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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第二章
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七十一話 音属性

 二人は親子みたいだ。

 ロベルティーネと呼ばれた女性、っていうか女精は少女であるリーナの頭を撫でている。

 ここが戦場であるのを忘れてしまいそうだ。


「違う。そっちが勝手に攻撃してきただけだ」

「あら、そうなの。ごめんなさいね。では死んでいただけるかしら?」

「えぇ、おかしくない!?」


 精にまともな奴はいないのか?


「だってリーナが攻撃したわけでしょう?それなら貴方達がなにかしたに決まっています」

「どういう理論で言ってんだ!?」

「リーナの敵に変わりはありません」


 話になんねぇ、とロイは諦めた。

 なあ、アリアスと横を向いたとき、信じられないといった表情を浮かべている。


「あんた、誰としゃべってるの……?」


 そうか、と今更気づいた。

 見えていないのだ、アリアスにロベルティーネのことが。

 なんて説明しようか。


「あ~、まあ、精かな?」


 あながち間違ってはいないだろう。


「いつからそんな能力に目覚めたのよ」


 今はそんな話している場合じゃない気がして、切り上げる。


「ああもう、後で話す」

「はぁ!?もうわけわかんない」

「俺もだ」


 前々から説明しとけばよかったかなと後悔。


「お話しは終わりましたか?」

「おう。で、こっちの話はどこまで進んだ?」

「貴方達とは敵に変わりはないということです」


 ロイは頷いたが、一つだけ訂正した。


「ただ、女の子とは戦えねぇ」

「どういうことですの?」

「なんでもねぇ、ただの信念だ」

「その信念で苦労したのまだ覚えてるから」


 その節は申し訳ないと思いました。

 ただそれに付き合ってくれるのがアリアスだ。


「信念をお持ちなのは誠に素晴らしいとは思いますが、私たちはだからといって手は抜きませんよ」

「わかってる」

「ではどのように私たちと渡り合うというのですか?」


 このレベル、それも魔遺物ツァオベライユーバーレスト所持者と渡り合えるかわからない。

 しかロイがしようとしていることはより難しいことだ。

 相手を傷つけないよう戦う。

 圧倒的実力差がなければ成しえない。

 二対一ではあるが、アリアスはサポートであるため、実質一対一である。


「もちろん時間切れまで粘るさ」


 戦いの規約。

 二度目の花火が上がった瞬間に一切の先頭を禁ずるもの。

 そこまでいけば勝ちである。


「なるほど。ではこうして話しているのも策にはまっている、ということですね?」

「そうだ」

「リーナ、始める?」


 大きい声で、はっきりと。


「うん!」


 と、頷いた。


「……今どうなってんの?」

「殺しにくるらしい」

「あんた交渉してたんじゃないの!?」

「だとしたら失敗だ」


 横でカッカしているが、今は触れないでおこう。


「もちろん、全力でいかせてもらいますわ」

「当たり前だ」


 懐からソードブレイカーを取り出した。


「前から思ってたけど刃丸出しで入れてるの?」

「いや、内に鞘があるぞ」

「へぇ、でも外にある方が動きやすくない?」

「……人の勝手だ」


 そんな哀れみ+あっ、こいつバカだ感の目が辛い。


「おにいちゃんはかんたんにはしなないよね?」


 地面に突き刺してあった剣をひょいと持ち上げる。

 魔遺物ツァオベライユーバーレストだからといってあそこまで軽いのか。

 しかし土壁を容易に砕いた破壊力がある。

 底知れぬ怖さを持った物だ。


「ほら、いくよ。音波鞭シャルパイツェ


 それは突然に来た。

 目に見える前兆はなく、ロイは飛ばされた。

 まるでなにかに薙ぎ払われたかのように。


「だめだよ~それぐらいよけないと~」


 リーナは笑った。


「どうなってんだ」


 身体へのダメージはそれほどない。

 ただ飛ばされただけだ。

 その所為で三人で三角形を作る形になった。


「じゃあつぎはこれ。魂の悲鳴ゼーリッシュシュライ


 立ち上がろうとしたとき、急にがくっと膝を付いてしまった。

 それはロイだけでなく、アリアスも膝から崩れ落ちた。

 心臓の鼓動が早くなる。

 それほど動いてもいないのに息切れしていた。


「な、なんだこれ……!?」

「これつかえるばしょがひろいけどいっぱいまりょくつかっちゃうね」


 まだ範囲を指定できるほどの能力はないらしい。

 でもまだロイより年下でここまで使えるとなると話は別だ。


「あれ、音属性……?」


 アリアスは気づいた。


「そーだよ。おねえちゃんよくしっているね~」

「あぁ~最悪」


 すこぶる不機嫌に言った。


「私学校で唯一あの属性に負けたのよね」

「そんなに強いのか?」

「強いっていうか、対処の仕方が少ないの」


 魔法にはそれぞれ対となる存在の魔法がある。

 しかし音属性にはそれがない。

 弱点である魔法がないのだ。

 無属性と違うのは誰にでも扱うことができない点、戦う可能性が低いため対応が確立されていない点だ。


「で、今あいつが使った魔法はなんなんだ?」

「他人の、魂を、強制的に、負に、って、なんであんた、普通に、話せるの?」


 苦しそうに話しているアリアスとは対照的に、ロイはいつもと変わらない様子だ。


「まあ、つまり俺が天才だってことだ」

「呑気ね……」


 笑って見せたが、辛そうだ。


「これか解除とかできないのか?」

「できないよ。これむずかしいまほうだからね」


 声を大にして否定した。


「随分嘗めてくれるじゃない……ちょっと本気出しちゃおうかしら!」


 立ち上がって詠唱した。


精霊の拒絶シュピーリトゥスヴァイゲルング


 アリアスの周りを白色の煙のようなものが包み込んだ。

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