロイは銃を肩に乗せ、唱えた。
「アリアス、なんか霧みたいなの頼む。透明なる殺人者」
「は、はぁ!?霧って……砂霞」
視界の悪い状態で透明になる戦法。
ファニクス戦で使ったものだ。
「小賢しいわね」
ロベルティーネは魔法も使わず全て吹き飛ばした。
しかしどこにもロイの姿はない。
全方位探すも影も形もない。
「ここだ!」
声のする方向は頭上高くだった。




