表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第二章
70/149

六十八話 アリアスの心

 話も出尽くしたころ、辺りは夕暮れに包まれていた。

 二人はパウロの家で、ごちそうになったりして過ごしていた。


「そろそろいい時間だな」

「ああ、よければまた来てくれ」

「またルーツィエに寄った時はくるぜ」

「おう」


 いつしかロイとパウロはいい友になっていた。

 椅子から立ち上がり、握手をしている。

 アリアスはそれを見て、嬉しいような、だけど自分が置いて行かれているような気分になった。

 自分にそんな人がいるだろうか?

 いた記憶はあまりない。

 学校の時も人と話すのがなんとなく嫌というか、苦手というか。

 それでもやっていけたのは隣にロイがいたからかもしれない。

 普段は頼りにならなくて、それでもいざとなったら……頼りになったことあったっけ?

 まあなんやかんやで隣にいてくれた。

 いえばいい奴、だ。

 だからそんな数少ない自分にとってのいい奴が、自分以外と楽しそうにしていると寂しく感じる。


「じゃあな」


 そう言ったロイの言葉で我に返った。

 ロイは三人に手を振っている。

 目の前には、律儀に席を立って別れの挨拶をするパウロにアンネッテ、仏頂面ですわったままのヴェルナーがいる。

 パウロは扉を開けた。

 小さいところまで気が配ることができているとアリアスは思う。

 本当に人を騙して偽物の勇者をしていたとは思えない。


「いやぁ、食った食った」


 帰り道にロイは呟くように言った。

 夕暮れはこの閑静なる国を鮮やかに照らしている。

 全てを黄昏が包み込む。


「そうね。おいしかったね」


 兵舎では味わえない庶民的な食事を出してもらった。

 ロイ以外の人と話しながら食べたのは久しぶりに感じられる。

 そのときに多少はうちとけはしたものの、ロイまではいかなかった。

 自分には変に壁を作ってしまう。

 ではなぜラーシャのときは簡単にうちとけられたのだろう、不思議だ。


「アリアス?」


 と物思いにふけっていたアリアスを現実に戻させた。


「ん?なに?」


 いけないな、と思う。

 今日はぼーっとしてばかりだ。

 明後日には戦いが控えているというのに。


「一つ頼みがあるんだけど……」


 ロイは改まって言った。

 珍しいことだ。

 なにか重要なことがあるのだろうか。


「戦いのときさ、俺のサポートをしてくれないか?」


 サポート?具体的にはどのようにすればいいのだろう。


「いや、この前二人で戦ったじゃん?あんときから思ってたんだ。そっちの方がいいかなって」


 なぜかちょっといつもより早口だった。


「そう?私は別にいいけど」

「よかった。じゃあそういうことで!」


 機嫌がよさそうだ。

 なぜ提案したかはわからないけど、それぐらいならいいだろうと了承した。


「あのときそんな噛みあってた?」


 興味本位で聞いて見た。


「そりゃもうバッチリだったぜ!」

「そ、そう……」


 押し切られるような形だ。

 言うほどだったっけと思う。

 けどロイが言ってるならいいかな。

 帰路は随分騒がしいものとなった。


 兵舎に着くころにはほとんど真っ暗だった。

 中は等間隔で蝋燭が壁に掛けられているため歩くには不自由ない。

 壁は赤煉瓦が使われており、丈夫な建物だ。

 二人は真っ直ぐ部屋へ帰り、今扉の目の前にいる。

 ロイが開けて中に入る。


「さて、……することないな」

「そうね」


 疲れることもしていないため、眠くはない。

 が、娯楽も特にない。

 余った時間がゆっくり過ぎる。

 時々外で鳴る風の音が静かさを物語っている。


「こうして二人でいるのも学校以来よね」

「確かにそうだな」


 学校に通っていた時は、同じ家で暮らしていた。

 二人はそれを思い出すかのように笑い合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ