六十九話 戦い当日
戦いの日当日。
ロイとアリアスを含むすべての兵がグレゴールの元、兵舎で一番広い場所へと集合していた。
グレゴールは皆の前で演説でもするように話している。
着ている鎧はロイたちが戦った時と同じものだ。
ピカピカに磨かれており、それは微かながらに光沢するほどだ。
「いいか、今日我々は勝利を手にする。それだけだ」
どこのリーダーも戦う前とかは士気が上がる言葉をかけるんだな。
「では共に行こう!」
おおっ!という全員の返事。
そしてグレゴールに続きぞろぞろと歩き始める。
どれもしっかりとした足取りで、凛々しい顔の者、愉快に笑う者、真剣な表情の者様々だ。
それはロイ、アリアスとて例外ではない。
「そういやこれが初めてだね」
「なにが?」
戦うのが初めてではないはずだ。
「正式に兵として行くってのが」
「そうだな。前は治療とかいう名目だったからな」
それにアリアスは初めてだろう。
前は来ただけで、戦場で魔法は使っていない。
「これが兵って感覚……なのかな?」
問いかけにロイは答えた。
「確かにちょっと違うよな。なんてゆーか」
うーんとロイは相応しい言葉を探すが、なかなか見つからない。
「あ~、わかる。あれだよね、あれ」
アリアスも気持ちの面ではわかっているようだ。
話し声につられるようにグレゴールが歩み寄ってきた。
「もう少し緊張やらしているかと心配していたが……大丈夫そうだな」
「グレゴールより強い奴なんてそうそういねぇからな」
ふふっとグレゴールは笑った。
「その余裕みたいなのがムカつく」
ロ位は口を曲げて言った。
「すまないな。つい。さあ、二人もついてきてくれ」
「おう」
ロイたちも兵舎を出て、戦場へと向かった。
戦地であるライムント平原。
草が鬱蒼生い茂る普段人気のないその場所が、今はさっきだった二つの兵の軍で埋まっている。
始まりの合図の花火が上がるまであと少し。
周りの緊張は高まる一方であったが、その中でも気にしない者がいた。
「眠くなってきた」
「……あんたらしいわ。叩いたら眠気飛ぶかしら?」
「あれぇ!?急に眠気がなくなってすっきりしてきたぞ!?」
戦いの前だとは感じさせない明るい声で言った。
銃を肩にかけて、それに精がアリアスとは逆にふわふわ浮いている。
もちろんアリアスには見えていない。
持ち主にしか見えないからだ。
「ホントにあれでいいのね?」
ロイにはいい加減しつこいように感じる。
(いいんだよ)
クロエに何か言うときは気を付けて話すようにしている。
そうでないとどこからか粗を見つけて文句を言ってくるからだ。
今回もめんどくさい感をできるだけ消して話した。
「そう。……ならいいんだけど」
その言葉の中に寂しさか、怒りか。
ともかく負の感情があったのは確かだ。
それがなんなのか、ロイにはわからない。
(心配ない。なんやかんやで生きて帰ってくるさ)
笑い飛ばすように言った。
ロイはそうやれば少しはクロエが明るくなると思ったからだ。
「そんなの当り前よっ!」
……怒られてしまった。
どうしたものか、と思うロイ。
(そうだな。当たり前だな)
「だからあたしがいいたいのは」
クロエの言葉をかき消して、始まりを告げる花火が上がった。
「おし、行くぞ」
ロ位は二人に言った。
「……もういいわ」
クロエは諦めてロイについていった。




