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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第二章
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七十四話 越えられぬ壁

 人間をはじめ多くの生物は体内魔力がある。

 量はそれぞれではあるが、それ以上増えることはない。

 しかし魔遺物ツァオベライユーバーレストの精は人間でもなければ生物でもない。

 それも精だ。

 生半可な魔力量ではない。

 まず普通の者が戦っても敵いやしないだろう。

 ロベルティーネは防御する素振りも見せなければ避けようともしない。

 ただ千雷槍タオゼントドンナーシュペーアの行く先であるリーナの剣の前に立ちはだかった。

 生身の人間なら死まではいかないにしても相当なダメージだ。

 何個もある雷がロベルティーネもにヒットする。


「え?勝った?」

「どうやら違うみたいだ……」


 雷が当たって起きた煙が薄くなって現れたのは、静かに笑みを溢しているロベルティーネだった。


「あらあら、その程度かしら?」

「煽ってくれるじゃない?精のくせに生意気ね」

「あなたぐらいの強さの方なら罰は当たらないでしょう?」

「これ久しぶりにキてるわ」


 笑っている二人をロイは傍観するほかなかった。

 手を出してはいけない領域だと、動物的本能がそう告げている。


「さて、次はどんな魔法を見せてくれるんですか?」


 さらに煽るロベルティーネ。


「あんたでさえ使えないような魔法見せてあげるわ」


 アリアスは怒りながら、しかし冷静に唱えた。


不可視の制裁ウンズィヒトバールシュトラーフェ


 ロベルティーネは顎の手を当て、首を傾げた。


「今のところなにもございませんよ?」


 唱えたアリアスは呼吸が少し乱れていた。

 それをすぐに整え、勝ち誇った顔をして言った。


「これであんたが魔法を使えばペナルティを課せられるようにしたわ。試しに使ったら?お得意の魔法を」


 口角が上がって今にもガッツポーズでもする勢いだ。

 ロイも知らない魔法だ。

 使うのは初めてだろうか。


「では試しに死んでいただきますね。古代の呼び声アルタートゥームルーフ


 直後激しい鳴動が起こった。

 ロベルティーネとアリアスの間の地面に亀裂が入る。

 亀裂の奥深くから低く、鈍い、苦しみに満ちたうめき声がきこえてきた。


「ふふふっ、あなたが言っていたことは嘘だったようですね」


 だがアリアスは臆することなく、ロベルティーネに言う。


「なに笑ってんの。それすぐに崩れるわよ?」

「そうかしら」


 鳴動が止むと同時に、笑みは消え去った。


「……へえ、なるほど。魔法を封じるくとができるのね、この私でさえ」

「それだけじゃないわよ」


 今度は逆にアリアスが笑っている。

 亀裂から現れたのは、人間のかたどった白骨だった。

 それが何体何十体と亀裂から出てくる。

 それらはゆっくりと血を這うようにロベルティーネのほうへと向かう。


「あれはね、魔法の主導権を奪えるのよ。おわかり?妖精さん」

「本当に人間っていうのはすぐに調子に乗るものなのですね。少しお仕置きさせていただきますね」


 ロベルティーネは唱えた。


音鋭鎌クラングゼンゼ


 音魔法は物体として見られるものは少ない。

 飛ばすのは音であり、それを魔力によって凝縮して、相手を傷つけることができる。

 鞭も今の鎌もそうだ。

 誰にも見えぬ――しかし確かにそこにある刃が波のように白骨へと飛ぶ。

 白骨たちはなす術なく、無残にも人の形ではなくなり、ただの棒の集合体となった。

 それだけでは止まらず、無形の刃がアリアスを襲う。

 威力が弱まっているが、それでも危険にかわりははない。


土壁エーアデヴァント!」


 咄嗟に唱えた魔法を軽々と噴砂いする。


「くッッ……!」


 白骨と壁を乗り越え届いた攻撃が、アリアスを掠った。

 頬や手首近くから鮮やかな血が流れだす。


「口だけだったわね。あれだけ消費して使った魔法も不発だったみたいだし?」


 ただ俯いていた。

 表情は見えない。

 ロイは愕然としていた。

 アリアスですら歯が立たない奴がいるのかと。


「おにいちゃん、おねえちゃん、もう終わり?」


 リーナのあどけない声ですら恐怖の対象になっていた。

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