六十八話 アリアスの心
話も出尽くしたころ、辺りは夕暮れに包まれていた。
二人はパウロの家で、ごちそうになったりして過ごしていた。
「そろそろいい時間だな」
「ああ、よければまた来てくれ」
「またルーツィエに寄った時はくるぜ」
「おう」
いつしかロイとパウロはいい友になっていた。
椅子から立ち上がり、握手をしている。
アリアスはそれを見て、嬉しいような、だけど自分が置いて行かれているような気分になった。
自分にそんな人がいるだろうか?
いた記憶はあまりない。
学校の時も人と話すのがなんとなく嫌というか、苦手というか。
それでもやっていけたのは隣にロイがいたからかもしれない。
普段は頼りにならなくて、それでもいざとなったら……頼りになったことあったっけ?
まあなんやかんやで隣にいてくれた。
いえばいい奴、だ。
だからそんな数少ない自分にとってのいい奴が、自分以外と楽しそうにしていると寂しく感じる。
「じゃあな」
そう言ったロイの言葉で我に返った。
ロイは三人に手を振っている。
目の前には、律儀に席を立って別れの挨拶をするパウロにアンネッテ、仏頂面ですわったままのヴェルナーがいる。
パウロは扉を開けた。
小さいところまで気が配ることができているとアリアスは思う。
本当に人を騙して偽物の勇者をしていたとは思えない。
「いやぁ、食った食った」
帰り道にロイは呟くように言った。
夕暮れはこの閑静なる国を鮮やかに照らしている。
全てを黄昏が包み込む。
「そうね。おいしかったね」
兵舎では味わえない庶民的な食事を出してもらった。
ロイ以外の人と話しながら食べたのは久しぶりに感じられる。
そのときに多少はうちとけはしたものの、ロイまではいかなかった。
自分には変に壁を作ってしまう。
ではなぜラーシャのときは簡単にうちとけられたのだろう、不思議だ。
「アリアス?」
と物思いにふけっていたアリアスを現実に戻させた。
「ん?なに?」
いけないな、と思う。
今日はぼーっとしてばかりだ。
明後日には戦いが控えているというのに。
「一つ頼みがあるんだけど……」
ロイは改まって言った。
珍しいことだ。
なにか重要なことがあるのだろうか。
「戦いのときさ、俺のサポートをしてくれないか?」
サポート?具体的にはどのようにすればいいのだろう。
「いや、この前二人で戦ったじゃん?あんときから思ってたんだ。そっちの方がいいかなって」
なぜかちょっといつもより早口だった。
「そう?私は別にいいけど」
「よかった。じゃあそういうことで!」
機嫌がよさそうだ。
なぜ提案したかはわからないけど、それぐらいならいいだろうと了承した。
「あのときそんな噛みあってた?」
興味本位で聞いて見た。
「そりゃもうバッチリだったぜ!」
「そ、そう……」
押し切られるような形だ。
言うほどだったっけと思う。
けどロイが言ってるならいいかな。
帰路は随分騒がしいものとなった。
兵舎に着くころにはほとんど真っ暗だった。
中は等間隔で蝋燭が壁に掛けられているため歩くには不自由ない。
壁は赤煉瓦が使われており、丈夫な建物だ。
二人は真っ直ぐ部屋へ帰り、今扉の目の前にいる。
ロイが開けて中に入る。
「さて、……することないな」
「そうね」
疲れることもしていないため、眠くはない。
が、娯楽も特にない。
余った時間がゆっくり過ぎる。
時々外で鳴る風の音が静かさを物語っている。
「こうして二人でいるのも学校以来よね」
「確かにそうだな」
学校に通っていた時は、同じ家で暮らしていた。
二人はそれを思い出すかのように笑い合った。




